第78話 リリちゃん

 ――ゴソッ


 ん? 誰ががベッドに入ってきたぞ。

 まだ暗いな。夜明け前だ。

 眠い目を開けるとシャニと目があった。


「トイレでも行ってたの?」

「はい。起こしてしまってごめんなさい」


 別にいいさ。

 でも不思議だな。寝る前まで裸だったのに寝間着を着ている。

 シャニは何気に大胆でエッチの後は裸でいることが多い。

 トイレだってそのまま全裸で行くこともあり、アーニャに注意されていたこともある。


 まぁシャニも今の生活に慣れてきたということだろう。

 そのままシャニを抱き枕にして再び眠ることにした。


 ――ピコーンッ


【遭難者2名が一定時間敷地内に滞在しました。対象を村民にしますか?】


 いつもの天の声が聞こえる。

 俺はYESと念じ目を閉じるのだった。


 そして朝が来る。俺達はいつも通り、各々割り当てられた仕事に向かうのだが……。

 シャニがドワーフの様子を見に行こうと提案してきた。

 

「気になるのか?」

「はい。あのドワーフはまだ子供ですから。目が覚めたら不安に思うでしょう。早い内にライト殿が村長として接してあげるべきかと」


 なるほどねぇ。確かにまだ子供みたいだったしな。

 そういえば遭難者であれくらいの歳の子って初めてじゃないか?

 これから子供の遭難者も増えるかもしれない。

 ならシャニの言う通り俺も今の内に接し方に慣れておく必要があるだろうな。


「分かった。それじゃシャニ、通訳も頼めるか?」

「はい」


 ――ブンブンブンブンッ!


 なんかすごく嬉しそうだな。

 リディア達は今日はそのまま仕事に向かうそうだ。

 新しい村民が初出勤なんだそうで。面倒を見なくてはならないらしい。


「行ってきまーす!」

「では行って参ります」

「あぁ、頑張ってな」


 二人に別れを告げ、俺達も保護室に向かうことに。

 隣を歩くシャニはこっそり手を握ってきたりと、終始ご機嫌だった。


 お世話係の村民に挨拶をして小屋に入ると……。


「…………」


 エルダードワーフの少女はベッドに入ったまま、俺達を不安そうに見つめていた。

 怖いんだろうな。俺は精一杯の笑顔を作り、彼女と目線を合わせる。


「ははは、そんなに緊張しないでくれ。俺は来人っていうんだ。ようこそラベレ村へ。ここにいれば何も怖いことはないからね」


 どうせ言葉は通じないんだろうさ。

 シャニに俺が何を言ったのか伝えてもらおうとしたが……。


「は、はい。よ、よろしくお願いします」


 んん!? 言葉が分かるぞ!?

 驚いた。他の村民達と違い、俺の言葉が分かるようだ。

 全く、何が基準で言葉が理解出来る人と出来ない人が分かれるのだろう。

 謎である。


 しかし分かるのであれば好都合。

 通訳を介さずにコミュニケーションが取れるからな。


「君、名前は?」

「はい、リリっていいます」


 ほう、中々可愛い名前だ。


「そうか、リリちゃんか。これからもよろしくね、リリちゃん」

「リリちゃんって……」

「ぷっ」


 ん? リリはなんかワナワナしてるし、後ろではシャニが笑ってるではないか。

 何か変なことを言っただろうか?

 

「どうしたんだ?」

「い、いえ。何でもありません。そのですね、出来ましたらリリちゃんと呼ぶのは止めて頂けると……」


 なるほど、分かったぞ。

 子供扱いするなってことだな。

 ははは、確かに俺が悪かった。

 きちんと一人の女性として接してあげないとな。


 でもリリってかなり丁寧に話すな。

 口調が子供らしくない。

 親御さんの教育がしっかりしてるんだろうな。


「ごめんなリリちゃん。って、また言っちゃったよ」

「…………」


 うわっ、睨まれた。

 子供扱いがそんなに嫌いか?

 でも俺は子供は子供らしくあるべきだと思う。

 リリのようなよそ行きな言葉ではなく、彼女自身の言葉が聞きたいな。

 なら俺もリリに対する態度を変えないといけないのかもな。


「なぁリリ。そんな硬い言葉は止めてくれないか。せっかくこうして出会えたんだ。俺と友達になって欲しい」

「友達? どういうことですか、ライトさん?」


 彼女はまだ子供だ。仕事をあてがってもこなせるとは思いない。

 なら子供らしくのびのびと生活してもらいたい。


「そうだ。友達だ。だからさ、俺のことは来人って呼んで欲しいんだ。友達にさん付けするのなんかおかしいだろ?」

「…………」


 リリはちょっと困った顔をしていた。

 しかし決心がついたのか、まっすぐ俺の目を見つめて。


「うん、分かったよ。私、ライトのお友達になるね。よろしくね、ライト!」

「ははは、そうこなくっちゃ! それじゃ今日から友達だな!」


 勢いよく手を差し出す。

 リリはまたちょっと困った顔をした後、オドオドと俺の手を握ってくれた。

 うーん、可愛い手だな。それに指が細い。

 つい30年前は俺もこんな手をしていたんだなぁとしみじみ思う。


「ねぇライト。私ってここに住むことになるの?」

「ん? そうか、いつまでも保護室にいるわけにもいかないよなぁ」


 基本的にラベレ村の村民は俺が建てた小屋に4人から6人で同居してもらっている。

 この中で恋人関係に発展した者は同じ家に住めるよう考慮はしているが、子供一人が大人だらけの家に住むのはかわいそうかもしれない。


 ならリリが寂しくないように、俺達の家の近くに新しく小屋を建ててやるかな。


「ねぇライト。私ね、ライトのお家に住みたいな」

「駄目です」


 ん!? 今まで一言も喋らなかったシャニがいきなり断ったんだけど!?

 

「こら、シャニ。こんな小さい子のお願いを……」

「認めません」


 ――ゴゴゴッ


 な、なんだろうか。シャニの背中が熱気で歪んでいるように見えるんですけど。

 なんか擬音まで聞こえてくるんですが。

 めっちゃ怖い。耳は威嚇するように伏せられており、尻尾は逆立っている。

 いつもの無表情がより恐怖をあおってくるんだが。


 とりあえず一旦シャニを外に連れ出すことにした。


「な、なぁシャニ。なんで断るんだよ。部屋は余ってるんだし別にいいだろ」

「駄目です。小さい子だからです。ライト殿は小さい子にあの時の私達の声を聞かせるつもりですか?」


 あー、なるほどねー。

 確かにみんな騒音公害ってくらい大声出すもんね。

 それが可愛いところではあるが、多感な時期の子に聞かせるもんじゃないよな。

 

 でもさ、それって声を我慢すればいいだけじゃないの?


「それこそ無理な話です。あの快感を前に自分を抑えることなど到底不可能です」

「そうなのね……」


 普段抑揚の無い喋り方をするシャニですら、めっちゃ乱れるからな。

 彼氏としては嬉しい言葉ではあるが、これではリリが一人寂しく村で生活することになる。

 他に一緒に住んでくれる人を探すかなぁ。


 とりあえずリリに伝えよう。 

 どうするか少しだけ時間をもらうことになるってな。


 保護室に戻るとリリがベッドに敷いてあるシーツを使って何やら作業をしていた。


「何してるの?」

「えへへ、ごめんね。ちょっと聞こえちゃったの。夜に何かするんでしょ? 私に聞かれたくないんだよね。だからこんなもの作ってみたの」


 とリリはシーツを差し出すのだが。

 これがどうしたというのだろうか?

 

 リリはおもむろにシーツを俺の耳に当てる。

 

 そして……。


「~~~~~!」


 ん? 振動がシーツ越しに伝わってくる。

 何をしてるんだ?


 シーツを離すとリリが説明してくれた。


「これって何?」

「えへへ、これはね、超防音シートなの。これを壁に貼れば外からの音は聞こえなくなるんだよ」


 嘘? こんなシーツが?

 試しにシャニの耳に布を当て、大声を出してみた。


「聞こえた?」

「いいえ。全く」

「えへへ、すごいでしょ」

 

 とリリは得意気に笑う。

 マジか、この短時間で不思議な道具を作り出すとは。

 リリって一体何者なんだ?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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