第38話 すべての罪は
なんで皆集まってるの? また宴会とかするの?
違う……
この人達の私を見る目は知っている。
それは私を蔑み、罵ったあの人達と同じ目だ……
「前に王都から使いが来ての。リーンがこの村に罪人を連れてくるかも知れんと言ってな。その時は捕らえておくように言われてのぅ」
「罪、人……ち、が……っ」
「お前さんはそんなに悪い事をしなさそうじゃが、人は見掛けによらんしの。それに、言う事を聞かんとこの村自体が潰される事になるんでの」
「えっ……」
「小さな子供をこの村で見んかったじゃろ? その子等も人質に取られてのぅ。ワシ等も、もうどうにもできんのじゃ」
「そん、な……」
「せめて最後は楽しく過ごさせてやりたくての。リーンに泊まるように言ってやったが、お前さんが抵抗すると、今度はリーンの身が危うくなるんじゃぞ?」
「なん、でっ! リーン、は!」
「関係ないよのぅ。じゃがの。お前さんと関わったからリーンの親も殺されたのじゃ」
「…………っ!」
「良い子達だったのにのぅ……リーンの親も幼い頃からよく知っておる。二人は幼馴染みでの。仲が良くてよく一緒に遊んでおったわぃ。いつしか互いに恋心が芽生えたんじゃのぅ。皆に祝福されて結婚し、リーンも生まれて幸せそうじゃった。生活は貧しかったがの。この村は団結力があって、皆が支え合って穏やかに幸せに暮らしておったんじゃ」
「お父さ……お母さ、ん……」
「それがこんな事になって……何をしたか知らんが、観念して捕まってくれんかのぅ。子供を返して欲しいんじゃ。これ以上ワシ等を巻き込まんでくれんかの」
知らないうちにこんな事になっていた……
お父さんとお母さんが殺された……!
それは私を助けたから……
私が逃げ出したから……っ!
村長さんは説得するように私に話し掛けてくれているけど、後ろにいる村人達は、私を憎むような目で見たり蔑むように見たりしていた。
自分の子供を取り上げられたら、その原因となる人物にはそうなるのは当然だろう。
この人達を退ける事は容易い。結界を張り、村から出られないようにして逃げ出すのは簡単な事だ。
でもそうしたら人質になった子供達は? リーンはどうなるの? 逃げたとして、どこにいけば良いの? これ以上私に何が出来るの?
震える体でどうする事も出来ずにいると、村人の一人が私を拘束しにきた。
後ろ手にされ手首に縄で縛られる。こんな事しなくても抵抗なんかしないよ……
下を向いたまま、何も言えずにいると、そのまま村長さんの家に連れていかれ、納戸に押し込まれて施錠された。
そこは窓もなく物置に使われていた場所で、小さな蝋燭が一つ仄かに辺りを照しているだけだった。
あぁ……またこんな薄暗い場所に閉じ込められた……
やっぱり安全だったのはリーンの傍だけだった。リーンから離れたら、私はやっぱりこうなっちゃうんだよ。でももう逃げ出しちゃダメだ。私が関わる事で余計な禍が降りかかる。きっと、皆良い人なんだ。お父さんもお母さんも良い人達だった。それにリーンも……
お父さん、お母さん……ごめんなさい。私が関わったから……私を助けたりなんかしたから……
お父さんの豪快な笑い声が好きだった。
お母さんの優しい声に癒された。
二人が醸し出す空気が心地よくて、本当の親子になれたんじゃないかと、あの時は信じて疑わなかったんだ。
リーン……貴方から両親を奪ってしまってごめんなさい……
貴方には色んなモノを貰って、人としての生活や知識、暖かい感情を教えてくれて……なのに私がもたらした事は最悪な事で……
泣いても悔やんでもどうにもならない。何も出来ない。私が不幸を呼び込むだけ……
私に泣く権利なんてないのに、涙は止まることなく溢れだして、でもそれを拭う事すら出来なくて、義手を拘束されたまま私は一人部屋の隅で踞るしかなかった。
暫くそうしていると扉がガチャガチャと鳴って、バァンって勢いよく開け放たれた。
そこには見知った人がいた。
「久し振りだな。会いたかったぞ」
「……っ!」
それは神殿にいた人達だった。私を実験と称していたぶり、脚を、腕を奪って行った人達……!
その顔を見たらあの時の恐怖がまた湧いてきて、身体中の震えが止まらなくなってきた……!
「そんな小綺麗な格好すればちょっとは見れるようになるんだな。ま、意味はないがな。さぁ帰ろう。私達がまたお前を可愛がってやるからな」
「い、や……」
「ん? なんだ? 声が出るようになったのか? ……違うか……魔力を這わして喋っているのか。器用にするもんだな。そんな事より他に力を使えよ。人々の為に、な」
無理矢理に立たされて、強引に納戸から連れ出された。抵抗なんて出来ない。そうしたらこの村が……この村の子供達が……それにリーンが……!
村長さんの家を出ると、その様子を村人達が見ていて、
「これで子供達を返してくださいますよね?!」
って、神殿の人達と一緒に来ていた騎士に訴えていた。
そうじゃないと困る。せめてここの人達にはもうこれ以上悪い事は起こさせないで……
連れ去られる前に、この村に結界を張っておいた。この村に害意のある者が近づくと弾かれるように。
こんな事しか出来なかったけど、それがせめてもの償いだった。
縄で縛られたまま歩かされ、村を少し出た所で一人が大きめな魔石を取り出した。その人に腕を掴まれ、皆がその人に触れたところで魔力を這わせたのか、石は眩く光だした。
眩しくなって目を閉じて、光が消えたようだったから目をゆっくり開けると、そこは綺麗な部屋の一室だった。
辺りをキョロキョロ見て、ここは何処かと確認する。
前に来たことがあったように感じる……
あぁ、そうか……王城の一室か……
幼い頃初めて王城に来た時に連れてこられた場所だ……
そう気づいた時、重厚な扉がガチャリと音を立てて開いて男の人が入って来た。
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