空に住む人 地下に住むもの

戦国 卵白

第1話 デザインされた都市


「私は賛成です。生産施設の排除はプレインのブランド力を高めるうえ、都市全体のテーマパーク化はとても魅力的なアイデアです。海外からの観光客も含め多くの税収も見込めるでしょう。」


タブレット端末の画面には、都市計画概要と以前に似た都市計画を海外で行ったときのモデルケースが表示されている。


「そんなことは、僕にもわかってる。だけど、都市型プレインをしかも800m帯でアミューズメント施設にするのはあまりにも勝手が過ぎる。」


都市型プレイン。400km四方の超巨大ドローン。温暖化による地表の温度と海水面の上昇。そして地震による大阪府をはじめとする近畿地方全体の壊滅的打撃によって空へ避難するために開発を急がれたものだ。都市型プレインは日本にはまだ4機しか飛行していないが、そのうちの二つは食料生産用として1500m帯で利用されている。


「このプレインを購入なさった作家の斎藤先生が執筆された小説はすでに全言語に翻訳され、海外での人気もあります。そのうえ今はアニメーション化で大ヒット、三作目となる映画も日本の興行収入一位を更新しそうな勢いです。

…今は、資金を多く手に入れて、一機でも多くのプレインを飛ばせるようにすることが私たちの役目ではないですか。秀哉。」


画面に表示された茶髪を短く切りそろえたさわやかな男が、論理的な答えを出してくれる。確かに今の日本には圧倒的に資金が足りない。プレイン使用料としての税収は多く見込める。娯楽にしか金をかけることができない今の富裕層は必ず金を落とすだろう。


「だが、生産施設の完全撤廃というのはあり得ないだろう。未だに地上で行う第一次産業は完全になくしきれていない!都市型プレインならすべて居住区とするならば地下居住者を200万人救うことができる!!

しかしっ……しかし…そうか。夢の世界に現実はいらないか…。」


男は一人、肩を落とす。画面に映る男はそれをただ見つめていた。

やがて決断をしたのか肩を落としていた男は都市開発計画書に承認のサインをした。


「五年…。五年のうちにすべての日本人を空の上に移住させる。そのための一歩だ。」


そして、再び作業を始めようとしたところを、画面の中の男が引き留めた。


「ご飯を食べに行きませんか?」


「良一。また僕の食べたいものを当てるゲームか?」


良一と呼ばれたのは、画面に映る男。茶髪を短く切りそろえたスポーツ刈り。歯を見せずに少しだけ口角をあげて笑っている。


「和食ですね?濃い味付けの魚の煮つけと胡瓜の糠漬け。卵焼き。白米をたくさん。それも、熱々で。」


「正解。お前に言われて食べたくなったよ。」


そして、二人は行きつけの食堂に足を運ぶのであった。










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