第127話 お出かけ 其の一

 ――ワイワイ ガヤガヤ


「今日は飲むぞー!」

「だな! 今日は待ちに待った安息日だからな!」

「ねぇあなた。静かなところに行きませんか?」

「グルル。そうだな。たまにはいいか」


 窓から外を眺めると村民達は楽しそうに騒いでいる。

 その中にリザードマンのデュパが奥さんとデートに行こうとしているのを見て、なんかムカついてきた。

 蜥蜴のくせにイチャイチャしよってからに。


「ライト殿、食べないのですか?」

「冷めちゃうよー。それに早く食べてよ。今日はみんなでお出かけするんでしょ?」

「あぁ、ごめんな。それじゃいただこうかな」


 テーブルには朝食が並ぶ。ごはんに味噌汁、おかずは焼き魚ときたもんだ。

 うーん、純和風だなぁ。とても嬉しい。


 今日はアーニャが先に食べていたらしく、その間は彼女がミライの面倒をみてくれる。

 そのうちミライと一緒にご飯を食べる日も来るのだろう。

 とても楽しみである。


「ライトさん、おわかりしますか? それと今日はどこに行くんですか?」

「んー。特に決めてはないけど。そうだな、それじゃ湖にでも行こうか」


 っていうか村の外は森しかないので遊びに行く場所などない。

 唯一あるとすれば滝の湖だ。かつてデュパが住んでいた場所でもある。


 湖はラベレ村の水源であり村民のデートスポットでもある。

 綺麗な水に大きな滝。魚は釣れるし貝もたくさん獲れる。そしてマイナスイオンがタップリなのだ。

 

「湖ですか! なら暖かい服を着ていかないとですね! ふふ、楽しみです」

「ミライちゃんとおでかけー。お外に行くのは初めてだよね?」

「あぶー」


 ミライは冬の一番寒い時に産まれたので、何気に外に出るのは初めてなのだ。

 お散歩デビューだな。

 皆暖かい服を着込み、ミライのおしめも多めに持っていくことにした。

 

 自宅を出て空を見上げると雲一つない青空だ。

 まだまだ雪は残ってはいるが、最近降ってないしな。

 きっともうすぐ春が来る。


 さて、そろそろ湖に向かおうか。

 とは言っても湖には養殖場に繋がるポータルを通ればすぐに到着するからな。

 まだ朝なのでたっぷりと休日を楽しむ時間がある。


「ミライ、寒くない?」

「んきゃっ」

「リディアねえ、後で私にも抱かせて下さい」

「私もー」


 なんて平和な会話を楽しみつつポータルに向かう……途中で声をかけられた。


「おぉ、ライトではないか。家族で出かけるのか?」


 後ろを振り向くとかつて王都を統治していた魔王セタがいる。

 今では彼女も大切な村民の一人であり、ラベレ村の責任者の一人として頑張ってくれている。

 

「あぁ。ちょっと湖まで行こうと思ってね。あんたも行くか?」

「ははは、遠慮しておこう。せっかくの休みなのだ。コタツに入りながら酒でも飲むさ。その前にミライを抱かせてくれ」

「は、はい」


 リディアはセタにミライを渡す。

 彼女も赤ん坊は好きなんだろうな。

 ミライをあやしながら微笑んでいた。


「ふふ、ミライは私の孫のようなものだ。どうだ? 大きくなったら私に仕える気はないか? 秘伝の闇魔法を教えてやるぞ」

「んきゃっ」


 その光景を見てかワラワラと村民達が寄ってきた。

 皆ミライを抱きたいと言ってね。

 嬉しいなぁ。我が子がみんなに愛されている姿を見ているだけで胸が暖かくなるよ。


「ははは、皆それくらいにしておかんか」


 セタは犬人コボルトの女性からミライを受け取り俺に渡してくれた。


「では家族団欒を楽しむのだぞ」

「あぁ、あんたも貴重な休みを満喫してくれ。でも飲み過ぎないようにな」


「ははは、それは約束出来んよ」


 セタは背を向けて去っていく。

 村民達も自分達の時間を過ごすために散っていった。


「ふふ、ミライちゃん。あなたは幸せ者だね。みんなあなたのことが好きなのよ」


 とアーニャは笑顔でミライの頬をつつくとミライはニッコリと笑う。

 どうやらリディアだけではなくアーニャ達も母親として認識しているらしい。

 泣いてても誰かしらそばにいけば泣き止むしな。


 ほっこりした気持ちのまま、ようやく養殖場に繋がるポータルに到着する。

 ポータルを潜ると一瞬で目的地に着けるので大変便利だ。

 どこで◯ドア……いや目的地が限定されるので通り◯けフープみたいなもんだよな。


 今日は休みなのだが養殖場では仕事をしている村民が数人いる。

 うーん、ワーカーホリックだねぇ。日本人みたいだ。

 月に一度しかない休みなんだからしっかり休んで欲しいのだが。


 しかしリディア達に言わせるとラベレ村の勤務体制は王都のそれよりかなり緩いらしい。

 一日の労働時間は五、六時間だからな。

 自分のために使える時間は俺が想像しているより多いらしい。

 

「そうですよ。だって定時が三時なんて職場は王都では考えられないことですから」


 とアーニャは言うが夜は必ず異形がやってくるからなぁ。

 しかし村民達は自分の命を守るためにそれは仕方ないことと思ってくれている。

 さっさと異形を倒して平和に働ける村にしたいんだけどね。

 やはり休みは最低週二回は欲しいでしょ?


「みんなは週二休みなら何をしたい?」

「一日はライト殿と裸でベッドで過ごしたいです」

「あー! ずるい! なら私も!」

「わ、私もその案には賛成です!」

「ふふ、みんなエッチね。でも私も参加しちゃおうかしら?」


 おいおい、昼から下ネタかよ。

 ははは、考えておくよ。ならもう一日はどう過ごしたいのだろうか?


「ふふ、やっぱりこうして家族だけで遊びに行きたいですね」


 とリディアは言う。

 そうだな、それじゃ今日は家族だけで休みを楽しもう。

 養殖場にある門を開けると、外は雪に包まれた湖の畔が目に入った。

 湖は半分程凍っている。一面の銀世界だ。

 

「うわぁ、綺麗……」

「んきゃー」


 ミライはリディアに抱かれたままご機嫌に笑う。

 外で見るものの全てが初めて見るものだからな。

 きっとテンションが上がってしまったのだろう。


 俺達はザクザクと雪を踏みしめ岸に向かうことにした。

 さぁ、楽しい休日の始まりだぞ。


 

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