ティミッド&アウェイ WEB版

ドクターペッパーは濡れない

 ――いきなりなんなんだこのヒト……。


 早瀬悠希はやせゆうきは困惑していた。

 街中に美少女に話し掛けれた挙句、その第一声が「いま自販機出したよね!」だったからだ。


 男子高校生3年目。

 オタク。

 趣味はアニメマンガラノベソシャゲ、そしてパルクール。

 交際経験なし、成績は平凡、運動での実績ゼロ、ルックスについてチヤホヤされたことはなく、中学の担任に通知表で「優しいですね」と書かれたのが最後に褒められた記憶である(ソシャゲに課金しまくって「すげえ」とかいうのはノーカン)。


 要するに早瀬はオタクなのだ。

 そんな彼が街中で突然美少女に話しかけられる。どうなるか。


「あ、えぇと……」


 キョドキョドとうめいてから口を引き伸ばして必死に笑う。


「だいじょうぶ?」


 美少女は優しいので心配してくれる。早瀬の男価値が下がっていく。


「あぁダイジョウブですダイジョブ、ダイジョウブ!」


 ブンブンと手を振りながら早口になる早瀬に、彼女は眉をひそめた。


 確かに交際経験のない早瀬だが、女子が特別苦手なわけではない。

 美人に弱いというオタクの宿命を背負ってはいるものの、あくまで「常識の範疇での弱い」だと言える。

 コミュニケーションに差し障りがあるわけでもなく、多少の人見知りではあるが、簡単な質問にイエスかノーで答えるくらいはできる。

 ただしちょっと肩同士がぶつかるだけで、3日は動悸が止まらなくなる。嘘だ。さすがに盛った。


 ではなぜキョドっているのか。答えは簡単、質問に答えあぐねているから。


 彼女の発した「いま自販機出したよね!」という問いは、現代文の設問のように、不可解で意味が汲み取りにくく詳細が分からない。

 しかし早瀬は国語は得意だ。だから、キョドっているのは設問の難しさが理由ではない。

 設問の答えが明確に「イエス」だからである。

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