第3話 『流行』

 依頼人―――――羽生明里はにゅうあかりは少し薄汚れたソファに腰を下ろしていた。

 年季の入った机に色あせた壁がノスタルジックな情景を表していた。

 そんな少しボロボロな事務所を物珍しい感じで彼女は周囲を見回していた。

 「コーヒーしかないけど、ミルクはいる?」

 「あっ、ありがとうございます」

 お洒落なティーカップでも用意しとくんだったと八雲は思ったが今まではその辺りも注意はしていなかったと少し後悔をしていた。

 少し熱かったのか何度か息を吹きかけ二、三口ほど口に含むと八雲が話を切り出した。

 「で? 依頼の話なんだけど…………友達の捜索だっけ?」

 飲みかけのコーヒーカップを机に置き、少し間を置いてから小さく「はい」と明里は呟いた。

 「実は彼女―――――高橋愛奈たかはしまなって言うんですけど、二日ほど前から学校に来ていないんです。今まで病気になった事も無くて毎日のように連絡は取っていたんですけど、その返事も無くって。先生に聞いても連絡はないって言ってたし、実家にも帰っていないみたいで…………私、心配で心配で」

 彼女が一度落ち着くのを待ってから、今度は八雲が気になった所を尋ねる。

 「実家にもって…………警察とかには相談はしたのか?」

 普通なら捜索願など親が出しているはずなのだが、八雲の意図が伝わったのか明里は力なく首を横に振った。

 「実は愛奈のお家って―――――その、放任主義っていうか、あんまり彼女には興味がないっていいますか…………そんな感じなんで特に動いていないみたいなんです」

 なるほど、と八雲は納得した。

 放任主義と言えば聞こえはいいだろうが、要は自分の娘に興味がないのだろう。

 それは彼女の顔を見ていれば何となく理解が出来た。

 「ん、了解。んじゃ行方知れずになった経緯って分かる?」

 近くにあったメモを取り出しペンを探す。

 しかし、普段から机の上など整理整頓を一切していないので何がどこにあるのか全然分からなかった。

 するとそんな八雲を見て明里は自分のカバンからペンを取り出し八雲に渡した。

 短く「ありがと」と言うと早速メモを取り始める。

 彼女曰く、

 どうやら行方が分からなくなる前から、学校では彼女の行動には些か問題が多かったようだ。

 無断欠席は当たり前で素行も良くなく、何度か補導歴もあったらしい。

 しかし二か月ほど前、羽生明里と出会ってからそれが少しずつ改善されていき成績も随分伸びたようだった。

 「あとはそうですね、――――――――――あっ」

 何かを思い出したかのように明里は自分のカバンから携帯電話を取り出し〝とある画像〟を見せてきた。

 「実は最近、学校でこんなのが流行ってて―――――愛奈が行方不明になる前も私たちこんなのをしてたんです」

 画像には見たことも無い曼陀羅まんだら模様が書かれた用紙が映し出されている。

 「なんだこりゃ?」

 最近の若い子のブームなのだろうか、その綺麗な色使いをした曼陀羅模様は神秘的で、どこか薄気味悪い物を感じた。

 「これは今学校で流行ってる『まだら様』ってものです」

 すると、彼女は『まだら様』という物の説明をし始めた。

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