第60話 シャニのリクエスト

「うーん」

「ライト様? どうしたんですか?」


 昨日見た光景が頭から離れない。

 アーニャ達とイチャイチャした後、俺は一人風呂に入りに行った。

 男性用の脱衣場を使ったのだがなんとそこにはシャニがいたのだ。

 

 一応男女別に脱衣場を作ったのだが壁に書いたのが地球で一般的な♂♀のマーク。

 新入りのシャニが分かる訳ないよな。


 俺は裸のシャニと鉢合わせになってしまった。

 そして見てしまったんだ。シャニの股間についている大きくなった俺と同じものを。

 

「うーん」

「ライトさん、朝ごはんが冷めますよ」


 これって聞いた方がいいのかな?

 しかしだな、これはかなりデリケートな問題だ。

 下手に口に出して、もしこの話が広まったらシャニを傷つけてしまうだろう。


「うーん」

「ライトさん!」「ライト様!」


 ん? なんかリディア達が大声を出したぞ。

 っていうかいつの間にそこにいたの?


「や、やぁ、おはよう」

「おはようじゃありませんよ」

「早くごはんを食べて下さい。もう仕事の時間ですよ」


 しまった、ぼーっとしてたみたいだ。

 俺は急いで冷めてしまった朝ごはんをかき込む。


「一体どうしたんですか? 起きてからずっとその調子ですよ」

「具合が悪いのでしたら今日はお休みになられても」


 と心配されてしまった。

 昨日の一件は話すわけにもゆくまい。

 適当にはぐらかしておいた。


 それにしても昨日見た光景が頭を離れない。

 両性具有は話に聞いたことがあるが、まさか実物を見ることになるとは。


 いそいそとテーブルの食器を片付けるリディア達を見て思う。

 リディアの、そしてアーニャの股間にもしアレが付いていたら……。

 俺は彼女達を愛せるのだろうか?


『ライトさぁん。そんなとこ握っちゃだめぇ』

『そ、そんなに動かしては……』


 いや、有りだな。全然有りだ。

 全く問題無い。

 付いていようとなかろうと、中が女の子であれば大した問題ではないよな。

 むしろあんなことやこんなことも出来るし、プレイの幅が広がるな。

 やはり抵抗なく受け入れられるのは、俺が日本人だからなのだろう。

 その手のエロ漫画とか持ってたし。


 なんて朝からゲスいことを考える。

 さてと、それじゃ仕事に行かないとな。

 今日は森に探索に向かうのだ。

 探索班は俺とリディア、アーニャ。比較的力のあるエルフとラミアの計5人。

 森は危険だからな。もし猪に襲われても単独で勝てるだけの腕が必要だ。


 村を出る前にシャニに挨拶に行くことにした。

 昨夜はアクシデントがあったものの、これから村で住むんだ。

 このままだとお互い気まずいまま過ごすことになりそうだしね。

 なるべく自然な感じで話すとしよう。


 シャニは新しく保護した犬人と小屋をシェアしてもらっている。

 彼らのために建てた小屋に向かうとテリアっぽい犬人が出迎えてくれた。

 彼とは言葉が通じないのでリディアに用件を伝えてもらう。

 聞き慣れない言葉を交わした後、リディアが俺に話してくれた。


「シャニはここにいないそうです。それにあの人がこんなことを言っていました……」


 リディアは要約して伝えてくれた。

 シャニがここにいない理由だが、気がついたら小屋にいなかったこと。

 そして犬人達はシャニのような者と同じ空間にいたくないと。出来たら彼女と違う小屋で住みたいからシャニに出ていってもらうか、もしくは自分達が違う小屋に住みたいと言っていたそうだ。

 むむ、わがままなことを言うなぁ。


 俺の機嫌が悪くなったことをリディアは察したんだろうな。


「ライトさん、ごめんなさい。あんまり言いたくはなかったんですけど……」

「いやリディアは悪くないよ。でもさ、そんなに亜種っていうのは嫌われてるのか? ちょっと見た目が違うだけじゃん」


 犬人ってのはファンタジーにおけるコボルトって種族だ。

 二本足で歩く犬って感じだな。

 しかしシャニはコボルトであるにも関わらずその姿はほとんど人間と変わらない。それを亜種と呼ぶみたいだ。

 見た目が違うだけで犬人は亜種のシャニを受け入れられないのだろう。

 

「悲しいことですが、王都にも差別が存在しました。この村に住む人は比較的寛容な者が多いですが、新しく来た人達は様々なことをまだ受け止めきれていないのでしょう」


 と今度はアーニャが言う。

 そうだよなぁ。この世界だけじゃなくて地球だって差別がなくなったわけじゃないし。

 つい100年前までは人種によっては奴隷扱いされていた人達だっていたんだ。

 いきなり今までの常識や慣習を無くせって言われても難しいだろう。


 まぁシャニも犬人達もこれから村で生きていくんだ。

 ゆっくりでもいいさ。少しずつお互いに歩みよっていけば偏見を無くしていけるだろ。

 しかしケアは必要だ。それに対応策も。

 いきなり犬人達と一緒に仕事をさせると問題が出てくるかもしれない。

 少しずつ距離をつめるためにもシャニには他種族と一緒に仕事をしてもらおう。


「そういえばシャニにはどんな仕事をしてもらうか伝えてなかったな。探索に出る前にシャニに話しておこうか」

「はい! いい考えだと思います!」


 意見が一致したので俺達はシャニを探す。

 狭い村だ。すぐに見つかるだろ……と思ってたんだけどねぇ。


「いませんね」

「どこに行ったんでしょう?」


 うーん、これから探索にも行かなくちゃだし。

 あんまり時間を潰すわけにはいかんぞ。

 仕方ないので散会して村中を探すことにした。


 俺は村の北側を見てみることに。

 溜め池とか畑がある付近だな。

 ちなみに風呂も近くにある。

 朝と夜の二回お湯を沸かすので村民達は気軽に風呂を楽しめるようにしてあるのだ。


 ちょっと風呂を覗くと男湯には誰もおらず、女湯にはおばちゃんエルフとおばちゃんラミアが入っていた。

 

「ご、ごめん」


 と風呂を覗いてしまったことを謝るが、二人はガハガハ笑いながら一緒に入るような手招きをする。


「ははは、また今度にするよ」


 とジェスチャーを交え風呂を離れる。

 その間ずっとおばちゃん達は笑っていた。


 ふー、ちょっと焦ったぜ。

 村長自ら出歯亀してしまうとは。

 入ってるのがおばちゃんで助かったよ。


 気を取り直してシャニを探す。

 それにしても見つからんなぁ。

 場所を変えるか。


 そう思った時だ。櫓の上に誰かがいる。

 夜は異形と戦うために必要な設備だが昼間は使っていない。

 使う必要の無い櫓に誰かがいる。

 

 俺は櫓の下に向かい、竹で組んだ梯子を昇る。

 すると櫓の床に座るシャニと目が合った。


「シャニ。おはよ」

「あ。村長。おはようございます」


 村長って。一応村長みたいなことはしてるけどストレートに言われるのは初めてだな。

 

「隣いいかな?」

「どうぞ」


 と彼女は俺が座りやすいように体をずらしスペースを作ってくれた。

 さて、何から話すかな。

 いきなり昨日の事件のことは言えないし。

 とりあえず当たり障りの無い話から進めてみるか。


「あのさ、村民……っていうかここに住んでる人は何かしら仕事をしてもらってるんだ。シャニは何かしたいことはあるか?」

「仕事ですか。どのような仕事があるのでしょうか」


 前回決めたのは探索、狩猟、農業、製造。

 他にも服飾、整備、養殖なんてのもある。


「一応こんなところかな。村民が増えたら仕事内容も増えるだろうが……」

「提案があります」


 ん? 言葉を被せてきたぞ?


「村長の服を見れば分かります。毛皮の加工に頼っていますね。それでは人が増えてきたら対応しきれなくなります」

「だよねぇ。確かにそうだ」


 シャニの言う通り、今は猪などの獣の毛皮の服を作っている。

 獲物は豊富だが、狩り尽くしてしまえば村民に宛がう服は作れなくなってしまう。

 

「家畜を捕まえてくるべきでしょう。それに獣の中には乳を出す種類のものもいます」

「牧畜か。そろそろ手を出してもいいかもな」


 一応考えていたことではある。

 しかし付近にはその手の獣はおらず、俺も見たことがない。

 なので一旦諦めることにしたんだ。

 でもシャニのリクエストもあることだし、やってみてもいいかもな。


「分かった。これから森に行くんだ。飼えるような動物がいたら捕まえてくるよ」


 とは言っても羊や牛みたいな動物がいるのかは知らないけど。


「村長。羊は臆病な生き物です。それ故に気配には敏感で近づく前に逃げられてしまうでしょう。素人では生け捕りには出来ません」

「狩ることは出来ても生け捕りは難しそうだね」


 むむ、何気に難しいミッションだな。

 しかしそこでシャニが意外なことを言う。


「私が同行しましょう。気配を殺すのは得意ですので」

「シャニが? 森は危ないんだが……。いや、やはりお願いしよう」


 シャニのステータスは俺達よりは低いが、それでも他の村民に比べれば異常と呼べるほど高かった。

 彼女がいれば心強いな。


 俺はシャニの提案を受け入れることにした。


「そうか、それじゃそろそろ行こうか。あ、それとさ。悪いけど村長は止めてくれるかな?」

「村長では問題でも?」


「問題はないんだけど、やっぱり名前を呼んで欲しくてね」

「分かりました。ではライト殿で」


 殿って。侍かよ。

 ははは、村長よりはマシか。


「よし、行こうか!」

「はい」


 うーん、緊張してるのかな? 

 シャニってあんまり感情を出さないタイプなのかも。

 さっきからくすりとも笑っていないんだが。

 

 まぁ、彼女ともゆっくり打ち解けていけばいいさ。


 俺はシャニと一緒に村の出口に向かう。

 その道中でシャニはこんなことを言ってきた。


「ライト殿。もう二つお願いがあります」

「二つなのね。何?」


「家畜としての獣の世話は私がやります。ある程度ではありますが心得がありますので」

「分かった」


 もともとシャニが言い出したことだしな。

 別に断る理由は無い。それに心得があるのはありがたい。

 だって俺は牧畜については全くの素人ですし。


「もう一つなのですが」

「はいよ。何だ?」


「私をライト殿の家に住まわせてくれないでしょうか?」


 んん!? それってどういうこと!?

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!

 お気に召しましたらご評価頂けると喜びます!

 更新速度が上がるかも!? ☆☆☆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る