Case 3 ~アマチュアデート商法男子⑥~

って……」


 ますます頭が追いついていかない。

 三島が勝手に呼ぶ分には、まだ分かる。

 困惑する俺を見て、何かを察した三島は豊橋さんに注意喚起する。


「光璃ちゃん、それじゃ羽島くんが混乱しちゃうよ」

「そ、そうでしたね。すみません……」


 三島は、勢い良く謝罪する豊橋さんを困ったような笑みで見つめる。

 そして、俺に向き直りゆっくりと話し出す。

 その顔には、いつも俺には見えていた浅薄さのようなものはなかった。


「羽島くん。今日は米原くんに頼んで、キミを呼び出すために企画してもらったんだ。普通に呼び出しても、警戒して来てくれないと思ったから」


「……じゃあ何でヨリによって、合コンなんだよ」


「そこは米原くんだからかな! それにさ、羽島くん。キミも少なからず、米原くんに恩義っていうか、後ろめたさっていうかさ。そんなもの感じてるでしょ? だから、米原くん経由だったら断らないかなって思って。品川さんにも協力してもらってさ」


「ゴメンね。羽島くん」


 三島に促され、品川さんが眉をハの字にして謝る。

 やはりモテ期は幻だったか。

 それにしても三島はどこまで俺を見透かせば、気が済むんだ?

 余裕たっぷりの笑みで応えるヤツの顔を見ていると、またしても謎の敗北感に苛まれてしまう。


「……んで、こんな手の込んだ芝居打ってまで、何が聞きたかったんだよ?」


「その前にさ! 羽島くんの方こそ聞きたいことあるんじゃない?」


 イチイチお見通しなのが腹が立つ。

 俺はコイツの作った台本上の文字でしかないのだろう。


「まずは光璃ちゃんと俺の関係、だよね?」


「……分かってんなら、早く言えよ」


「安心して。キミが心配してるような関係じゃないから。友達の妹ってだけだよ」


「そうだったのかよ……。は惚けやがって」


「別に惚けてなんかいないよ。俺も久々に見たから、顔が分からなくてさ。もしかして、とは思ったんだけど。後で、友達に確認したら、やっぱりそうっだったみたいで……。凄くキレイになってたから、ちょっと感動しちゃったよ!」


 三島の話を聞くと、その横に座る豊橋さんは顔を赤らめながら、俯いてしまった。

 ナチュラルに言って退ける辺り、三島とはやはり人種が違う。


「品川さんもの友達だから、安心して。行き掛かり上、彼女が居た方がスムーズかなって思ってさ。まぁ言っちゃえばエキストラかな」


 すると、品川さんは意味深な笑みを浮かべ、ウィンクをしてくる。

 先のが、再び薄っすらとその姿を現した。

 だから、豊橋さん。

 そんな顔で睨むのはやめてくれ。


「後は……、そうだな。他に何かある?」


「いや、他もクソもさっきからお前が勝手に喋ってるだけだろ」


「はは。そうだったね。じゃあキミの方からはこんなモンかな。じゃあそろそろ本題に」


 三島から笑みが消えた。


「羽島くん。三島記念みしまきねん病院って、覚えてる?」


 俺の人生で、恐らく二度と聞くことのない固有名詞だと思っていた。

 だが、こうして三島の口から聞かされることで実感する。

 俺の中で、まだ何も終わってなどいなかったのだと。


「ごめん。意地悪で言ってるわけじゃないんだ。こうして不思議な縁で出会ったからには言っておきたくてさ」


「……じゃあお前は、俺からどんな言葉を引き出したいんだ?」


「そうだね。ちゃんと言うよ」


 三島はフゥーと息を吐き、意を決するように言う。


「俺たちが聞きたいのはね。浜松 朔良はままつ さくらさんのことだよ……」


「っ!?」


「正直、俺もある程度のことは聞いてるんだ。でも、詳しい事情までは知らないからね。それにホラ……、彼女はキミの口から聞きたがってるみたいだしね」


 曇りのない豊橋さんの視線はまっすぐと、俺の弱い心を射抜くように見据えている。

 

「帰る……」


「待って下さい! 羽島さん!」


 俺が席を立とうとすると、すかさず豊橋さんが引き止めてくる。

 その気迫に自然と足が止まってしまう。


「羽島さん。羽島さんは世の中のことなんて何にも知らなかった私に、色々なことを教えてくれました。アレは全部羽島さんの経験談、いえ……、羽島さん自身の後悔が元になってるんですよね?」


「……だったら何だってんだよ」


「羽島さんは言いました。米原さんだけを騙して、成長した気になってるならソレは驕り、だって。私、思うんです。羽島さんの後悔の原因をはっきりさせないと、本当の意味で成長出来ないって」


「なんだ? 一丁前に他人の世話まで焼こうとしてんのか? だとしたら、ソレこそ驕りだな」


 俺の言葉を遮るように、彼女は続ける。


「マニュアル作りの目的、覚えてますか?」


「っ!?」


「教えて、くれませんか? 彼女のこと。にも」


 まさにしてやられた。

 言質を取られてしまったのは、俺の落ち度だ。

 それに……、彼女にこんなことを言われてしまっては、もはや断る理由など探す方が難しい。

 全ては自分が撒いた種だ。

 俺は全てを話すことを決めた。

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