堕落探偵と僕物語

日本一ソフトウェア

【前編】 『堕落探偵』

【堕落探偵と僕物語】作:城花健人


 駅前の繁華街から少し離れた場所に、妙な看板が掲げられた雑居ビルがある。


 街の景観にそぐわない青色の看板に『群青寺探偵事務所』の文字。

 自分が客なら、怪しいと感じて、絶対に近寄らないだろう。


 でも僕は、その雑居ビルの脇に設けられた入り口から中へと入って、階段を上がり、件の『群青寺探偵事務所』の扉の前に立った。


 何を隠そう、この如何にも怪しい探偵事務所は、僕――北條和都ほうじょう わとのアルバイト先だからだ。


「入りますよ、群青寺先生」


 扉をノックし、声をかけて、鉄製の扉を開いた。

 すると、いつも通り、酒くさいニオイがプンと漂ってきた。


「うげぇ……先生、また飲んだくれてるな……」


 鼻をつまみつつ事務所に足を踏み入れると、入り口近くにビール缶や酒瓶が大量に置かれているのが見えた。


 事務所の一番の奥のデスクに向かって、壁際にズラリと並べられたそれらは、まるで来訪者を出迎える宮廷の兵士たちのようだ。


 前回事務所に来てから僅か一週間。

 短期間でここまで兵士たちを充実させることができる、この国の主の堕落ぶりには、もはや呆れを通り越して、感心するしかない。


「先生、いないんですかー? 和都ですよー」


 通路を進む途中、つま先にコツンとビール缶が当たり、右に曲線を描くように床を転がってしまった。


 転がった先――通路を抜けて横へ入ったスペースには、来客と話す際に使うソファとテーブルがある。


 今は客もいないし空っぽのはず。

 そのはずなのに、そのソファの上に、事務所の主がいた。


 顔の上に置かれた競馬新聞から、ボサボサの青みがかった髪と、無精髭だらけのアゴが飛び出している。

 ヨレヨレのストライプシャツに、ゆるんだネクタイがかろうじて引っ掛かっているような状態。靴下も片方は脱ぎかけでみっともない。


 三十代も目前の大人だとは思えない、いや思いたくない格好で、僕の探偵としての先生――群青寺宗介ぐんじょうじ そうすけは眠っていた。


「先生、起きてください。今日はこのあと、来客があるんでしょう?」


「……んあ? ああ、和都……もう、学校が終わる時間か?」


「今日は日曜日ですけど」


「そうだったか……? ふわぁぁ、頭いってぇ……」


 競馬新聞を顔から持ち上げ、腹をボリボリと掻きながら、ゆっくりと群青寺先生が立ち上がる。


 僕より頭ひとつ大きな長身に、切れ長の鋭い目つき。

 相変わらず、黙って真剣な顔さえしていれば、頼りになりそうな外見だ。


 そう、黙って真剣な顔さえしてくれていれば。


「あと30分もしたらお客さんが来ちゃいます。空き瓶と空き缶、二人で片付けましょうよ」


「あー……」


 気の抜けた返事。

 まだ酔いが抜けきっていないようだ。

 この状態になったら、もう僕が一人で何とかするしかない。


 今抜けてきた通路の途中の入口から給湯室へと入って、冷蔵庫からペットボトルの緑茶を取り出して、コップに注ぐ。


 そのコップを来客用のテーブルの上に置くと、僕はいつも通り、鞄からエプロンと三角巾、マスクを取り出し、パパっと全部身につけた。


 これこそが僕の仕事着――掃除の準備完了だ。


「……よし、やるぞ!」


 それから三十分弱。

 何とか、事務所に散乱していたゴミを全て回収し、お酒のニオイが満ちていた空気も、すっかり換気できた。


 空き缶をまとめた袋をキュッと縛って、給湯室へと運ぶ。

 これで最低限、お客さんがいらっしゃっても、失礼には思われないだろう。


「また掃除の腕を上げたな、和都。師匠として鼻が高いぞ」


 白のシャツに着替えて無精髭を落とした群青寺先生が、シャワー室からのそのそと出てきた。


 容姿が整っていてかつ脚が長いこともあって、身なりを整えると、途端に優秀そうに見える。

 僕も弟子入するまでは、この外見に騙されていたから、故意犯に違いない。


 ヒトは外見で判断してはいけないという、いい例だ。


「おい。お前今、心の中で師匠のことを悪く言っていただろ」


「事実を述べていただけです」


「バカ野郎。俺に関する事実を述べたら、悪口になるだろうが」


「自覚があるなら変えてくださいよ!」


「そう簡単に変えられたら、『堕落探偵』なんて呼ばれちゃいねぇって」


 何故か誇らし気に笑う群青寺先生。


 これでも一応、探偵業界に興味のある者なら知らぬ者はいない国家公認の探偵組織『探偵同盟』の一員だというのだから、分からないものだ。


 まぁ本当に、優秀な時は優秀なんだけど。


「おっと、雑談はここまでだ。お客さんのお出ましだぞ」


 不意に扉を振り返って、群青寺先生がネクタイを素早く締め直した。


 恐らく階段を上がってくる足音を耳にしたのだろう。

 僕には足音など一切聞こえなかったけど、先生の耳は特別。

 先生曰く、「探偵ならこれくらいできて当然のこと」らしい。


 群青寺先生は無言で扉へと向かい、ノックが聞こえるよりも速く、扉を開いてみせる。


「ようこそ、群青寺探偵事務所へ」


 扉の前には、派手な金の装飾が入った紫のスーツ姿の、金色の髪の女性が立っていた。


 アクションを起こす前に扉が開いたことに驚いたのか、呆気にとられた様子で、目を白黒させている。


 これは群青寺先生の常套手段。

 最初の掴みで、来訪されるのではなく、こちらが迎え入れる形をとることで、交渉のペースを握るのが目的だそうだ。


 まぁ単に、壊れた扉のインターホンを直すお金がないだけかもしれないけど……。


「さぁ、六条さん。どうぞ我が事務所へお入りください」


「……ええ、お邪魔するわ」


 先生の先導の元、女性が事務所の中へと入り、来客用のソファに座る。


 換気されたばかりの室内に広がる、ちょっとキツめの香水の香り。

 六条と呼ばれた女性の年齢は、肌にハリがあって若々しく見えるけれど、目元のシワなどを見る限り、恐らくは40代くらいだろうか。

 もし僕の母さんが今も生きていたなら、彼女くらいの年齢かもしれない。


 テーブルを挟んで向かい合う六条さんと群青寺先生の、それぞれの前に湯気の立った湯呑を置くと、六条さんは依頼の内容について語り出す。


「事前に聞いているでしょう? 依頼はシンプルよ。私の大切な家族、オーちゃんを見つけ出してちょうだい」


 語りながら、女性がテーブルに一枚の写真を置いた。

 そこには、真っ白な毛がとても美しい、赤い首輪の犬が映っている。


 犬種はポメラニアンだろうか。

 一緒に映っている六条さんの顔と比較するに、胸で抱えられる程度の大きさだということが分かった。


「ご家族とはぐれたのは、この街の中で合っていますか?」


「ええ。近くに自然公園があるでしょう? あちらに散歩へ訪れた時に、リードが千切れてはぐれてしまったの。ピンクの可愛いドレスを着ているから、すぐに分かるはずだわ」


「……なるほど。はぐれられたのは、いつ頃のおはなしでしょうか?」


「一週間ほどの前の話よ。ああ……オーちゃんはきっと、お腹をすかせて、ママを恋しがっているに違いないわ……探偵さん、すぐに見つけ出してちょうだい」


「ご安心ください。我が事務所の総力を上げて、ご家族は早急に見つけ出してみせましょう」


 柔和な笑みでハキハキと応対する群青寺先生。

 つい三十分ほど前に、二日酔いで死にかけていたヒトと同一人物とは思えない。


 このオン・オフの切り替えの凄まじさは、いつ見ても芸術的だし、見習っていきたいと思う。


 それからしばらくの間、六条さんは愛犬『オーちゃん』に関して、お風呂は三日に一度入れるだとか、炙ったベーコンが好きだとか、あまり意味のなさそうな情報を語り続けると、満足した様子で事務所から帰っていった。


 給湯室の流し場で、ほとんどお茶が残ったままの湯呑を片付けていると、群青寺先生は僕の後ろへとやってきて、自分の湯呑のお茶を啜りながら語る。


「和都。今回の依頼、お前がやれ」


「え? 僕が? まさか、一人でですか?」


「ああ。探偵を志すお前には、ちょうどいい依頼だろう」


「ちょうどいい、って……」


 ペット探しのどこがちょうどいいのだろうか。

 仕事を押し付けられているようにしか思えない。


 腑に落ちずにいると、飲み終えた湯呑を横から流し場に置いて、群青寺先生は更に語る。


「今のお前には分からんだろうが、ペット探しってのは探偵の基本が詰まってるんだよ。ツベコベ言わずにやってみろって」


「どんな基本が詰まってるって言うんです?」


「そりゃあ、お前……色々だよ」


「たとえば?」


「色々っつったら色々だ! まぁ、いいからやれ。ダメならダメで、俺が責任をとってやるから」


 そう語る群青寺先生の手には、本日開催のレースが大きく取り上げられた競馬新聞が握られている。


 それで色々と察した。

 ――このヒト、依頼よりもギャンブルを優先するつもりなんだ。

 本当に、大変な探偵の弟子になってしまったものだって、もう何度目になるか分からない後悔をしてしまう。


「……そんなに言うなら、がんばってみますよ。群青寺先生は適当なことばかり言いますけど、ウソはつきませんからね」


「流石は俺の弟子! じゃあ、まかせたからな! 俺も今から仕事に入る……半日ほど集中をしてるけど、用があればスマホに連絡しろ!」


 そう言って給湯室から出ていった群青寺先生はその後、事務所奥のデスクに座り、イヤホンをつけて、真剣な面持ちでPC画面を見つめ始めた。


 一見すれば、難事件の推理でもしているように見える。

 でも、先生の背後の窓にはしっかりと、PC画面の『姫皇賞(春)の有力馬特集!』という文字が映っていて。


 「やっぱり競馬ですか!」とツッコみたくなる気持ちを懸命にこらえつつ、僕はまだ香水の香りが残る事務所を出発するのだった。


        ◆


 事務所を出て少し歩いた先にある、木々と芝生の美しい自然公園。

 依頼主の六条さんがペットとはぐれたという現場に訪れ、捜索を開始した。


 ――まずは現場を徹底的に調べろ。それが探偵の基本だ。

 いつか群青寺先生に、そのようなことを言われた覚えがある。


 群青寺先生のようにスマートにはいかないけれど、ひとまず手当り次第に、現場の捜索から始めてみることにした。


 しかし、捜索開始から数時間。

 成果が何も出ない状態が続いたところで、弱気が顔を出し始める。


 捜索開始時には東側に位置していた太陽が、西に傾き出した。

 普段から身につけている学ランも、全身の汗ですっかり湿り気味。

 やっぱり闇雲に調べるだけではダメなのか、と今更ながらに自分の浅はかさを後悔してしまう。


 そこでタイミングよく、スマホに群青寺先生から着信があった。


「おう、和都。ド真面目なお前のことだから、そろそろ行き詰まっているんじゃないかと思って、電話してみたぞ」


「せ、先生……」


「おっ、その疲れた声。バカ正直に、犬とはぐれた場所を探し回ったな? どうだ、ペット探しってのも、なかなか大変なものだろう?」


「……先生は、超能力者か何かですか?」


「逆だ、逆。何もねぇ俺だからこそ、ヒトをよーく見ちまうんだよ」


 愉しげに声を出して笑ったあと、群青寺先生は僕を諭すように告げる。


「アドバイスしてやる。もっと視野を広げて、その公園にいるパンピーたちに手当り次第、声をかけてみろ。少しは進展するかもしれんぜ」


「声をかける? 意味あるんですか?」


「さて、それはどうだかな。でもまぁ、お前一人で気張るよりかは進展があるだろ? おっと、次のレースが始まっちまうから、またあとでな」


 通話終了。

 もはや競馬に夢中なのを隠す気もない先生に呆れつつも、言われた通りにする。


 それまでぼんやりと見渡していた周囲を、歩いているヒトたちに絞って眺めてみた。


 すると、このだだっ広い芝生には、家族連れやカップル、犬を散歩させる人々まで、多くのヒトがいることに気付いた。


「全体を見ている気で……僕は全然見れていなかったんだな」


 先生が言っていた「視野を広げてみろ」という言葉の意味を、何となく理解できた。


 次の問題は、誰に話を聞くかだ。

 先生は手当り次第にと言っていたけど、闇雲に聞いたところで時間を浪費するだけ。


 この公園の中で、有力な情報を聞けそうなのは誰だろうか。

 オーちゃんが消えたのは一週間前だから、今日久しぶりに訪れたヒトへ聞き取り調査をしても、意味がない。

 カップルや夫婦は選択肢から外れる。

 話を聞くなら――


「――そうか。依頼主の六条さんと同じ、ペットの散歩に来ているヒトだ」


 気付くが早いか、僕は通りがかったペット連れのヒトたちに手当り次第、話を聞き始めた。


 柴犬を散歩するおじいさん。長いリードでダックスフンドを自由に走らせるお姉さん。コーギーと併走するようにジョギング中の、スポーツウェアのお兄さん。


 大勢に白いポメラニアンの目撃情報を訊ねてみたものの、いい返事はもらえなかった。


 でも声をかけた人数が二十人を超え、日も傾き始めた頃――


「白いポメラニアン? ああ、六条さんのところのオーちゃんだろう?」


「知ってるんですか!?」


 とうとう、シベリアンハスキーを連れて歩いていたおじいさんから、目撃情報を聞くことができた。


「まぁ目立つヒトだからねぇ。それで、どうしたの? まさか、迷子にでもなった?」


「ええ、実はその通りで……」


 ことの事情を話すと、おじいさんは苦々しげな顔で語る。


「そうか……この辺りではぐれたっていうのは、不運かもしれないねぇ」


「え? それは、どうしてですか?」


「この自然公園には野犬が棲んでいるんだよ。住宅街の方に逃げたなら、すぐに保護されているだろうし、見つからないとなると……」


「そんな……」


 悲しげな六条さんの顔が脳裏をよぎる。

 はぐれただけでも、かなり思いつめた顔をしていたのに。

 もしオーちゃんが死んでいたら、どれほど悲しむだろうか。


 見習いとは言え、探偵を目指す者として、依頼人のそんな顔は見たくない。

 一日でも早く、消息を突き止めてあげないと――。


「野犬が棲んでいるのって、この公園の中にあるんでしょうか?」


「あー、それはどうだかなぁ。私も野犬については、ウワサでしか聞いたことがないからねえ」


 僕も野犬なんて話では聞いたことはあっても、実際に目にしたことはない。


 もし探しているペットが行方知れずになっていることに野犬が関わりがあったとして、この広い自然公園の中から、居場所を探し当てることなんて無理に思えた。


「……ありがとうございます。参考になりました」


 おじいさんに頭を下げてお礼を言うと、当てもないまま公園内の散策を始める。


 群青寺先生は「探偵の基本が詰まっている」と言っていたんだ。

 今はその言葉を信じて、ひたすら探し続ける他ない。

 そう自分に言い聞かせて、だだっ広い公園内を歩き回り、公園の周囲に広がる林の中を片っ端から探し続けた。


 しかし数時間続けても成果はなし。

 月明かり以外の光源が消え失せた中、林の中の一際大きな木に背中を預けて、乱れた呼吸を整える。草木の香りに湿気ったニオイが混ざっていて、今夜あたり一雨来る予感がした。


 正直ツラい。

 ペット探しがここまで過酷だとは思わなかった。


 そもそもペットの行き先なんて、人間と違ってどこにだって棲めるし、同じ寝床に留まるとも限らない。

 見つけ出す手がかりがどうしたって乏しくなるんだ。


 できることと言えば、僕が今しているように、虱潰しに探して回る程度。

 こんな途方もない仕事のどこに、探偵の基本が詰まっているって言うんだろう。


 ――その時、スマホの着信音が鳴った。

 電話をかけてきた相手は群青寺先生。

 地獄に垂れてきた蜘蛛の糸へとすがるみたいに、僕は素早く電話に出た。


「はい、和都です。群青寺先生ですか?」


「はは、嬉しそうな声を出しやがって。途方に暮れたところに助け舟が来た、ってところか?」


「……はい。正直言って、舐めていました。僕にはこの仕事は荷が重かったみたいです、助けてください」


「おっと。悪いけど、俺は助けてやれねぇな」


「え?」


 素っ気ないに返答に聞き返してしまった。


「た、助けるために電話をくれたんじゃないんですか!?」


「ただの進捗確認の電話だ。一度引き受けた仕事なんだから、どういう形であれやり遂げてみろ。話はそれからだ」


「でも……」


 もうコレ以上は探しようがない。

 そもそも僕には目立った特技も才能もないワケで。

 この状況をどうすれば一人で打開できるのか、見当もつかなかった。


「僕一人で、何ができるって言うんですか……」


「バカ野郎。一人でできることに限界があるのは、誰だって同じだろうが」


 電話口から聞こえる群青寺先生の声が、いつになく真剣となった。



「いいか? そもそも人間なんてのは、道具を使うことに慣れすぎて発達してきた身体能力を退化させたような生き物だ。周囲にあるものは何でも利用して当たり前。自分の肉体ひとつで生きられる作りにはなってねえんだよ」


「じゃ、じゃあペットを探す道具でも使えって言うんですか? そんな便利なものがあるなら、誰だって使いますよ」


「分かってねえなぁ。使えるのは、目に見える道具だけじゃないだろう? もっと他に使える、便利な何かを考えてみろ。もし目当てのワンころが近くにいたとして、その居場所を一番知っていそうなのは、果たしてどいつだ?」


 それだけ言うと、本当に電話は切れてしまった。

 木に背中を預けたまま、枝葉の隙間から見える三日月を、呆然と眺める。


「使えるのは目に見える道具だけじゃない、って……他に何が使えるって言うんですか」


 居場所を知る人がいないから苦労しているんじゃないか。


 知っているとしたら、ペット本人くらいなもの。

 探し相手に話を聞けるなら、それほど楽なことはない。


「ペット本人が自分から出てきてくれたらなぁ」


 愚痴のように漏れ出した一言。

 その自分自身の言葉で、ふと頭にひとつの可能性が浮かぶ。


「……そうだ。居場所が分からないなら、自分から出てきてもらえばいいんだよ。でも、どうすれば、出てきてくれるだろう」


 お世辞にも賢いとは言えない頭で必死に考える。考える。考える。

 何となく、群青寺先生が言わんとしていることを理解できたかもしれない。


 自分一人で無理なら他者も利用する。

 目には見えない、他者の思考をも読んで、自分の目的に活かせ、と。


 そう先生は言いたかったのだと感じた。


「……だとしたら、“アレ”を使えばいいはずだ」


 今日中に“アレ”を手に入れる猶予はまだある。

 思うが早いか、僕は立ち上がって、近くのホームセンターに向かって走り出した。


 ――後編へ続く

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