挿話 極秘ミッション! 来人の胃袋を掴め!
来人達が新しい拠点に移り住んで三日が経つ。
アーニャはいつものように起床し、みんなの朝食を作ってから来人を起こしに向かう。
それが彼女の仕事ではないのだが、元々やっていたメイドとしての習慣が抜けていないのだ。
彼女はかつての王都で魔貴族アスモデウスの家でメイドをしていた。
彼女は優秀であったため、アスモデウスの秘書のような仕事もしていた。
なので来人を主人と決めたアーニャは同じことを来人にしてあげようと思っている……のだが。
――トントンッ
アーニャはノックをして来人の小屋のドアを開ける。
「ライト様、朝です。起きて……。ひいっ!?」
見てしまった。
裸のリディアが来人の上に乗って眠っているのを。
しかも二人はまだ繋がったままではないか。
見てはいけないと思いつつ、アーニャは自分の口を押さえる……。
いや、アーニャさん。押さえるのは目じゃないんですか?
(う、うわぁ。あ、あんなこともするんですね。でもリディアさんの顔……。すごく幸せそう。それにライト様のアソコ……。すごく大きい……)
なんてことを考えていた。
「うーん……。お、おはよ、アーニャ。そんなに見ないでくれると嬉しいだけど……」
「し、失礼しました。おはようございます。朝食の準備が出来ています」
アーニャは冷静を装い、来人に朝の挨拶をする。
顔は真っ赤だったけど。
アーニャは先に食堂として建てた小屋に向かい、暖かいスープを竹製の器によそう。
少しすると来人が小屋に入ってきた。
「さ、さっきはごめんな。アーニャ、いつもありがとう。すごく美味しそうだ」
「ごめんね、作らせちゃって。今度は私も一緒に作るね!」
リディアとは先日仲良くなった。
彼女から聞かされた提案を思い出すだけで胸が暖かくなる。
そう、来人の恋人にならないかという提案であった。
もし自分が来人の恋人になれたらと思うだけで嬉しさのあまり涙が出てくる。
それを見られないよう誤魔化しながら、みんなで一緒に朝ごはんを食べることにした。
来人はアーニャが作ったスープがお気に入りのようだ。
今も器の中のスープを飲み干して、とても満足気にアーニャに笑顔を向ける。
「これは美味しいね。すごく優しい味だ。アーニャは料理が上手なんだね」
と声をかける。
来人の言葉を聞いてアーニャは嬉しさのあまり、抑えていた涙が溢れてしまった。
「えっ!? ご、ごめん! 俺、何か変なこと言ったかな?」
「ふふ、大丈夫ですよ。アーニャ、ちょっと外に行きましょうね」
「ぐすん……。はい……」
リディアに連れられ拠点の角に向かう。
アーニャはリディアの豊満な胸に抱かれながら泣いた。
「ふふ、気持ちは分かるよ。嬉しいよね」
「うぇぇーん。ライト様に誉めてもらえましたぁ……」
アーニャの気持ちが落ち着くまでリディアは彼女を抱きしめるのだった。
(ふふ、やっぱりライトさんが好きなんだね。アーニャにも私が感じている幸せを感じてもらいたい。でもどうすればライトさんがアーニャを好きになるのかな?)
先日アーニャに話した通り、リディアは彼女が来人の恋人になれるよう協力を申し出た。
しかし恋愛初心者であるリディアはどうすれば来人がアーニャを好きになるか分からなかった。
まぁ、今の時点で来人はアーニャを女として意識している。
例のおんぶしてたら気持ち良くなっちゃった事件をきっかけにだが。
そんなことを知らずにリディアはどうすれば良いのか考えることにした。
そこでヒントになったのがリディアの読んでいたラノベである。
とある世界からやって来た空間魔術を操る男前な主人公が大活躍する英雄譚である。
その中でリディアが特に好きなエピソードがあった。
主人公はヒロインである女性と初めは上手くコミュニケーションを取れなかったが、それがとあることがきっかけで仲良くなっていく。
それが主人公が振る舞う料理だった。
胃袋を掴むことで主人公とヒロインは次第と関係を深めていき……。
「……っていう作戦はどう?」
「リディアさん、さすがです!」
こんな稚拙な作戦でさえ、恋愛初心者の二人には良い結果をもたらすとしか思えなかった。
来人の胃袋を掴めば、アーニャも彼の恋人になれる。
昼食はさらに腕によりをかけよう。
二人はそう決意し、食堂に戻るのだった。
そしてリディア達は各々午前中の仕事に向かう。
アーニャは泉に向かい、村民の服の洗濯に取りかかる。
服を洗いながらウキウキしていた。
(ふふ、ライト様はどんな料理が好きなのでしょう? でも私が作るものは何でも美味しそうに食べてくれます)
事実来人は特に好き嫌いは無く、何でもよく食べる男だった。
なのでアーニャは自分が好きなものを作ろうと思い付く。
(少し手間がかかるからリディアさんに手伝ってもらいましょう)
アーニャは久しぶりに作る好物を楽しみにしていた。
拠点に帰るとちょうど狩りから戻ってきたリディアもいたので、一緒に料理をすることに。
「ふふ、もちろん手伝うよ!」
リディアはアーニャのために一肌脱ぐことにした。
まずは二人で協力しつつ倉庫から猪肉を持ってくる。
それを弱火でじっくり焼いていく。
次第と香ばしい香りが拠点に漂い始めた。
焼き肉か? しかしそれは毎日のように食べているので特に珍しいものではない。
もちろん焼き肉ではあるのだが、ただの焼き肉ではなかった。
アーニャは野菜を裏ごししたソースを作り、塩で味を整えていく。
満足した味になったところでリディアが焼けた肉を薄切りにし始めた。
だがしかし、思ったような出来にはならなかった。
残念ながら火力が足りず、肉の内部は完全に生であった。
「うーん、これって失敗だよね……」
「そうですね……」
アーニャ達が作りたかったのはローストポークなのだが、中まで火が通った半生のものを作りたかったのだ。
王都ではおかずにも酒のつまみにも食べられる人気の料理でもある。
何とか工夫して思うようなローストポークを作ってみるが、結果はあまり芳しくなかった。
生だったり、火の通り方にムラがあったりと、そんなに美味しくはない。
食べられないことはないが、これなら普通に焼き肉を食べた方が美味しいだろう。
「また今度作りましょうか……」
「そうだね……」
と二人が諦めたところで。
「おー、いい匂いがするね」
「ラ、ライト様?」
来人も仕事から戻ってきて、二人が料理をしていることに気付く……のだが、あまり上手くいっていないことにも気付いてしまった。
「なるほどねー。火加減の問題か。ならちょっと待っててね」
「え? な、何をするのですか?」
来人はにっこりと微笑む。
その顔を見てアーニャもリディアもキュンときちゃったようだ。
(うわぁ、ライトさんってこんなに可愛い顔をするんだね)
(も、もっと好きになりそうです……)
なんてことを考えていた。
来人が何をするのか二人は見ていることに。
すると彼は木壁で作った鍋を持ってくる。
そして鍋に水を入れ、焼けた石を次々に放りこんでいった。
鍋からはもうもうと湯気が立つ。
そして来人は鍋の上にさらに箱を乗せて中に肉を入れた。
最後に蓋をしてしばらく待つことに。
「何をしているのですか?」
「まぁまぁ。もう少しだから。そろそろいいかな?」
来人は蓋を外す。
そして熱々になった肉を取り出し、それを薄切りにしていく。
肉の中はほんのりピンク色。
しっかりと熱が中まで伝わっている証拠だった。
これこそが二人が作りたかったものだ。
「よし、みんなが戻ってきたら食べてみようか!」
「「はい!」」
二人は嬉しそうに返事をする。
そしてパンやサラダ、お茶を用意すると村民達も戻ってきた。
全員が揃ったところで昼食を食べることに。
アーニャは薄く切ったローストポークと葉野菜をパンの上に乗せて一口。
溢れる肉汁、ちょうど良い塩加減。
食べる度にお腹が空いてくるほど美味しかった。
「美味しーい! ライトさんって本当に何でも出来ますよね! 強いだけじゃないくて料理も上手だなんて」
「ははは、そんなことないよ。さっきのは蒸し料理なんだ。覚えておくといいよ」
アーニャは二人の会話を聞いて、新たに調理方法を覚えるのだった。
そしてアーニャもリディアも、とあることに気付く。
来人のために料理を作ったはずなのに。
彼の胃袋を掴むために頑張ったのに。
いつの間にか自分達が胃袋を掴まれてしまった。
そう思うとアーニャは何だか悲しくなった。
「うぅ……。グスンッ」
「えぇっ!? なんでまた泣いてるの!? な、なんかごめん!」
困った来人は何だか良く分からないが、とりあえずアーニャに謝るのだった。
頑張れアーニャ! 来人の胃袋を掴める日はきっと来る! 多分!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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