時空を歩く既読
幻中六花
第1話 大きな神の神隠し
俺の名前は
俺は今、何日もカーテンを閉め切った部屋の中で生きている。テレビの灯りだけが、朝も夜も、真夜中も朝方も、ずっと働いている。
俺だって生きているから、水も飲むしトイレにだって行く。
けれど、ここ何日も食事は喉を通らず、食パンを
「……あ、おはようございます、池藤です。すいません、今日もちょっと調子悪くて、休ませてもらっていいですか……はい、すいません。はい。あ、ありがとうございます。失礼します」
会社には毎朝欠勤の連絡を入れている。出社拒否というわけではない。身体と心が今、大変なのだ。
上司も事情は理解してくれていて、そこまで怒られることはない。こんな生活を続けていてはお金も底をつくので、少し落ち着いたら出社しなければいけないのだが。
テレビが四六時中、何を映し出しているかというと、数日前に起きた飛行機事故のニュースだ。
国内便でのこんなに大規模な事故なんて、昭和の悲惨な事故以来ではないだろうか。
だが、今回は少し状況が違うようだ。
どうやら、墜落したとかではないらしい。
ニュースが繰り返し流す映像では、
『369便、応答せよ。369便、応答せよ』
『369便、レーダーから消失』
『369便、応答せよ』
という音声が慌ただしく、こちら側だけで行き交っている。
この369便、突然レーダーから消え、音信不通になったというのだ。
その後、墜落の知らせなども入っておらず、行方がわからなくなっているという。
この狭い日本で、そんなことが起こるのだろうか。
──その大それた神隠しの犠牲となった494人の中に、俺の大切な彼女である
もちろん事故のニュースが入ってから慌ててスマホに電話をかけてみても繋がらないし、LINEを送ってみても既読がつかない。
俺からは何もできることがなくて、途方に暮れて、イマココだ。
外が晴れているのか雨なのかもカーテンに遮られてわからない。けれど、そんなことはどうでもよかった。
南那がどこかで生きていてくれるなら、この街をぶっ壊すくらいの台風が来ていても俺には関係ない。
夏が終わろうとするこの季節、南那の温もりが恋しくて、南那がこの世からいなくなることが怖くて、俺は外を見ることも恐れるようになった。
テレビをつけているが、画面を見ることは怖かった。音声だけ、流れている。
時間ごとにアナウンサーが代わっても、言うことは皆同じだ。
「一昨日、レーダーから消えたまま行方がわからなくなっている369便のニュースです。現在も捜索活動が行われていますが、墜落したような痕跡は未だ見つかっておりません」
いったいどこに消えてしまったというのだ……!
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