第69話 森の奥へ

 シャニが恋人になって一月が経つ。

 先日総村民数も100人を超え、だいぶ村も狭くなってきたように感じる。

 そこで俺は村の敷地を広くすることを考えている。

 

 今俺の家にはリディア、アーニャ、シャニの三人と俺。そしてリザードマンのデュパがいる。

 この五人で会議を開くのだ。


 この一月でラベレ村はかなり発展したが問題点も出てきたのだ。

 今日は新しく始めた仕事の進捗報告を兼ねての会議となる。


 まずは進捗報告からだ。

 リディアとアーニャが小さな樽を目の前に置く。


「お酒なんですがまだ上手く出来てないんです。やっぱりそう簡単にはいきませんね」

「でもその代わりにこんなものが完成しました!」


 アーニャは元気よく樽の蓋をあける。

 中には水に果実が浸けられている。

 どれどれ? 顔を近づけると……。


 ――ツンッ


 鼻を刺すような香りが。

 おぉ、酸っぱい匂いがするぞ。

 これはお酢だな。


 ちょっと指にとって舐めてみる。

 確かに酸っぱいが嫌な酸味ではなくわずかに果実の風味も感じられる。

 地球でもアップルビネガーとかあるしな。でもこれは地球のものより美味しいぞ。


「いいね。材料は?」

「はい! ミンゴと水だけなんですよ!」


 へー、村の特産の一つでお酢が出来たのか。

 これで料理の幅が広がるぞ。


「グルル。ついでにこっちも報告しておこう」

  

 今度はデュパが樽を出す。

 蓋を開けると真っ黒い液体が並々と入っていた。

 おぉ、とうとう完成したか!


「デュパ! でかした!」

「グルル、私の腕にかかればこんなものだ」


 蜥蜴野郎のくせにやるじゃないか。

 これは醤油だ。味見をしてみると、地球で味わう醤油そのものだった。

 デュパの一族は魚を原料にして魚醤を作ってきた。

 これも村の特産の一つだが魚の匂いが苦手という村民もいる。俺は好きなんだけどねぇ。

 なので魚ではなく豆で同じものが出来るかお願いしてみた。

 これがこの醤油の正体だ。

 そしてもう一つお願いしているものがあるのだが。


「あ、あのさ。味噌はどうだった?」

「あぁ、あれか。失敗した。なんかウンコみたいな見た目になってしまってな。気持ち悪いので捨てたぞ」


 デュパてめえ! それで完成なんだよ!

 

「グルルッ!? ラ、ライト……。首は止めてくれ。く、苦しい……」

「ライト殿。頸動脈に入ってます。そのままでは後5秒でデュパ殿は失神します」


 と元暗殺部隊出身のシャニが冷静に止めてくれた。

 つ、つい興奮してしまったぜ。

 デュパにはそれが完成品だということを伝え、もう一回味噌を作ってもらうことにした。

 ちなみにシャニがかつての王都にあった暗殺部隊を率いていたキャリアウーマンだったことは知っている。

 シャニ自身の口から教えてくれた。

 もう家族になったのだからと話してくれたのだ。


 こんな可愛いシャニが地球でいうところのCIAやKGBのような組織のトップだったとは。

 俺は驚いたが、リディア達は「シャニ、すごーい」なんてお気楽に言ってたな。

 まぁ、過去に何があったのかは関係無いらしい。

 今のシャニはリディア、アーニャにとって可愛い妹なのだろう。

 竿姉妹だけど。


「ごほん……。取り乱してすまん。これで調味料の類いは完成したと思っていいだろう。酒については諦めることなく挑戦を続ける。次だ。村民も増えてきた。村を広くしようと思うんだが、その前にやっておきたいことがある」


 これが今日の一番の議題だ。

 今のラベレ村の人口は100人を超えている。

 そこで敷地を拡張しようと思うのだ。


 問題はどの方向に村を広くさせるか、そして村を移動させるかだ。


「俺の力にXY軸移動ってのがある。村自体の位置を変えることが出来るんだ」


 実際お試しで使っただけで、ほとんどお蔵入りしている力だ。

 だがここでその真価を発揮する時がきた。


 当初の計画では村をより森に近づけることを考えていた。

 壁を伸ばすだけの簡単なお仕事だ。

 森は危険な場所ではあるが資源の宝庫でもある。

 そして俺達の仲間になり得る遭難者が数多くいるだろう。

 だからこそ俺達は森の近く、いやより奥に向かわねばならない。

 今のままでは水源である湖に行ってから帰ってくるのが限界だ。森の入り口に足を踏み入れたに過ぎない。

 

 森は広い。例え俺の壁は無限に出せるとはいえ、それでは村の敷地も管理出来ないほど広くなってしまう。

 無駄に広くては駄目なのだ。管理する者だけではなく防衛に充てる人員もさらに必要になってくる。

 敷地面積は人口に応じて広くしていかなければならないのだ。

 

「でもさ、この力は障害物があると発動出来ないみたいなんだ。移動させるには森を切り開かないといけない」


 木々が邪魔をしているのだ。

 これからは森林伐採という仕事も増やしていかなければ。

 それだけではない。今シャニは一人で牧畜の仕事をしている。

 だがやはりといったところ。子羊が産まれたり、牛が病気になったりと手が回らなくなってきた。


「いいえ。私一人で問題ありません」

「嘘つけ。耳と尻尾で分かるわ。無理しちゃ駄目だ。何人か人をつける。手伝ってもらうんだぞ」


 シャニは強がってはいるが、耳と尻尾がしょんぼりしてるもん。

 彼女は無表情で感情が読み取れないと思ったが実はリディア達以上に分かりやすいのだ。

 

 会議中ではあるが、ちょっとからかってやりたくなった。


「シャニ、可愛いよ」

「お世辞は結構です」


 ――ブンブンブンブンッ!


 こんな感じなのだ。もう尻尾が千切れそうな程喜んでいる。

 

「あー、ライトさんずるーい。私にも言って下さい」

「わ、私もお願いします」


 いかん、脱線してしまった。

 

「ははは、後でな。話を戻すと村を広くする前に森を広くしなくちゃいけないんだ。そこで新しく仕事として伐採班を設ける。そして割り当ても変えなくちゃならんし」


 今までは割合で村民達に仕事を振ってきた。

 だが村民も増えてきたので人数で割り当てることに。 

 それをみんなと一緒に決めようと思う。


 みんなであーだこーだと話しつつ一時間。

 ようやく割り振りが決まった。

 こんな感じだ。


☆総村民数100人。各仕事と人員配置。

・農業:15人の村民に担当してもらう。雑草の除去、作物の収穫が主な仕事。

・狩猟:10人の村民に担当してもらう。肉はまだ生産出来ないので狩りは継続。

・服飾:アーニャと9人の村民に担当してもらう。狩りで得た毛皮を服、寝具に加工。

・調理:20人の村民に担当してもらう。朝、昼、晩、三食の食事を準備してもらう。

・武器製造:10人の村民に担当してもらう。

・探索:リディアと4人の村民に担当してもらう。森を探索し遭難者を見つける。他に村にとって有効な動植物がいたら取得、または報告してもらう。

・牧畜:シャニと4人の村民に担当してもらう。羊毛の刈り取り、牛の搾乳。

・研究:来人と5人の村民に担当してもらう。味噌、醤油など新しい調味料の製造や醸造も担当。

・養殖:デュパとその家族4人に担当してもらう。

・村の整備:来人のみの担当。

・伐採:来人と9人の村民に担当してもらう。



 うん、こんな感じかな。


「これでどうかな?」

「いいと思います!」

「問題ありません!」

「私もです」

「グルルルッ」


 大丈夫みたいだな。よし、これからはこれで村を運営してみよう。

 もし問題があればその都度修正すればいいさ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!

 お気に召しましたらご評価頂けると喜びます!

 更新速度が上がるかも!? ☆☆☆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る