第72話 鉄の壁と決意

 我がラベレ村で発生した「お塩が足りない事件」はあっさりと解決し、そしてさらにびっくりするほど簡単に壁レベルの上がった。

 石壁からとうとう鉄壁に進化したわけだ。

 そして今俺は村の壁を全部建て替えようと思っている。


「わー、楽しみです! ライトさん、頑張って!」

「さすがはライト様、壁については右に出るものはいませんね!」

「壁職人。いえ壁聖人ですね」


 みんな応援してくれているのだろうが、アーニャとシャニの応援はなんか違う気がする。

 しかもシャニ、壁聖人って何? 初めて聞いたわ。

 まぁいいか。今は壁を新しくして、鉄壁がどれくらい強固なのかを確かめないと。


「始めるぞー。ちょっと離れててなー」

「はーい」


 恋人達を後ろに下げ、俺は壁の前に立つ。

 壁に向かって念じる。一つ頑丈な奴を頼むぜ。

 せーのっ!


【壁っ!】


 ――ズゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 とりあえず村を囲う一辺だけ建て替えてみる。

 石壁は消滅し、それと入れ替わるように明らかに金属で出来た真っ黒い壁が現れた。


 素人目でも分かる。この壁は明らかに石壁以上の強度を誇るだろう。

 一応テストとして石壁から取り出した塊を力いっぱい鉄壁にぶん投げてみることにした。


 せーのっ!


 ――ブンッ! バキィンッ!


 衝撃で石は粉々に砕けたが、鉄壁は傷一つ付いていない。

 よし、問題無いみたいだ。

 せっかく新しい壁が手に入ったんだ。

 そのまま村の拡張をしてしまうことにしよう。 

 でもその前に。


「シャニ、ちょっと聞いていいかな?」

「なんでしょうか」


 彼女は自我に失う前は国の秘密部隊を率いていたキャリアウーマンでもある。

 今は可愛い俺の恋人だけど。

 彼女は俺達以上に異形の生態や強さを知っていると思ってね。

 

大規模襲撃スタンピードを想定してくれ。まだ村民は200人もいないが、近い内にそれくらいは集まるだろ。200人の村民と鉄壁、今の装備であればどれくらい広くしても襲撃に耐えられると思う?」

「4倍が限界かと」


 と迷うことなく答えてくれた。

 4倍か、思ったより広かったな。

 俺は3倍がいいところだと思ったよ。


 今のラベレ村の敷地はおよそ8000㎡。一辺の長さが約90mくらいの正方形に近い形をしている。

 一辺を倍の長さにすれば敷地面積は4倍だ。

 敷地面積は32000㎡ってところか。

 かなり広くなるな。それでも野球場より少し広いくらいだが。

 まぁ今はそれでいいさ。

 実は他にも敷地面積を広くするためのいいアイディアがあるのだが、それはまた後の話だ。


「シャニ、ありがとね」

「いえ」


 ――ブンブンブンブンッ!


 ははは、すごく嬉しそうだな。

 それじゃ可愛い恋人のアドバイス通りの広さまで村を拡張するか!


【壁っ!】


 ――ズゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 村を囲う全ての壁の拡張を終える。

 一度櫓に登って全景を確かめてみることにした。

 

 リディアは広くなった村を見て驚いている。


「うわぁ……。すごい! 広くなりましたね!」

「あぁ、これからは各職場を大きくすることも出来るし、畑だって広くする。村民も増えるだろうから家もどんどん建てなくちゃいけないしね」


「うふふ、やはりライト様はすごいです。まるで神様みたいですね」

「ははは、俺はそんなたいしたことはしてないさ。生きるのに精一杯なだけだよ」


 アーニャが俺を誉めてくれるが、彼女達がいなかったらここまでやれなかっただろう。

 俺が頑張ってこられたのは彼女達のおかげなんだ。

 

 ――ギュッ


「ラ、ライトさん?」

 

 まずはリディアを抱きしめる。


「聞いてくれ。最初にこの世界に転移して見つけたのが君だ。リディアがいなかったら俺は異形に殺されてただろうさ。リディアに出会えて俺は本当に幸運だったよ。リディア、これからも側にいてくれ。愛してるよ」

「ライトさん……。ん……」


 最後にしっかりとキスをしておく。

 次だ。今度はアーニャを抱きしめる。


「アーニャ、二番目に好きになったのは君だ。でも順番は関係無い。種族の差だって同じことだ。いつも俺の世話をしてくれてありがとう。アーニャの作るごはんをいつも楽しみにしてるんだ。これからもよろしく頼む。愛してるよ」

「ラ、ライト様ぁ……」


 キスをすると二股に分かれた舌が入ってきた。

 まさかラミアの恋人が出来るとはね。

 人生とは分からないもんだな。


 最後だ。シャニを抱きしめる。


「シャニ、君は二人よりも過ごした時間は短い。だが愛に差はないから安心してな。全員同じくらい好きなんだ。これからもずっと側にいてくれよ。シャニ、愛してる」

「どこにも行きません。こんな私を愛してくれるのはライト殿以外にいませんから」


 シャニは尻尾を振って喜んでいる。

 そのまま抱きしめてキスをした。


 可愛い恋人と村を前にして思う。

 なんか意味も分からず来てしまった世界だが……。

 ふふ、俺はここで生きる運命だったのかもな。

 なんて柄にもないことを考えてしまった。


 いかんいかん。俺らしくないぞ。

 よし! いつもの調子でいこう!


「みんな! これからがスタートだ! もっと村を発展させる! 今よりもずっとだ!」

「「「はい!」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る