乙女ゲームの世界に転生したら、俺の可愛いお嬢様が中二病に目覚めてしまった。

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 出来心だったんだ。

 まさか、あそこまでおおごとになるなんて思わなかった。


 視線の先では、俺が仕えている可愛いお嬢様が、なんかポーズをつけていた。


 鏡を見て、ポーズを決めてはにっこり。


 かわいい。


 けどちょっといたい。


 うん。うちのお嬢様に、俺はいけない事を喋ってしまったのかもしれない。


「正義は勝つ、私はジャスティス・ウーマンよ!」


 お嬢様が、俺のせいで中二病に目覚めてしまっていた。


 振り返ってこっちを見たお嬢様が「リーダー、今のはどう?」と聞いてくる。


 言葉がでなかった。

 頭痛がしてきたので、俺は頭をおさえるしかない。


 事の始まりは、数か別前。


 うっかり「実は俺、前世の記憶があるんですよ」と喋ってしまった事が原因だ。





「前世の記憶? 何それ?」


 俺が仕えているお嬢様はかわいらしく小首をかしげた。


 お金持ちで、将来鼻もちならない悪役令嬢になるって言っても、まだほんの七歳だしな。


 乙女ゲームでは苛烈な事をしていたけれど、まだその面影はそんなにない。


「生まれる前の、別人だった頃の記憶、って言って分かりますかね。輪廻転生の概念ってこっちの世界にはあるのかな」


 執事として、お嬢様に使えている俺は、たまたま暇な時間があったので、前世の事について口が滑った。


「よくわかんないわ。それって面白いの」


 お嬢様は、実に子供らしい反応。


 何事も面白いか面白くないかで、判断するようだ。


 なので、俺は「まあ、面白いんじゃないですか? 知らないはずの事を知れたり、言った事のない場所の事も分かったりするので」とそう返答。


 お嬢様の興味をひいたようだ。


「へぇ。どんなのか詳しくきかせて?」


 それで、この世界とは違う世界の事を色々と話したというわけだ。






 で、影響されやすいお嬢様は「ジャスティス・ウーマン参上! とう、えいっ、悪役め! びしばし」とかやってるわけだ。


 まあ、そうやって一人で遊ぶか、屋敷の人たち相手に正義の味方ごっこしてるなら無害なんだけど。


 たまに、外でもやり始めるから、すっかり変わった子扱いされてしまっている。


 今も「この右目がうずくわ! 宿敵が近くにいるのよ!」とか「封印された右腕を解き放つ時がきたようね!」とかやってる。


 どうしようこれ。


 最近お嬢様のお友達もやり始めてるって、聞いたし。

 

 このお嬢様、影響力高いからな。


 普段から言動が大げさというか、堂々としてるというか、人目を引く感じだから。


 でも、まあ、しょせんは子供の遊びだし、そのうち飽きるだろう。


 その時は、そう思っていたけれど。






「正義の組織ジャスティス参上! あなたは罪をおかしたわね! 反省しなさい」

「そうよそうよ」

「ごめんなさいしなさいよ」


 なんか大ごとになってきてる。


 中二病に感染する子供が増えて、架空の組織ができあがってるし、自主的に悪者退治をはじめてしまっている。


 子供たちがそういう事に憧れるのは分かるけど、メンバーが百人ちょいってのはどうなんだ?


 今も、小さい子をいじめてた少年が袋叩きに合ってるし。

 

 大勢に取り囲まれて、顔面蒼白だ。


 良くない流れだな。


 仕方ないので、俺はやむおえず割って入った。


「あー、お嬢様。正義はそうやってやたらめったら振りかざすものではないですよ。今回の件だって、そんな大勢でなじる必要ないですし、当事者たちだけで話を済ませる事ができますよね」


 すると、お嬢様は不満げな顔でこちらを見つめてくる。


「なんでよ、悪い事やったらそれを指摘するのが正義の味方の仕事でしょ。そうだって、教えてくれたじゃない」


 確かに俺が教えた、子供向け番組の「正義の味方」はそうだろう。


 でも、それは現実にはあってない。


「逆切れされてやり返されたらどうするんです。それにこうしてやりすぎると、反省できるものも反省できなくなってしまいます。お嬢様だって、花瓶を割ってしまった時、両親だけでなくご兄弟からも怒られていやだってでしょう?」

「そ、それはそうだけど、何もこんな所でいわなくても」

「大勢の前で指摘されるのが恥ずかしい? それが今、目の前でちぢこまっている少年の気持ちです」


 お嬢様ははっとした顔になる。


 どうやら自分がやっている事にきづいてくれたようだ。


「私がまちがっていたわ」


 しょんぼりするお嬢様。


 やれやれ、これでもう彼女達が暴走する事はないだろう。


 場がまとまるのを見てほっと一息つくが。


「これからは貴方についていくわ! 正義って、奥が深いのね! もっと正義の味方について教えなさい」

「えぇぇ」

「そうだ! あなたを私達の組織のリーダーにしてあげる。皆、今日から私じゃなくてこっちの男がトップよ!」


 何か話が怪しい方向に進んでいくようになってしまった。


「い、いや、それは」


 慌てて断ろうとするが、いたいけな少年少女達がキラキラした目でこちらを見つめてくる。


「リーダー!」

「よろしくお願いしますリーダー!」

「もっと、色々な事を教えてください!」


 どうしてこんなことになったんだ。


 お嬢様を中二病に目覚めさせたら、とんでもない事になってしまった。


 時をもどしたい。






 のちにこのお嬢様が、お金持ち学校に通学するようになった際。


 平民として虐められていたヒロインを守る正義の守護神と化して、攻略対象とのイベントがまったく起きなくなってしまったのは俺のせいかもしれない。


 しかもなぜかリーダーとして敬われている俺が、攻略対象のイベントを横取りしてしまう事にもなるし。





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乙女ゲームの世界に転生したら、俺の可愛いお嬢様が中二病に目覚めてしまった。 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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