現代勇者

@mohoumono

第1話 あなたは、勇者として選ばれました。

僕が生まれる前からこの国でも、

魔物と呼ばれる奇妙な形をした生き物が突如として街に現れ始めた。


それと同時に、勇者と呼ばれる。

力を持った人が現れるようになった。

そして、エクスカリバーを抜いた勇者は、

魔王を倒し、世界を平和に導いた。

そんな昔話がこの国にはある。


勇者になるには、善性が必要らしい。

ある善性を失った勇者は、力を無くし

ただの人に戻ったという。

なので、勇者は、

人に悪意を持って危害を加えれない。

犯罪を起こすのは、元勇者

それも力を失ったただの人だ。

教科書にはそう書いてあった。


そして、今も魔物が街に現れた。

いつものように派手に着飾った勇者が

様々な企業のロゴが入ったマントをつけ、

それを遠巻きにスマホをかざしながら

危機感のない人達は、騒ぎ立てる。


僕は、それを見て少し嫌な気分になり

早歩きでその場をさった。


家に着いたら、

スーツの大人の集団が

玄関の近くで立っており、

その近くには、テカテカと

黒く光る高そうな車が止まっていた。

僕は、不思議に思い走り家の中へ駆け込む。

母親が玄関で泣いていた。


僕は、それを見て全てを察した。

宣託紙を届けに来たのだ。

つまり、

勇者にならなければならなくなった。

それは、国民の義務だった。

そして、それがわかるのは16歳だった。

蝉がみんみんとうるさいのに、

太陽が僕を殺そうと

サンサンと照らしているのに、

僕は、不思議とうるさいとも

暑いとも感じなかった。


そして、勇者にならないという選択は、

僕にはなかった。

なぜなら、

たまにニュースでやっているように

勇者にならなかったものは、

非国民だと言われ、

国中からバッシングを受ける。

そして、誰もがそれを正義だと信じていた。


けれど、勇者になることは悪いことじゃない。

僕が勇者になったら、

毎月30万が支給され、税金が免除され、

勇者の親と兄、姉、妹、弟は、

有名企業への斡旋等手厚く保護される。

そして、それは勇者が戦いで死んだ後でも

続いて行われた。

でも、勇者を自主的にやめたらそれは、

打ち切られることになっていた。


その財源の全ては、

企業からの援助や、

国が行う募金で賄っている。

勇者のための募金箱を持った人がいると

行列になるくらいだから当然なのだろう。

しかも、入っていくのは、殆どお札だった。

それに、勇者の募金箱を騙り、詐欺をすると

絶対に死刑になった。例外はない。

そして、もちろん好感を持つ人もいれば 

勇者に対して、嫌悪感を持つ人もいる。

魔物が可哀想だとか言う人もいれば、

ただ純粋に嫌ってる人や

幼い子供に戦わせるなと言う人もいたり、

そして、その人は、

大体死んだ勇者の親だったりする。


勇者の力が発現するのは、

年に少なくても一人二人多くても五人らしい

そして、その大半は、勇者の力を失うか、

戦って死ぬかで勇者をやめていく、

精神を病む勇者が現れないのは、

どうせ死ぬなら

戦いでと思っているからだと思う

そして、辞めた勇者や

亡くなった勇者は、勇者新聞という

毎月発行される新聞で掲載される。


「どうかされましたか?」

黒服の人は、優しく話しかけてくる。

「いえ、大丈夫です。」

「では、今日はこれで

 明日また、お伺いします。」

黒服の人は、

丁寧にペコっと頭を下げ去っていった。

その後ろで、母親が泣いていた。

僕は、それを見ることはできなかった。

 

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