Aの部下なので死亡フラグを壊したい。

無理

第1話 始まりは


文豪ストレイドックス。知る人ぞ知る不屈の名作漫画だ。アニメ、映画化もした超人気作品で特にキャラの人気が有る。敵でさえも嫌われるキャラが少ないのだ。その中で、唯一嫌われがちなキャラがいる。

ポートマフィア 5大幹部 A

触った人物の寿命を宝石にする異能を持つ男で、人を揶揄うようにいつもニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。その上金の力で幹部入りしたということで他のメインキャラにも嫌われている。頭が取り立てて良いわけでもなく、部下を容赦無く殺す…総括すると、

死亡フラグしか立てないキャラだ。

因みに最後は自滅して死ぬ。引き立て役で有る。

最後までかなりひどいキャラだった。



さて、ここからは私の話である。


私はある日、目覚めると黒い服にサングラスをかけてある施設に立っていた。いきなりである。首には宝石のついたチョーカー。周りには疲れた顔をした同じチョーカーをつけた同僚たち。携帯には殺人の報告書。極め付けは歩いてきた1人の男だった。ニヤニヤとした顔、変な前髪、手にいじる宝石、そして後ろを歩く同僚の顔の暗いこと。

Aだった。

(あっ、これオワタ)

すぐに私の目がスンッとなったのには理由がある。Aがいるということはおそらくここは文ストの世界、私はポートマフィアのAの部下のうちの1人なんだろう。ただでさえモブに厳しいこの世界でしかも将来全滅させられること確定の奴の部下とは。第二の死か。

仕方なく私は普通に数日を過ごすことにした。


数日後、戻る気配はなし。

だがしかし、私のそばには人がいた。

「おい、大丈夫か?ボーッとして。」

同僚の坂井が気遣うようにそっと声をかける。

「ははっ、喪不山(もぶやま)はスタミナ不足かぁ?」

田中先輩がくいっとサングラスを押し上げて笑う。

「あらら、マダ気を抜いちゃダメよ。飴舐める?」

工藤さんの心遣いに感謝して黒蜜の飴を食べる。渋いチョイスだが嫌いじゃない。


…そう、ここの部下にはいい奴が多かった。Aに騙されてもなんとか生きているからか、結束力が少々強めなのである。ここはポトマか?いや、仕事となれば残酷に冷静になるが、それ以外では普通の人だ。

そして何より、(中身が)新参者の私に優しい。

「ありがとうございます。」

この人たちが死ぬのはちょっとばかし、嫌だった。特に

「よっ、喪不山。元気か?」

後ろからわしゃわしゃと頭を撫でられる。振り向けば人懐っこい笑み。赤めの髪。唯一アニメで出て来たセリフありの彼。通称、ドストエフスキーに直接頭バーンされて死んだポートマフィアのボスになるのが夢な先輩、筑波先輩は軽く手を上げた。

「お疲れ、」

「お疲れ様です。」

その顔は私より顔色が悪く、恐らくまたAに何かされたんだろうと察しがつく。迷わず座っていた椅子から立ち上がろうとしたが、先輩は軽く手を振ってそれをかわした。

「俺はまたこれからAのおつきなんだ。すぐ行くからいいよ。」

そう言って私の肩を押さえ込んでしまう。この先輩、とにかく人に甘い。いや、敵となれば恐らく容赦はしないだろうしヒトを殺したこともそれなりにあるが、Aに騙されなければヨコハマで一般人として暮らしていたであろうお方である。かっこいい。苦労人なのに部下を労わることを忘れない。ちょっとばかし抜けてるところや頼りないところはあるけど人らしい人である。

「本当に、お疲れ様です…。」

「いや、いいんだ。お前達の顔見て元気出た感じがするよ。じゃあまたな。」

苦労人だ。部下とAの板挟みにもなりやすい。捨てきれない夢もある。まあ、それは後々捨てさせるとして問題はAである。

この人たちをモブとして殺させるのは嫌だ。

何の役にも立たず、ただドストエフスキーに嬲られて終わるのは嫌だ。

そう思ったら、もう終わりだった。

私はその日、抵抗する敵を屠りながら考えた。どうやってポートマフィアで私たちが生き残れるようにすれば良いのか。

周りに手を借りるなどもってのほかだ。私たちはAが他の幹部と仲が悪いからか本部の奴らに少々嫌われている。あからさまではないが嫌われている。この首輪もそうだ。異能力であるAの宝石はAでなければ解けない。わざわざ自分に反抗する奴の首輪を解く奴がいるわけがない。私の命は今もAの手の上である。一応作戦はあるが、それもチョーカーが邪魔をする。

(どうすればいい。)

太宰治がポートマフィアにいない以上、原作はもうすぐ始まるのだろう。そしたら私たちはすぐにドストエフスキーにバーンだ。あいつの異能をまだ知れない作者が憎い。嘘です。大好き愛してるガチで。超ファンです。

翌日は珍しい休みだった。街中でフラフラと歩く。こうしていると普通の人みたいだ。ガラスケースに映った自分を眺めていると

ドンっ

「わ、わ。」

誰かにぶつかられて尻餅をついてしまった。誰だよ、せめてなんか言えよ、と、ちょっと怒りながら立ち上がる。そこにいたのは

「ああ、すみません!美しいお嬢さん。ところで、こちらであったのも何かの縁、どうか私と心中をしていただけませんでしょうか!」

(うわぉ)

セリフからわかるだろう。この優男。

軸キャラ、太宰治に、会ってしまった。


ぴえん(真顔)


「あ、いえ。心中は遠慮します…。」

とにかくそこだけははっきりと断る。曖昧にして後から覚えられると面倒だ。まぁ、この人の人並外れた脳みそはもうフル回転しているんだろうけども。私のことはせめてモブ女の一人として忘れて…

「おや」

ふと私の首に彼の手がかかった。

「お嬢さん、あなた」

まさか、ポートマフィアがバレたか!?

「い、いえ!私はその」

がちゃん

「えっ」

急に軽い音がした。下を向くと、外れている。何がって、

Aの宝石がついたチョーカーが!!

宝石はシャラシャラと崩れて消えていく。

「…どんな事情かは知りませんが、これであなたはもう籠の鳥ではない。もう安心ですよ。

さぁ!これで私と心中を」

「うわっほおおおおおい!!!よっしゃいける!!ありがとうありがとうございます太宰さん!この借りはいつか必ず!多分!!じゃ!また!!」

「えっ、ちょっとまっ」

その言葉を聞くことなく走り去る。ラッキーラッキー超ラッキー!

これで、作戦を遂行することができる。路地裏に入り込んだところで、ぴたりと立ち止まった。いや待て。首輪がないからと言って勝てるか、相手は腐ってもあのポートマフィアの五大幹部の一人。異能が今消えても、またかけられたら詰む。何より純粋な戦闘で勝てる気がしない。相手は何より、異能持ちだ。

その時だった。

「危ない!」

不意に上から植木鉢が降ってくる。私はそれに驚くがもう遅い。ぎゅっと目を瞑り痛みに耐えようとした。が、なかなか落ちてこない。ふと目を開けると、花瓶が空中で止まっていた。それだけではない。人が物が雲が世界が、薄い紫がかったような光の中で全てが静止していた。

「ほむほむやんけ」

私のツッコミは恐らくまど●ギ好きにしかわからないだろう。


side A

「で、なんだね。君は。」

「はい!喪不山 モブ子と申します!」

返事をしたその女の首元を見る。赤々と光るルビーが嵌められているのをしっかりと確認し、向き直った。

「五大幹部である私に話とは、立場を弁えることはできないのかね?」

「申し訳ありません。しかし、お耳に入れたいことがございまして。」

「ほお。」

利益は取りこぼしてはならない。クスリと笑うとそれはなんだね?と聞く。

「はい!


A様にはこの世界について絶対の事柄を知っていただきたいです。」

「…は?」

思わず素が出た。そのまま聞き返す。

「今のあなたの立ち位置を見てください。」

そのまま取り出されたのは大きめのフリップ。

「ここは仮想都市ヨコハマ。銃と麻薬と異能力が蔓延る街、ヨコハマです。モブに厳しい世界です。」

「いきなり何を」

「モブというのは私達のような普通の人間を指します。そこに異能の有無は関係ありません。天から(作者様)与えられた役割です。そしてこのヨコハマは、モブに、優しくない。とにかくじゃんじゃん死にます。もうコマの隅とかでどんどん死にます。簡単にあっけなく死にます。主要かと思われた人物でさえも容赦なく死にます。」

「君は何を言って」

「その中で!あなたの立場を考えてください!ポートマフィアとは剣呑!部下は異能で無理やり従わせている状態!無論他とのコネがあるわけでもなく、いざとなれば手駒にされる可能性大!人格も悪く性格も悪く中途半端な異能持ち!あなたどこ目指してるんですか!!」

「うるさい!!失礼な」

こいつはなんだ。そう思いかけたがふと首元のチョーカーを思い出す。そうだ。こいつを殺して仕舞えばいい。そう思い異能を発動する。が、なぜか発動しない。

「いいですか!」

ここでフリップが投げ捨てられ、私の目の前にズイッとそいつの顔が乗り出して来た。

「このままだとあなた、死にますよ。」


「幹部に向かってなんだ!!貴様!殺してやる!!」

激昂し、銃を向けると、瞬間、女が消えた。

「!?」

「うおぉりゃぁぁあ!」

そして視界が反転し、頭にごんっと鈍いが重一撃が来る。ついで首にものすごい圧力がかかった。

「言いたいことは、まとめるとこうなんだよ!」

「死にたくなければ、好感度と戦闘力を上げなさい!」

「めんどくさがらないでちゃんと部下の面倒も見る!真摯に仕事する!」

「生まれつきのキングってなんだよ!中二病かよ!そもそもAは1だよ!」

「いいか?確かに幹部まで上がったその根性はすごい。だけどな、部下の信頼もない、上司の信頼もない、お前死ぬぞ?」

「この世界が!いかにモブに辛いか!知らないだろ!お前ぐらいパーンだからな!」


「ゆーあー、die or death。」


「あ」

そこまで聞いた時、私の視界は酸欠でブラックアウトしていた。




やってしまった。

バックドロップの後、首を締めすぎて落としてしまった。今は一応ソファーに寝かせて介抱している。


結論から言うと、私には異能力があった。

いわゆる「時を止める」と言うやつである。この能力なかなか便利で一度止まれと思うと全てが止まる。紫色のモヤがかかったような世界は全てが動きを止めていて変な気分だった。また、私に触れている服は普通に動いていたし、植木鉢も私が触れると元に戻っていたので恐らく触れた物は動くのだろう。ただ、ほむほむみたいに時間は戻せない。進めることもできない。本当に止めるだけである。DVDの一時停止機能だ。しかしこれ、便利である。不意をつくこともできれば、瞬間移動もできる。(しっかり歩くけど)難点は集中力が続かないことともう一つあるけど…。まあそれは置いておこう。


それよりこっちだ。

私の作戦は概ねうまくいった。

まず相手を混乱させ、

説得し、

改心させる。

(尚、途中に「落とす」は書いていない。)

まぁいい。大体同じである。

勝負はこれから。

私の持ち出す賭けに、こいつは乗るのか。

載せねばならない。

(わたしは…)


「くっ…」

「!おはようございます、A様。」

「ひっ!き、貴様ぁ!」

うーん、予想通りの反応。ポーカーフェイスってなんだっけ。

だがそこで相手も置かれた立場に気付いたようで周りを見渡す。わたしの手にはAの銃。圧倒的に不利である。

「ま、待て!何が目的だ?俺がそれを叶えてやろう!金か?立場か?どうだ」

テンプレすぎて天ぷら。

ばちんっ

音が鳴る勢いでAの両頬を挟み込む。

「わたしが求めているものは、そんなものではありません!っていうか、仮にもAが、五大幹部が、私達の頭領が、そんなことでどうするんですか!!」

「は?」

目の前のAがきょとんとする。だからポーカーフェイス。忘れてる。

「あなたのことを殺す気はないと、

私はあなたの部下であると、

そう言っているのです。」

「はぁ?お前は馬鹿か?」

呆れ顔のAにピキリと青筋が立つ。

「ええ!馬鹿ですとも!ただしあなたは私以上のトンツクです!何いきなり我が物顔でボスに食ってかかってるんですか!紅葉様に敵意抱いてるんですか!中也さんの方が数百倍は首領に信頼されています!」

一気に行って一息つく。相手の頭もついて来たらしく、視線が鋭くなっていた。

「普通、私のようなものはこのまま異分子として排除でしょう。

何より、ポートマフィア幹部に下っ端のわたしが危害を加えた時点で粛清対象です。

なので、私はあなたに、『賭け』を申し込みます。」

「ほほう、『賭け』?」

「はい。私は、この三ヶ月以内に必ず、幹部補佐候補に成り上がります。あなたの、です。それができた暁には、私をあなたの新しい幹部補佐として推薦してください。しなくても、おそらくそうなるでしょう。

できなかった場合は、チョーカーを自主的につけ、死ぬまであなたの犬となります。その場で殺すも、臓器にして売り飛ばすもよしです。念書も書きます。隙を見てつけるのは無理ですよ。私は一回、それを破っています。」

暗に破る方法があると言っている最後の一言は鎌かけだが、おそらくバレないだろう。

「断れば?」

「あなたにデメリットはないでしょう。チョーカーをつけるための賭けを、私は全て降ります。このままでは確実に、あなたは異能力者に利用され、ボスにもなれず、悲惨な最後を迎えます。私には、少しですが未来が見えますから。」

「何?」

怪訝に眉を顰めるAに切り札を取る。

「異能を記したファイル」

「うぐっ」

そこまで言って、私は徐に立ち上がった。銃を渡す。

「あなたは乗ることになります。

確実に。」

「そうか…ここで私に殺される可能性は、見えていたのか!?」

バッと向けられた銃口が火を吹いた。


「はい、勿論。」

「な…」

私は既にドアの近くにいた。

「ポーカーフェイスを、お忘れなく。」

中から響くAの恨みに満ちたくぐもりごえを後に、私は廊下を歩いて行った。


それから三ヶ月、大変だった。

異能のファイルのことをバラされては大変だとAは私を殺すように沢山の仕事を私1人に割り当てた。調査、書類、計算…遂には

「喪不山、A様からの直々の任務だ。

〇〇組を、殲滅しろ。と。」

「はい、かしこまりました。」

あれからAは私の前には顔を出さなくなった。代わりに黒い服の同僚達が暗い顔でくる。

「一人で、ですよね。」

「っ、あぁ。…大丈夫じゃないよな。すまな」

「あー、大丈夫、生きて戻りますよ。多分。」

そう言って笑い飛ばし、終わらせた書類をドンと置く。


結果は勿論楽勝だった。

時間を止めてサクッと喉元である。気づかれることもなく、悲鳴もなく、抵抗もなく、速やかに天国行きである。地獄かもしれないが。

(あれ、この異能、結構便利…?)

敵の首魁の首にナイフを当てた瞬間、私はそんなことに今更気づいてしまった。

軍警の目を掻い潜り、書類を持って本部へ戻る。本部は騒いでいた。それはそうだろう。普段事務ばかりで何をしているのかわからないAの部下の一人がしかも単身で、数百人単位のグループを頭から潰したのだから。

この頃には私の名前も少し有名になっていた。Aの部下が、不審な動きをしている、ということでだが。

ヒソヒソヒソヒソ

周りの皆さんが私の方を見てなんか言ってる。ヒソヒソうるっせえな。ヒ素か、飲みたいのか。聞きたいことがあるなら素直に聞けばいいのに。

「…よぉ。」

前から来たその姿に私はグッと姿勢をただす。

「お初にお目にかかります。お噂はかねがね聞いております、中原幹部。私めに何か用事でしょうか?」

丁寧な挨拶ときっちり45度の礼。

どーだ!この三ヶ月で目上への礼儀は嫌になるくらい頭に叩き込んだぞ!

暗めの中也もかっこいいけどそんなこと思えるくらい余裕がない。

「おう、お前か。Aの部下で、単身で〇〇組を殲滅したっつーのは。」

「はい。喪不山モブ子と申します。〇〇組の書類と相手方の情報はこちらにございます。」

まとめたファイルをチラリと見られたので渡す。パラパラと流しで読まれる。

やだかっこいい。けどその書類頑張ったからぐちゃぐちゃはやめてね?

「…まぁいい。ついてこい。首領がおまちだ。」

「はい。」

四徹目の眠気も吹き飛ぶ。

これからボス戦である。


ギリギリの精神がそろそろやばい。




トントントントン

長い長い廊下をひたすら歩き、扉をくぐり、エレベーターを乗り継ぎ、また歩く。

(以下現実逃避)

やっだー。途中主要キャラに一杯あっちゃったー。芥川先輩超可愛いーひぐっちゃんちょこちょこついて行ってたし、黒蜥蜴もちょっぴり見えたし。立原君がまさか軍警の狗だったとはなぁ。漫画で驚いた。銀ちゃんに泣いた。梶井もいたなぁ。笑ってない梶井はレアだなあ。そりゃそうだろうなぁ、私Aの部下だし。っていうか殺意向けられすぎwアウェーかよ。

アウェーだよ。スンッ

(現実逃避終了)

トントン

重々しい扉がノックされる。

「首領、中原です。Aの部下で〇〇組を殲滅した奴を連れて来ました。」

「入りたまえ。」

CVがいいとか、んなこと考えてられない。気を引き締める。


部屋の中はアニメのまんまだった。部屋の真ん中でエリスちゃんが絵を描いている。私の絵…?に赤でグチャッと…。

止めてください不吉。

「やぁ、君が喪不山くんかね。」

突き刺すような眼光に怯まず真顔を貫く。引き攣らないでくれ顔面筋肉ッ!

「はい。お初にお目にかかります。首領。

所属番号●〇〇●の喪不山モブ子と申します。」

「あぁ、報告書を」

「はい」

報告書類を渡して、読み上げていく。ここまではある程度順調だ。嫌味もない。予想していた、

「裏切り者の可能性があるね」からのグシャァ(異能で潰される音)もない。しかし問題はここからだ。

「うん、いいね。結果としては実に良い。〇〇組は小さくてもなかなかガードが硬かったから、被害が一切出ないことは実に良い結果だ。ありがとう。」

「見に余る光栄です。」

『ああ怖い、二次元推しが、恐怖源』

モブ子 辞世の一句。

…死なない!頑張る!

「このような素晴らしい結果を出せた理由を、私は知りたいねぇ。」

クスリと笑ったその顔は影を持って私を見透かしている。報告で聞いてるくせに図々しいわぁ。

「はい。

私は約三ヶ月前に、突然異能を発動しました。効果は時間停止すること。私の周囲の時間を一時的に止める事が可能であることを知りました。この時計のボタンを押すことで発動します。時計自体は市販のものです。また、私自身には効かず、私が接触している物も時間は止まりません。私自身の身体能力は変わりませんが、止めている間の相手の意識は無いに等しいようです。しかし私の異能を知り、尚且つ気を張って構えている人には効かない事がわかりました。

範囲は、私が行けるところまで行ってみましたが、かなり遠くまで広がっているのかそれとも私を中心に動いているのか、範囲の境界までいくことは無理でした。長時間使用の今の所の限界は数分です。」

「ほう、なるほど。それはとても良い異能を持ったね。ちょっと使ってみてくれないか。」

首領がアゴを撫でるようにして私を見定める。

「はい。異能力『』」

カチ、と音がして視界全体が紫色のモヤに包まれる。動いているのは首領と中原幹部だけで、空の雲も眼下の街並みも全て止まっていた。

「素晴らしいね。」

「光栄です。」

そう言い、異能を解く。

「今回の件で、君の実用性を知る事ができた。君には報酬と別に昇格してもらうことになったよ。君の希望はあるかい?」

機嫌が少し良く見える首領は私に向けて首を傾げた。

「はい。それであれば僭越ながらお願い致します…


私を、Aの」




結果良ければ全てよし。

賭けに勝った私の背中にAの視線が突き刺さる。

「というわけで、A。君の『仮の』幹部補佐だ。喪不山くん。励みなさい。」

「はい、ありがとうございます。首領。

よろしくお願いします。中原幹部、尾崎幹部、そして、A幹部。」

仮の立場は未だ辛い。紅葉さんからは金色夜叉がAごと切り殺さん勢いで睨みつけてくるし、中也さんはちょっぴり地面から浮いている。目が殺気だっている。

Aが今更になって可愛く見えて来る。だいぶ末期な私は五徹目の頭を回転させて笑みを浮かべた。

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