第12話 メメたんのおやつ
時間にすればほんの数分なのだろうが、電流攻撃はなかなかにエグい。ほんの少し苦痛を与える程度の電流なのだろうが、普通の人間は感電なんてほとんどしたことがないだろう。
この攻撃に身も心もボロボロとなり、俺氏はメメたんが電流を流すのを止めて動けるようになると、脱兎の如く自室へと逃げ込んだ。
ベッドに倒れ込み俺氏は考える。見た目は俺氏の愛するメメたんだが、中身があまりにも想像と違いすぎる。この生活が辛い。……訳がない。俺氏がおイタをした時のお仕置きは刺激的で、俺氏のことを考えてしてくれているんだ。
俺氏は自分をSだと思っていたが、実はドМだったことを、新しい世界を教えてくれたメメたんに感謝しよう。
そういえばメメたんは新しいハードディスクがあれば、じいちゃんとばあちゃんの写真を復元してくれると言っていた。俺氏のパソコンは先日の一件で、見事にぶっ壊れてしまった。
俺氏は起き上がり、ふすまを開けて収納スペースを確認する。自分でも何が何だか分からないほどみっちりと物が詰まったふすまの奥から、記憶を頼りにあれこれと物を取り出す。
何年か前に自作PCを作ろうとパーツを買い揃えたが、買っただけで面倒になり押し入れに詰め込んでいた。それを思い出した俺氏はそれっぽい物を床に広げて組み立て始めた。
今さらこれを組み立てても今のパソコンと比べスペックは低いだろうが、無いよりはマシだ。学校すらまともに通っていなかった俺氏には少々難しく、スマホで検索をしながら少しずつ組み立てていく。
普通の人であれば二時間や三時間で完成するらしいが、不器用で慣れない作業に苦戦し、途中で手元の明かりが欲しくなり部屋の電気を点けて、そこで夕方近いのだとようやく理解した。
それでも手を休めないようにしながら組み立てていくと、不器用な俺氏でもどうにか組み上がった。
「ふぅ……ようやく完成した……」
「コレはもう使わないのデスか?」
「うわぁぁぁっ!」
独り言を言ったつもりが後ろからメメたんの声が聞こえ、あまりにも驚き叫んでしまった。
「メメたん!? いつの間に!?」
「お昼ご飯はどうしマスかと聞きに来て、一度声をかけたのデスが気付いてもらえませんでシタ。それからずっと見ていまシタよ」
メメたん……気配が無さすぎだろう……。まだ心臓がバクバクしているが、メメたんは俺氏よりも辺りに散らばるパーツが気になるようで、一つ、また一つと手に取って見ている。
「それはもう使わないけど……何かに使うの?」
控え目に声をかけると、メメたんは顔を上げ微笑んだ。
「はい」
そう言ったメメたんは電子部品を口に入れ、バリボリと噛み砕く。呆気にとられていると小さなネジやケーブルまでも食べている。
「……メメたん? それは食べ物ではないんだけど……ダダダダ、ダメー!!」
慌てて立ち上がると、メメたんはニッコリと笑いながら優雅にネジを噛み砕いている。
「ご主人様にはそうでショウが、メメにはおやつデス」
さすがは宇宙人だ……。地球人の常識の斜め上を行っている。
興味が湧いてきて「美味しいの?」と聞けば、金属ごとに味の違いがあるらしく、コレはスパイシーだのコレは甘いだの言っている。うん、俺氏には理解が出来ない。
「デスが、一番刺激的で美味しいのはこれデス」
メメたんはそう言うと壁際に移動する。壁を向いてメメたんがしゃがむと、ふわりとツインテールの毛先が浮くが、それを見た俺氏は条件反射で耳を塞いでしまう。パブロフ的なアレだ。
だけどメメたんのツインテールは俺氏ではなく、スルスルとコンセントに入って行く。
「あああァァァッ! 美味しいデス! 刺激的ぃ!」
どうやらメメたんはコンセントから電気を浴びているらしい。電気まで食べるのか? いや、その前に髪から栄養? を摂取出来ることと、髪にも味覚があることに驚く。というか死なないのかと心配になってしまう。
「メ……メメたん……? 命に別状はないの?」
「全く問題ありまセン!」
いつもだったら絶対に俺氏には見せないだろう笑顔で振り向かれ、俺氏のハートにも電撃が走る。可愛すぎるだろ。
「うん……メメたんが喜んでくれるならいいんだけど……あんまり使うと電気代がね……」
壁に向き直って「あぁっ!」とか「いいっ!」とか叫んでいたメメたんが、その俺氏の言葉を聞いて動きを止める。そしてゆっくりと振り向くとその表情は笑顔ではなく真顔になっており、おもむろに口を開いた。
「……まさか……コレに対価が必要なのデスか……?」
「? うん。だけど電気だけじゃなくて、全てのものにお金が必要だよ? ……水もさっき食べていた金属も」
そう言うとメメたんは狼狽え始めた。どうやらメメたんにとっては対価が必要なものとは思っていなかったらしい。あのメメたんがしおらしく俺氏に謝った。
「ご主人様、すみませんデシた……。もしかして、コレも対価が必要デスか?」
とポケットから出したのは小銭だった。掃除の時に拾っていたらしい。後で食べようと思っていたようだ。
「それお金! お金は絶対に食べちゃダメ! それが対価になるんだよ」
俺氏の言葉にメメたんは驚き、悲しげな表情をした後に「お返ししマス……」と小銭を俺氏に差し出した。
「プラスにもマイナスにもなりまセンが、メメはこの先自家発電をして電気を楽しみマス……」
しょんぼりとしたメメたんが可愛くて、つい「俺氏も自家発電が得意」と言うとビンタを食らった。メメたん、本当にいろいろ勉強してるなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。