太宰再訪
パスカル
第1話 手土産
半年ぶりの本部。
西方の小競り合いを鎮圧するのに少々手間取った。
本当はさっさとけりをつけて帰ってくるはずが、なんやかんやで半年だ。
まったく…
姐さんとは報告を兼ねたやり取りがあったとはいえ、ちゃんと会うのは半年ぶり。
手土産の一つも持って行かなけりゃ示しがつかない。
ノックをすると、姐さんの声が答えた。
「中原です。失礼します」
「どうぞ」
聞きなれた声に安堵して、ドアを開ける。
脇に書類が積まれた机の向こうから、微笑んだ姐さんの声が届く。
「中也。もどったのかえ?」
「はい。ただいま帰りました。ご無沙汰いたしております」
「本当にのう。一週間ぐらいで戻るつもりで行ったのが半年になるとは…」
「全くです。意外と、…いろいろとしがらみがありまして」
「まぁ。マフィアの仕事はそういうものじゃ。仕方あるまい」
姐さんと話しながら、机に近づいていく。
微笑んでこちらを眺めている姐さんは、書き物をしていたペンを置いた。
「疲れておらんか?」
姐さんはいつもこうやって、部下をねぎらう。
幹部になる前、姐さん預かりだった頃から、ずっとそうだ。
「ご無沙汰しすぎたお詫びを持参しました」
「おわび?」
机の上に手土産の紙袋を乗せる。
姐さんはそのしなやかな指で袋を受け取ると、丁寧に中を開け始めた。
「ワイン。かえ?」
「えぇ。多分姐さん好みですよ。それと、グリッシーニ」
「…なんじゃ?そのおしゃれカタカナは」
「グリッシーニですよ。イタリア版のクラッカーみたいなもんです。ワインのつまみに。クリームチーズとか、生ハムと一緒に食べるといいんです。」
「じゃあ。生ハムとクリームチーズを買って来ればよかろう?」
「そっちは日持ちがしないんでね。こいつを開ける時に一緒に買いに行くのはどうです?」
片手にワイン、片手にグリッシーニの箱を持ったまま、姐さんはにやりと笑った。
「…ほぉ。デェトの誘いかの?」
「悪いっすか?」
こちらもニヤリと笑い返す。
「いいや?悪くはないが…中也、悪酔いするじゃろ?」
「なっ。。。色気のないこと言わないでくださいよ」
「色気?わっちより酒が強くなってから言うんじゃの」
くすくすと姐さんは笑う。
そして両手のモノを机に置くと、姐さんは真顔に戻った。
「その前に、教えてあげたいことがあるんじゃよ」
こういう顔のときには、あまりいいことが続かない。
「お客さんが来ておる」
「客?」
「正確には、おぬしの客ではなさそうじゃがな」
「誰です?」
「芥川が、わっちの鏡花を使って、連れてきた」
「きょうか…あぁ。以前、芥川が連れてきた子供ですか?」
確か、西方に赴く直前ぐらいの時期だった気がする。
顔を見た覚えはあるが…あまり記憶にない。
「そうじゃ。わっちが目をかけてやった。かわいい子じゃ。いずれ、いい戦力になる」
「…で。誰を連れてきたんです?」
姐さんが、その切れ長の目の端を光らせてから、告げた。
「太宰じゃよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます