004 Cランクの害獣
リリア曰く、イチゴが一瞬で発芽するのは前代未聞とのこと。たしかに参考書でも「農業は時間をかけるもの」と書いていた気がする。
「すごいです、クリフさん! 他の畑もクリフさんの魔法で改良したら飢餓の問題が解決しますよ!」
「素晴らしいアイデアだが、それはできないんだ」
「どうしてですか?」
リリアは目をパチクリさせた。
「魔力の問題さ。魔法を使うのに魔力を消費することは知っているよな?」
「はい」
「通常、消費した魔力は時間が経てば回復する。だが、今回の
「そうなんですか?」
「もし時間経過で回復するなら、この世界から衛兵という職業は消えているだろう。土の兵士を無限に生み出して配置すればいいわけだからな」
「たしかに……」
「でもって、俺は既に魔力の大半をつぎ込んでしまった。自分の耕地を拡大する分には大して消費しないから問題ないが、他所の畑を同じようにするのは魔力的に厳しい。他人の魔力を自分の魔力に変換する吸収魔法というのもあるのだが、それはそれで色々と問題があって使いどころが限られているんだ」
召喚魔法やフィールド魔法によって消費した魔力は、それらの魔法を解除しない限り回復しない。これこそ土魔術師が軽視されている最たる理由だった。特に上位ランクの敵にも通用するレベルでフィールドを弄った場合、魔力は殆ど残らない。
「そんなわけだから、水やりを済ませたら家に戻らせてもらうよ」
「お手伝いします!」
「サンキュー。リリアは優しいな」
「そんなことありませんよ! クリフさんの召喚した土の兵士さんのおかげで、町を荒らしていたイノシシがいなくなったんですから! ゴブリンだって倒したし! クリフさんはこの町のヒーローです! なのでこのくらいのお礼は当たり前です!」
(そんなに大したことじゃないんだがな……)
自己顕示欲を満たしたくてこの町を選んだわけではなかったのだが、こうもちやほやしてもらえると気分がいいものだ。天狗にならないよう気をつけねば。
「あとは私がやりますので、クリフさんは家の中で休んでいてください!」
「いいのか?」
「もちろんです! おにぎり、美味しいんで食べてくださいね!」
「ではそうさせてもらおう」
ニコッと微笑むリリアに再度の礼を言ってから家に戻る。
すぐにリリアからもらった弁当を食べた。最高に美味くて感動した。
食事が済んだら家の中を見て回る。二階にある日当たりのいい部屋を自室に定めた。
ベッドの傍にある窓から、リリアの様子が見える。
「おっ、リリアちゃん、クリフさんのお手伝いをしているのかい?」
「そうです! 見て下さい! 種を植えた瞬間から発芽したんですよ! クリフさんが魔法で作った畑、凄すぎます!」
「あの荒れ地を畑に!? しかももう発芽!? やっぱ冒険者様はすげぇや!」
近所に住んでいると思しき杖を突いた爺さんが、リリアと親しげに話している。
「あっ! リリアちゃん、あそこ!」
爺さんが外の草原を指す。
「あわわわわわわ」
リリアが顔面を青くしながら尻餅をついた。
「なんだ?」
立ち上がって窓の外を覗く。
Dランクモンスターのキマイラがいた。蛇の尻尾を生やした大柄のライオンで、背中には翼が生えている。
「いや、あれはキマイラじゃなくてキマイラ・ネメシスだな」
シルエットは通常のキマイラだが、全身の色が紫なのでキマイラの上位種だ。ランクはC。
「リリアちゃん、逃げないと!」
爺さんが猛ダッシュで離れていく。どうやら杖は飾りだったらしく、綺麗なフォームで走っている。そこらの若造に引けを取らないスピードだ。
「大丈夫! こっちにはクリフさんが生み出した土の兵士がいるんだから!」
彼女の言葉に呼応するかのように、近くにいた10体の兵士が集まった。畑に迫ってくるキマイラの前に立ちはだかる。
「残念ながらその兵士じゃ勝てないんだよなぁ」
ただいま召喚している土の兵士は、数を重視して戦闘力を最小限に留めている。その実力はEランク相当だ。Cランクのキマイラ・ネメシスが相手では分が悪い。
ブシャッ。
飛びかかった兵士は、キマイラの尻尾による横払いで全滅した。
「そんな……」
リリアが腰を抜かす。畑の上にへたり込んでしまった。
「クリフさん! 助けて! クリフさん!」
リリアの悲鳴が響く。多くの町民が顔を真っ青にして遠巻きに見ている。
「大丈夫だリリア、そこでジッとしていろ」
俺は窓を開けて声を掛ける。それから、ニッと笑った。
「そこはこの町で最も安全な場所だぜ」
「えっ」
固まるリリア。
そんな彼女へキマイラが襲いかかる。
「グォオオオオオオオオオオオ!」
だが、キマイラが畑に侵入した瞬間、勝敗が決した。
「グォ?」
キマイラの動き止まる。そして、次の瞬間――。
「グォオオオオオオオオオ……」
キマイラは土の中へ吸い込まれていった。底なし沼に嵌まったかのように、ぬるぬると土の中へ沈んでいき、そのまま消えたのだ。
「これは……どういう……」
リリアは口をポカンとしている。
「その畑は魔物を食って栄養に還元する力を持っている。SランクやAランクのような上位には通用しないが、B以下の雑魚なら問題ない。ましてや今の相手はCランク。そんな雑魚に突破できるほど、Sランク土魔術師のフィールドは安くないぜ」
「カッコイイ……!」
うっとりするリリア。
「「「うおおおおおおおお! 冒険者様ぁああああああああ!」」」
遠巻きに眺めていた町民達は大歓声を上げた。
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