第35話 想えば想うほど
朝食を終えてから、リーンと二人で街を歩いた。
真夜中に広場の木に髪をこっそり置いたから、澱んでいた空気が少しずつ浄化されているように思う。人々の表情も優しくなったように感じる。良かった。
辺りをキョロキョロ見渡して街と人々の様子を伺いながら、リーンに渡したい物が売ってそうな店も一緒に探す。
こうやって二人で何気なく歩いているだけでも楽しい。リーンの持つ空気感が好き。話してなくても、傍にいられるだけで安心する。
嬉々として歩いていると、とある雑貨屋が目に入った。そこはカフェと併設されてあって、買い物に付き添う男の人が待つ場所としても人気だったようだ。だから一人でカフェにいるのは殆どが男の人だった。
そこでリーンに待ってて貰い、私は贈るものを物色する事にする。
ここは生活に必要な雑貨もあったけど、御守りやアクセサリーや魔道具も売っていて、デザインも豊富で見ているだけでも楽しめる。
色とりどりのアクセサリーに目を奪われ、あれはリーンに似合うかな、とか、これは好きそうかも、とか考えながら店中をくまなく歩いていく。
こうやって買う物を探すなんて事は初めてで、何だか凄く楽しくてワクワクする。贈りたい人がいて、それを悩んで物を探すって、なんて幸せな事なんだろう。
時々リーンがいなくなっていないか心配になって様子を見ると、リーンも私の様子を伺っているようで目が合って、それが凄く嬉しくて手を振ってリーンに笑顔で答える。
こう言うのって、なんかいいな……
贈る物は、身に付けられる物がいい。リーンを守ってくれる物。私の事を忘れないでいてくれる物……
リーンの髪色は黒に近い紫で、瞳は澄んだ紫だ。凄く綺麗で、私はその瞳にいつも見惚れてしまう。そんなリーンの瞳の色と同じ石が飾られてある首飾りを見付けた。
白銀のキラキラ光る鎖が綺麗で、その先にはリーンの瞳の色の紫の石が美しく輝く首飾りだった。
「それはロケットになっているんですよ」
突然店員の女の子に話し掛けられてビクッとしてしまったけれど、その子が言った事が私にはよく分からなかった。
「ろけっと……?」
「えぇ。この部分、紫の石が飾られている所がそうなんです。ほら、こうやって開けられて、中に何か入れたり出来るんですよ」
「わぁ……!」
「恋人に贈るのであればここにね、絵師に描かせた自分の絵を入れるんです。その絵師もうちにいますから、お時間があれば描くことは可能ですよ?」
「時間……」
「お急ぎですか? まぁ、少し込み合ってますから、お渡しは明日の昼頃になってしまいますが……」
「なら……いい」
「そうですか……あ、でも、中に何か思い出の品を入れて贈ったりしても良いですものね。こちらは装飾されている石がアメジストっていう石でして、真実の愛を守り抜くって言われる石でもあるんですよ。心を穏やかにしてくれて、ストレスなんかも祓ってくれるのだとか。この白銀の鎖も、不安とか悲しみを取り除く効果があると言われています。少し高価にはなるんですが、いかがでしょうか?」
「これ、が良い……」
「ありがとうございます!」
「これ、で、足りる、かな?」
「充分です!」
私がリーンから渡されたお金を店員の女の子に手渡すと、ニコニコして
「お包み致しますね!」
と言って店の奥へ行った。
少ししてから戻ってきた店員の女の子は、紙包みとお金を持ってきた。お金を渡したのに、またお金を貰った事がなんだか不思議だった。よく分からないけど取り敢えず受け取って、紙包みは異空間に収納しておく事にした。
「ありがとうございました! 白銀の鎖は貴方の髪色と同じですから、きっとそれを贈られた方は喜ばれると思いますよ!」
「ん!」
ニッコリ笑う店員の女の子に、私も同じようにして笑顔を返すと、顔を赤らめて下を向いてしまった。何故だろう?
良い物が買えて嬉しくなって、リーンの待つカフェの席に着くと、リーンがここには美味しいスイーツがあるって教えてくれた。
それを頼んでくれて、どんなだろうって思って待っていたら少しして運ばれてきて、それはパンケーキって言う物で、果物や白いフワフワしたクリームが乗ってあってソースもかかってあって、見た目が凄く綺麗だし、なんだか可愛く見えて、ビックリしながら色んな角度からその造形を確認してしまった。
食べてみると凄く柔らかくて甘くて、添えられた果物の酸っぱさと甘味が口の中で良い感じで混ざりあって、とっても美味しかった!
こんな食べ物があったなんて……!
リーンと一緒にいたら、色んな事が経験できる。知らなかった事を知っていくのが凄く嬉しい。
なのにどうして一緒にいちゃいけないの?
なんて、理由分かってる。全ては私の為を思ってのこと。だから仕方ない。でも……
幸せを感じれば感じるほどに、リーンとの別れはきっと辛くなる。それは分かっているけれど、募る想いは止められない。幸せを噛み締める事を止められない……
カフェを出て、リーンはギルドに行こうと言い出した。稼がないとなって言ってたけど、私がお金を使っちゃったからかな、と思うと申し訳なくなってしまった。
ギルドの依頼は朝早くに受ける人が多くって、昼前に行った頃には張り出された依頼書の数はやっぱり少なかった。
私は字が読めないから眺めるしか出来ないけれど。
依頼書が張り出されている掲示板をリーンは見ていて、私はその横にある伝達事項が張り出されている掲示板を眺めていた。
そこにあった一枚の伝達事を見て、私は心臓が止まるかと思う程に動揺してしまった。
そこには私の似顔絵らしき物が描かれていて、それは手足のない人物画だった。
その時に私の後ろで話す人の声が耳に届く。
「あれ、罪人だってな」
「手足のないヤツなんてそうだろう?」
「けど、どうやって逃げたんだ?」
「仲間がいたんじゃねぇのか?」
「ならそいつも同罪だな」
「こんな王都から離れたここにもこうやって張り出されてんなら、よっぽど悪い事をした奴等なんだよ。懸賞金もすげぇな!」
「見付けたら一攫千金だぜ!」
それを聞いて、私は震えが止まらなくなった。
神殿にいたあの人達が私を諦める筈がなかった。こうやって色んな街や村に私は罪人として張り出されているのかも知れない。
「リーン……リーン!」
「ん? どうした?」
「か、帰る……!」
「え?」
「早、く!」
「あ、あぁ、分かった」
良かった、リーンはこれに気づいてないようだ。
すぐにここから離れたくて、足早にギルドを出て宿屋に向かう。
お願いだから誰も私に気づかないで……!
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