『花金作品』 お題: 『幻想』

皆木 亮

『幻想』

「それは『幻想』じゃないんですか?

 本当の事じゃないんじゃないですか?」

 そう、私は、先輩に言う。



 すると、先輩は、

「確かに『幻想』かもしれないし、

 本当の世界ではないかもしれない。」

 と、淡々と告げて来た。



「だったら、そんな作り物の『幻想』に、

 そこまで、のめり込むのは危険じゃないですか?」

 先輩を、おもんぱかっての私のげんに、



「だけどね。

 この世界には、間違いなく、アダム君とアダム君が居る…。

 アダム君とアダム君の『アレ』ないとなみのパライソが、

 ここには、間違いなくあるの!


 それは…。

 誰にも否定できない…!」

 と、強い想いを込めた瞳で、

 先輩は、私に断言する。



「ですけど、それは作られた『幻想』です!

 本当じゃない世界なんです!」

 と、詰め寄る私に、



「じゃあ、『本当』って、『本当』は何なの⁉

 たかが、ただの人間の私たちに、

 『本当』というモノが、『本当』は何かが分かるの⁉


 私には…分からない…!


 だけど…そんな私にも…分かる事はある…!


 このアダム君たちのパライソは…!


 私の『リアル』を超えた、

 『喜び』を与えてくれる事を…!」

 と、先輩は、さらに強い口調で私に断言する。



「でも…だけど…。

 そんな世界…。建設的じゃないです…!


 読んで、その世界の『幻想』にひたるたびに…!


 三倍以上の勢いで、

 『アレ』を鼻腔びこうからすなんて…!


 全然…建設的じゃない…!


 先輩は、『こっちの世界』に…!


 『リアル』に戻らなくちゃ…!


 もう…先輩の身体は…ッ!」

 と、私は、先輩に泣きすがる。



「ゴメンね。

 アナタは…。

 私をそこまで心配してくれたんだね?


 でも…人にはね?


 誰しも…譲れないモノというのは…あると思うの…。


 私は…たまたま…それが…『この世界』だった…。


 それが良いか悪いかじゃないんだ…きっと…。


 私は…これを選ぶように…多分…神様に決められてたんだ…。


 だけど…アナタは…きっと…。

 他の何かが譲れないモノだと…。

 神様に決められてるから…。


 だから…『その世界』を肯定すれば良い…。


 私の…『この世界』を…。

 アナタは…無理に肯定する必要は無い…。


 だけど…。

 私の…アダム君とアダム君でかなでられる…。

 『この世界』は…もう…。


 この三倍の『アレ』を…。

 私にさせる事を辞めさせられない…。


 それはね…きっと…神様の元になった…。

 全ての原点…。


 アカシックレコードと言われてるモノとかに…。

 きっと…決められているんだ…。


 だから…ね?


 私は止まれないの…。


 だから…アナタは…。

 そんな私を…笑って見送って欲しい…。


 『この世界』の『幻想』に生きる私を…!」

 と…先輩は…。

 やわらかな…。

 本当に…やわらかな顔で…言った…。





 私は悟った…。



 ああ…先輩は…本当に…。

 『あっちの世界』に行ってしまったんだと…。



 だから…私は見送った…。



 先輩の鼻腔びこうからした鼻血が…。

 私の顔面を真正面から襲ったという現実に対する非難を…。

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『花金作品』 お題: 『幻想』 皆木 亮 @minakiryou

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