第79話 4人目の同居人 リリの気持ち

 ラベレ村にある一番大きな家。

 ここには来人とその恋人である三人が住んでいる。

 

「わー、おっきなお家だね」

「だろ? でも三階には誰もいないんだ。しばらくはそこを使ってな」


 リリは来人に手を繋いだまま家の中に入っていった。

 彼女は少女のふりをしたままだ。幼い外見ではあるが、これでもリリはとっくに成人を迎えている。

 リリが少女のふりをしているのは来人がどのような者かをその目で確かめるためだった。


 その後ろで三人目の恋人であるシャニが来人達の様子を黙って見つめていた。


(リリ。一体何を考えているのですか)


 シャニは思った。もちろんリリは可愛い部下であり、シャニはリリの悩みを知ってる。 

 だがそれとこれとは話は別だ。

 シャニはリリが自分達の愛の巣に転がり込んでくることを良く思わなかった。

 むしろ怒りすら感じている。来人に協力するように言ったのは自分だが、この展開はシャニの想像を超えていた。


「ライト殿、リリに部屋を案内してきます。リリ、来なさい」

「わわっ」


 シャニは強引にリリの手を取って三階に向かう。

 一階は来人の自室……というかエッチする部屋とリビングのような共有スペース、二階はリディア達の部屋だ。

 そして三階はかつてシャニが暮らしていたが、今は物置として使っている。

 

 その一室に二人は入る。

 そしてシャニは無表情のままリリに問いかけるのだった。


「リリ、どういうことですか?」

「隊長、言ったはずです。協力するにはライトがどのような者かを知る必要があると。幸いライトは私のことを子供だと思っているようです。自宅に潜入し近いところで彼を観察する機会を得ただけです」


 ――ピキッ


 シャニの額に青筋が浮かぶ。

 リリがライトの名を呼び捨てにすることが気に障ったのだ。

 それは仕方ないことだ。シャニは本能的に自分より強い者を敬う。そして来人のことを心から愛している。

 そんな来人のことを部下ではあるが、リリが呼び捨てにしていることが気に入らなかった。


 しかしリリにとっては来人は観察対象の一つに過ぎないのだろう。

 協力を申し出たのは自分だ。ここは我慢することにした。


「なるほど、納得しました。ですがいきなりアーティファクトを作るのは止めなさい。あれは知られてはならない技術なのですよ」


 シャニはリリを諌めた。

 リリが作った超防音シートというのは古代魔法を流用してリリが独自に作り上げた対異形用の道具の一つである。

 高性能であるが故、市勢に広まっては犯罪を誘発する可能性があると部隊内のみの使用に留めたはずだ。


「でもおかげで潜入出来ました。ご安心を。私の技術をひけらかすつもりはありません」

「分かりました。一つ聞きます。ここまででライト殿をどう思いましたか?」


 シャニは質問した。

 超防音シートだけではない。リリはその聡明な知識から多数の異形用の兵器、道具を作り出してきた。

 それはリリにしか作り出すことが出来ないものだ。

 それだけではない。リリは異形に囚われる前、とある物を作っていた。

 まだ試作段階ではあったが、形勢逆転を可能とする強力な兵器だ。


 リリが来人に協力すれば、異形との戦い方は変わってくるだろう。

 そして王都で成しえなかった悲願を果たせることになる。

 異形を倒し、この大陸に平和をもたらすことを。


 しかしリリはちょっと違うことを考えていた。


(さすがは隊長を夢中にさせた男よね。人族だけど優しい人みたい。顔も悪くなかったね。ふふ、私を子供だと思ってたみたいだけど、手を握ってくれた。男の人の手ってあんなに大きいんだね。もう一回触ってみたいなぁ)


 なんてことを考えていた。


「うふふ……」

「リリ、どうしたのですか?」


「ふぁっ!? 手が大きいと思いました!」

「そういうことではありません」

 

 男性に免疫の無いリリである。

 子供扱いされたことはいただけないが、少なくとも来人のことを悪人だと思えなかった。

 

(協力しても問題無いかもしれない。でもまだ……)


 リリは自分の考えをシャニに伝えることにした。


「まだです。悪い人間ではないと思いますが、やはり人族です。隊長も知っているはずです。北の大陸の人間は王都に侵攻しようとしていたはず。ライトが北の大陸と全く無関係だと分かるまで少し時間をいただきます」

「ライト殿は異邦人です。北の大陸とは関係が……」


「それでもです。私の技術が完成すれば一国を滅ぼすことも可能になるでしょう。だからこそ慎重に見極めてばなりません」


 リリの言葉は嘘ではない。

 エルダードワーフは普通のドワーフのような膂力こそ持っていないが、聡明な頭脳を持っている。

 その中でもリリは天才と呼ばれる人物だ。

 その知識を買われ、彼女は王都の未来を守るべく暗殺部隊にスカウトされたのだ。


「分かりました。ではあなたが住みやすいよう壁にシートを張り付けましょう。手伝います」

「はい。よろしくお願いします」


 二人は部屋の壁に超防音シートを張り付け始めた。

 これで外部からの音は遮断されるはず……なのだが、リリはこっそり仕掛けを施しておいた。

 

 作業を終えシャニと共に一階に戻ると二人の見慣れぬ女性がリビングにいた。


「リディア姉、アーニャ姉、お帰りなさい」

「シャニ、ただいまー!」

「ふふ、ライト様から聞きましたよ。その子がリリちゃんね」


 と二人はリリを歓迎した。

 子供扱いは気に入らなかったがここは正体を隠すべきと我慢することに。

 

「それじゃリリの歓迎会をしなくちゃ。みんなで美味しいものを作ろうよ!」


 とエルフの女性、リディアが音頭を取る。

 そして三人は仲良く夕食の準備に取りかかるのだった。

 

 料理を始める三人の背中を見てリリは思う。


(みんな楽しそう。いいなぁ、家族みたい)


 ここには自分が追い求めてきたものがあるとリリは思う。

 自分も仲間に入れたらきっと楽しいだろうとも。


「ライトさんはまだ帰ってきてないの?」

「先程デュパさんに話があるって出ていきましたよ」


 と話しているとちょうど来人が戻ってきた。

 三人は嬉しそうに来人に抱きつきキスをする。

 その様子をリリは恥ずかしそうに見つめていた。


(う、うわぁ。隊長がチューしてる。っていうか舌も入ってる!?)


 目が離せなかった。


「ぷはっ。こら、リリが見てるだろ?」

「キスくらいなら問題無いでしょう」


 鬼の隊長と呼ばれたシャニとは思えない発言だった。

 免疫の無いリリにとっては大問題である。


 そして料理は完成し、楽しい夕食の時間だ。

 

「デュパから魚と貝をもらってきてな。養殖に成功したんだって」

「わー、すごく美味しいです!」


 と皆、おしゃべりをしながら夕食を楽しんでいた。

 リリもこんなに楽しい食事は久しぶり……というか初めてだった。


 だがそろそろ異形が攻めてくる時間となった。

 しかし満月は過ぎたので苦戦することなくあっさりと撃退する。

 村民は何事も無かったように家に戻るが、その様子を見ていたリリは度肝を抜かれた。


(なんなのこの村は!? 異形をまるでウサギを狩るみたい倒していくなんて……)


「よーし、みんな帰ろうか」

「はい」

「…………」

 

 リリは言葉もなく三人の後についていくだけで精一杯だった。

 そして深夜になりリリは一人三階に向かう。

 ベッドに横になると来人と恋人達のことを思い出した。


(やっぱりいい人には違いないよね。だってみんなあんなに楽しそうだったし。それにしてもあの強さは何? リディアとアーニャは隊長よりも強いみたいだし……。それにライトの強さは別格だった)


 楽しい食事と皆の勇姿を思い出す。

 特に来人の槍さばきは目を見張るものだった。


 ――ギシッ ギシッ


『……トさぁん』

『……リァ』


 突然聞こえてくる何かがきしむ音、そして二人の男女の声。

 リリの部屋は防音シートで外部からの音を遮断しているはずなのだが。


 実はリリは壁に貼ったシートを普通のシートに貼り替えておいた。

 彼女の見た目は幼いが中身はお年頃なので、もちろんエッチなことには興味深々なのだ。

 

 リリは二人の声を聞いて下腹に熱が溜まっていくのを感じる。

 

(ど、どんなことをしているんだろう)


 興味を抑えられなくなったリリは音を立てずに一階へと降りる。

 音と声は次第と大きくなる。


 来人の自室のドアは開いていた。

 そして影から中を見てみると……。


(嘘!? あ、あんなに大きいの!? そ、それをあんなところに……!?)


 見てしまった。来人とリディアが愛しあっている姿を。

 リリは二人が果てるまでその光景を見続けるのであった。


 行為が終わり、リリは悶々とした気持ちで自室に戻る。

 ベッドに横になりながら思う。


(あ、あんなの無理。私にはあんなこと出来ないよ……。でもすごく気持ち良さそうだった)


 なんてエロいことを考えていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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