第20話 屋上デート(6)

 2人きりの屋上にゆったりとした時間が流れていく。


「すぅ……すぅ……すぅ…………はわっ!? 佐々木くん……? ふぇっ!? もしかしてわたし寝ちゃってた!?」


「おはよう西沢さん」


「ご、ごめんなさい佐々木くん! 告白が終わってホッと安心したら寝ちゃったみたいで……」


 肩を寄せ合っているうちにすやすやと寝落ちしてしまった西沢さんが、起きた途端にやらかした!って感じで恥ずかしそうに肩をすぼませながら呟いた。


 ちょっと涙目になっているんだけど、それがまたすごく可愛くて困る。

 いや困らないんだけど困る。


「全然いいよ。それだけ僕に心を許してくれたってことでしょ? それに西沢さんの気持ちよさそうな寝顔も見れて、僕も役得だったしね」


「はぅ……変な寝言とか言ってなかった? もしかして、い、いびきとか……」


「まさか。すごく静かだったよ。すやすやって感じで気持ちよさそうに寝てて、見ているだけ僕も幸せな気分になれたから」


「もしかしてずっと見てたの……?」


「え? ああうん見てたけど? 幸せそうな寝顔だなって」

「うう、恥ずかしよぉ……」


 まっ赤な顔を両手で隠す西沢さん。


「ねぇ西沢さん、もしかしてなんだけど、最近あまり寝れてなかったりする?」

 そんな西沢さんが僕はちょっとだけ心配になって尋ねてみた。


 不眠症に年齢はあんまり関係ないって記事をこの前ネット広告で見かけたから。


「ううん、わたしは夜はぐっすり寝ちゃえるタイプだよ。でも昨日の夜は佐々木くんに告白するんだって思ってあれこれ考えてたら、緊張して朝方まで寝れなかったの」


「あ、そういうことね」


「ラブレターもね、何回も書き直したの。それで途中で便箋がなくなっちゃって、深夜に家を抜け出して近所のコンビニ買いに行ったりもしたし」


「その過程で差出人の名前がなくなっちゃったんだね」


「ううっ、はい……」


「あるよねそういうこと。あれこれ手直しする間にさ、どうしてだか一番大事な箇所に限ってするっと抜け落ちちゃうんだよね」


「ぶぅ、蒸し返さないでよね。いじわるなんだから佐々木くんは」

 と言いつつも、西沢さんにはちっとも怒った感じはない。


 むしろ恥ずかしがりながらも子猫がじゃれて甘えてくるような感じで、僕にもっと身体をくっつけようとぐいぐいとくっついてくる西沢さん。


(西沢さんの身体、柔らかいなぁ……おっと不埒なことは考えちゃダメだぞ佐々木直人)


「それでホッとしてつい寝ちゃったわけだね」


「佐々木くんとくっついてたら胸がぽかぽかしてきて、すごくリラックスできて。それであーこれはやばいなーって思った時には、もうほとんど意識がありませんでした」


「ちなみになんだけどまだ眠かったりする? もうちょっとくらいなら寝てても大丈夫だよ?」


「ありがとう佐々木くん。でももう大丈夫だから。仮眠してすっかり目は覚めましたのでそこはご安心を」


 そういうと西沢さんはうんしょと可愛らしく立ち上がった。

 つられて僕も立ち上がる。


 スカートを軽くはたいてほこりを取るなにげない姿も、西沢さんがするとすごく可愛かった。

 一挙手一投足がまるでドラマの中から抜け出したみたいな西沢さんに、僕はついつい見とれてしまう。


「な、なに?」

 思わず見とれてしまった僕の視線に気づいた西沢さんが、上目遣いで尋ねてくる。


「ううん、なんでもないから」


「でもじっと見てたよね?」

「えっと、それはその……つい西沢さんに見とれちゃって」


「もう、またそんなこと言って……スカートをはたいてただけだよ?」


「それがまたすごく絵になってたんだよ。ドラマの1シーンみたいでさ。それでつい、ね」


「……佐々木くんって奥手に見えてそういうことかなり素直に言ってくるよね」


「それはその、西沢さんに変な誤解をされたくなくて……」


「わたしは誤解なんてしないよ? 佐々木くんは優しくていい人で、誰かのために行動できちゃう素敵な人だって思っているから」


「西沢さんも結構はっきり言うよね? しかもちょっと荷が重い気がしなくもないというか……」


「だってほんとにそう思ってるんだもーん。そう思わせちゃう佐々木くんが悪いんだもーん」


 夕焼け色に染まった校舎の屋上で、西沢さんが子供っぽく言いながらにっこり頬む。


 そんな風に話しているうちに、いつの間にか西沢さんと自然に話せるようになっていることに僕は気が付いていた。


 緊張して名前を書き忘れたり、ホッとして寝落ちしちゃったりする西沢さんの意外な一面を見れたこと。

 それだけでなく、西沢さんがとても話しやすい空気を作ってくれるからだろう。


(こんなに自然に女の子と話せるなんて、自分で自分が信じられない)


 西沢さんの優しい気づかいに、僕は改めて心の中で大きく感謝をしたのだった。

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