蒲公英の咲くあの場所で

晴川 滝

第1話

いつぶり、いや何度目だろうか

無地、よく見ると細かい黒が散りばめられてる天井


でも、もう今度で最期だ もう天井はこの天井しか見ない


特に何も気持ちは変わらないまま今日も今日を迎える

遠く昔の頃と同じ気持ちで


自分が考えられることは全て考えた

この人生でもう考えることはひとつしかない

だからといって楽になったことも無いが

逆に今まで何を考えて生きてきたかも忘れてしまった


毎日何かに追われて片付けて追われての繰り返し

その中で小さな幸せを見つけて誤魔化して毎日生きてきた


今思えば馬鹿らしく感じられる

一生をかけて幸せを追い続けて、苦しい思いを沢山して掴めるかも分からない未来ばかり追いかけてきた


ふと、もう一度天井を見るとさっきより遠く感じた


まぁそれも気のせい…か


特にここで1日何をすることも無い

何をしていけないもない

自由だ ただ待つだけだ


1日1回医者が来るだけ

世間話をしておしまい

看護師が来ることも無い

あ、掃除の人は1日に1度来てくれる


完全隔離の病室だ


完全隔離だが、俺の居るところは2人の相部屋だ

普通なら6人部屋の病室にベットが2つ

カーテンで仕切られている

ただただ広い


ここはもう終わらせることを決めた人間が待つだけの部屋だ

終わらせるなら1人で終わっちまえばいいと思ったがどう考えても他人に迷惑をかけてしまう方法しか無かった俺はこの道を選んだ


俺と同じ人間が隣にもう1人居る

名前は確か…


「川上さんー川上寧々さんー」


珍しく看護師が俺の部屋に入ってきた


「川上さん、電話が来てるんですけど」


看護師から電話を受け取ったであろう彼女が話始める


控えめで透き通った声だ


淡々と話すところを聴くと家族とかではなさそうだ


彼女は話終えると看護師に電話を返した


ガラガラと扉が閉まる音がする


俺は聞き耳を立ていたた隣のカーテンから視線を目の前の窓に移した


「ねぇ」


先程の透き通った声がした

何故か返事はできない

窓の奥の青空を見つめる


「ねぇってば」

今度は声と同時にカーテンが揺れた


カーテンを叩いたのだろう


その衝撃でもう一度のカーテンの方に視線を移す


は、はい


少し枯れた声で返した

声を出すのは何時間ぶりだろうか



「キミ、名前は?私の名前今聞いたんなら教えてよ」


今度は迷うことなく直ぐに言葉を発せた


田渕優希です


「ユウキくんか、よろしく」


彼女はそう言うとそれ以来話さなかった

俺もなにも返すことは無かった


よろしくって言っても何も2人がすることなんかない

隔離病棟だが、自由に外にも行けるし、行動制限も何も無い

ただ待つだけの場所で2人が一緒にいるだけのことだ

気づくとカーテンを見たままだったのでまた、天井を見つめて静かに目を閉じだ

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蒲公英の咲くあの場所で 晴川 滝 @danderion39teppei

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