鉄の壁の章

挿話 極秘ミッション! 来人との特訓!

 シャニが来人の恋人になった二週間後。

 村の広場では来人と恋人達がいる。

 デートをしているのではない。

 それぞれが木刀や穂先の無い竹槍を持ち訓練をしているのだ。


「せいっ!」

「甘いです」


 ――カンッ ピトッ


 シャニは来人の突きを捌いてから喉元に竹槍を当てる。


「ま、参りました」

「シャニ、すごーい」

「お見事です!」


 シャニは元々は王都で最強の暗殺者であり、武器術にも精通している。

 なぜ彼らが訓練しているか。それはシャニの正体を知った彼らが訓練を願い出たからだ。

 

 シャニは訓練では来人を圧倒している。

 力は来人の方が遥かに上だが、技術が無いが故にシャニに勝つことが出来ない。

 

「いやー、流石だよ。シャニって本当に強いんだね」


 と来人は言うがシャニは知っている。

 彼が本気ではないということを。

 来人は訓練ではシャニには勝てないが異形と戦う場合は鬼神の如き強さを発揮する。

 もし異形相手の時のような突きが来たらシャニでも避けることは出来ないだろう。


「ライト殿。何故本気で突かないのですか? それでは訓練になりません」

「え? あはは、分かっちゃった? だってさ、シャニは俺の大切な人だし、怪我をさせたくなくってさ」


 ――ブンブンブンブンッ!


 来人の言葉を聞いてシャニの尻尾は忙しく動きまわる。

 

「嬉しいの?」

「いえ、特には」


 嘘をつく。来人にはバレてるけど。

 本当は嬉しくて仕方ないのだ。

 しかしこれでは訓練にならないとシャニは悟り、武器を置いて次は格闘訓練に切り替えることにした。

 

 シャニは格闘でも強い。

 暗殺者として武器を持たずとも相手を殺す業も多数修得している。


 来人も竹槍を置いてシャニと向かい合う。

 

「よし、それじゃ今度こそ本気で行くぞ!」


 ――ダッ!


 来人はシャニに高速タックルを仕掛ける!

 

(速い!? まるで別人のような動き)


 突然来人の動きが変わる。

 言葉の通り、来人は本気を出したのだ。

 来人はシャニを地面に押し倒し、マウントを取るような体勢に。

 さすがにそのまま殴ることはなかった。


(次はどう動く?)


 関節を極めるのだろうか、それとも絞め技か。

 しかし来人の選択はそのどちらでもなかった。

 上四方固めのようにシャニを抱きしめて首筋に唇をつける。


「ライト殿、訓練中です。ふざけていては……? あん……」


 来人は上四方固めの形を崩さず、シャニの急所を優しく攻める。

 そう、とても優しいタッチで。

 人体の急所というのは力加減を変えれば痛みにも快感にも変わる。


 シャニはかつての師であるサウザーの講義を思い出した。

 それは房中術の講義であった。

 サウザーは壇の上に立ち訓練生を前にこんなことを言う。


『いいか。もし暗殺者対象と交わる時はこれだけは気をつけておけ。もし相手がお前達より上手い場合は逃げた方が賢明だ。そいつは絶対にお前達より強い。人体の急所に精通しているからだ。急所ってのは力のかけ方次第で痛みにも快感にも変わる。もしお前達がナイフを忍ばせておいたとしてもその場から逃げて生き延びる道を選べ』


(師の言った言葉……。本当だったのだろうか?)


 実際シャニはその容姿から、房中術を使う機会は得られなかった。

 しかしサウザーの言葉が事実であったことを知ることになる。

 

 来人は唇をシャニの印堂、人中、年上、準頭に。

 これらは衝撃を加えれば必殺の一撃となる急所である。

 しかしシャニは優しい来人の攻撃を受け、別の意味で危機を感じていた。


 シャニは逃げるのではなく……。


 ――パタパタッ


「もっとしてください」

 

 喜んでしまった。

 来人も気を良くしたのか次の攻撃に移行する。

 

 顔の急所には唇を落とし、その手は水月を優しく触れ、稲妻を触り、霞を優しく撫でる。

 体を入れ替え伏兎、三陰交、さらに甲利に至るまで。

 

 シャニは来人が恐ろしくなった。

 何故彼は人体の急所をここまで知っているのか。

 もしかして来人も元の世界では暗殺者だったのかもしれない。

 しかしそれ以上は考えられなかった。


 ライトの攻撃が気持ち良すぎるあまり……。


「シ、シャニ?」

「ぐぅ……」


 シャニは意識を失ってしまった……っていうか寝てしまった。

 次に目が覚めたのは来人の部屋のベッドの上だった。

 そしてなぜかリディアとアーニャも眠っていた。


「リディア姉達はどうしたのですか?」

「これ? あはは……。シャニと同じことをしてくれって言われてさ。なんか気持ち良くなっちゃったみたい。でもさ、ただマッサージしてあげただけだと思うんだけどなー」


 ――ゾクッ


 シャニはさらに恐怖した。

 マッサージだけであんなにも人体の急所を的確に狙えるものなのだろうかと。

 来人の隠された強さに恐怖を覚えると同時に自分より遥かに強い恋人が出来たことに喜びを感じていた。


 まぁ来人は本当にマッサージをしてあげただけなんだけども。


「さっきはごめんな。せっかく訓練してくれたのに、こんな形で終わっちゃって」

「いえ。ですがベッドの上でも訓練は出来ます。先ほどは負けましたが、このままでは終われません。続きはいかがですか?」


 ――シュルッ パサッ


 シャニは服を脱ぐ。

 元最強の暗殺者としてのプライドがある。

 負けたままでは終われなかった……のは建前で来人に可愛がって欲しくなっちゃったのだ!


 来人は挑まれた勝負から逃げるような男ではなかった。

 受けて立つ。

 それが大和男子だからだ!


「「勝負!」」


 男と女のプロレスが始まってしまった。

 その後リディア達も起きてきて二人の戦いに参戦することになる。

 一対三だったり、タッグマッチだったり、バトルロワイアルなどもうプロレスしたプロレスした。


 結局最後は来人の勝利となり、今日の訓練は終わりとなる。

 シャニは来人の胸を枕にして思うのだった。


(強い人……。しかしこのままでは終われない。ライト殿をお守りするためにも私はもっと強くならないと。訓練は定期的に続けるべき。ライト殿に提案してみよう)


 なんてことを思ったが、可愛がってもらう機会を増やしただけなのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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