孤独の幸福論 ~10日後に滅ぶ世界~

骨肉パワー

第1話

20××/01/01 晴れ


「...これからどうするかな」


新年早々、俺は一年間勤めていたバイトを辞めた。

今は自宅で何もせずに寝転がっている。

そう、まったく何もやる気にならないのだ。


使い古したベッドの上ででポジションを変えながら、俺は手元の預金通帳を開いた。

通帳には100万円という金額が表示されている。

この一年間、俺が死に物狂いで稼いだ労働の結晶というやつだ。

これだけの金額があれば、しばらくは遊んで暮らせるだろう。


「何というか、予感がするんだよな。...もうすぐ世界は終わる」


他人が言ったならば正気を疑うような発言だが、この嫌な予感は実に1年前からずっと感じていた事だ。

予言とか、運命だとか、そんなあやふやな物ではない。

確実に全てが終わるという確信に近い何かが俺に警鐘を鳴らしていた。


「10日後に、全部終わる。...何もかも」


「※※※※※※」


キーンと、ひどい耳鳴りに襲われた。

...まずいな このままだとまた眠れなくなるぞ。

俺は瓶から睡眠薬を2つ取り出して、水で胃の中に流し込んだ。

僅かに感じた異物感の後、仄かな眠気がやって来た。


「...おやすみ~」


部屋の電気を消し、そのまま毛布を被る。

恐る恐る部屋の周囲を確認してみると、あの不快な声は聞こえなくなっていた。

緩やかに瞳の瞼が落ちていく。

今日はいい感じだ。これならあと1分もしない内に眠る事ができるだろう。

俺は明日への不安を押し殺しながら、夢の中に旅立った。



20××/01/02 晴れ


朝早くに目が覚めた。外はまだ暗く周りは静かだ。

時計の針は午前6:00を示していた。大体の人はまだ寝ている時間帯だろう。

ベッドから立ち上がり、俺はいつも服用している薬を飲む。

...ダメだ。気分が落ち着かない。

こんなときは、いつものアレをやろう。


「...俺の名前は夢見太郎。今年で22歳。現役の大学生」


「俺は大丈夫。...大丈夫だ」


それから4回ほど同じ言葉を繰り返して、ようやく俺の精神は落ち着いた。

よかった。これなら追加の薬は必要なさそうだ。

気分転換も兼ねて、外食にでも行こうかな?

貯金なら十分に蓄えてある。


「よし、行くか」


財布とスマホをポケットの中に入れて、俺は家から外に出た。



良さそうな蕎麦屋を見つけたので、早速入店してみた。

表の看板には6:00から営業と書かれていたので、問題ないだろう。


「いらっしゃいませ~」


気ダル気な声と共に、目の前に冷たい水が置かれた。

ゴクゴクと一気に飲み干す。

メニュー表を見てみると、どうやら朝限定のモーニングメニューというものがあるみたいだ。

通常価格よりも100円ほど安かったので、そのメニューを注文した。

...別に一番高いメニューを頼んでもよかったのだが、俺の心に染み付いた倹約精神がそれを許してくれなかった。

何というか、習慣というやつは簡単には変わらないという事を実感した気分だ。


「...モーニングセットです」


料理が運ばれてきた。普通の掛けそばに丼物が付いているという感じだ。

スルズルと麺を啜る。...うん、普通に美味しいな。


「...やっぱ何かを食べているときが一番幸せだな」


...幸せか。

幸福の定義というやつは色々とあるが、俺にとっては精神的な幸福という点に一番重きを置いている。


幸せというのは、心に余裕があるという事だ。


...そうだ。俺は今、間違いなく幸福を感じている。


「こんな気持ちになったのは久しぶりだな」


全ての料理を食べ終えて、俺は店を出た。

その後は近所のスーパーに寄り、消耗品や昼飯などを購入し帰宅した。

何というか、良い1日だったな。

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