石の壁の章

第46話 石壁

 デュパ達リザードマンを村民として迎え、そして拠点の名前をラベレと命名したその翌日。

 俺はリディア達と一緒に敷地を囲う壁の建築に取り掛かる。


【壁!】


 ――ズゴゴゴッ


 今までにない重厚な音を立て、分厚い石壁が地面から飛び出してきた。


「うわぁ、すごい……」


 とリディアは驚いている。

 実は俺もなんだけどね。これは頑丈そうだ。


「だな。しかし新しい壁か。これで村の防御力は間違いなく上がっただろうね」


 壁の厚さは30㎝はある。

 竹壁でさえかなり頑丈だったのにな。これはそう簡単に突破出来ないはずだぞ。

 今夜から異形の襲撃があるはずだ。せっかくなので新しい壁の性能テストもしてみようと思う。


「ねぇライトさん。新しい壁で家を建て直すんですか?」


 とリディアは聞く。

 んー、実はそれも考えたんだけどねぇ。

 石壁は木や竹に比べ、扱いが難しいみたいだ。

 加工しにくいんだよね。

 それに一番の問題はこの厚みだ。


「石壁なんだけどさ、かなりぶ厚くなってるだろ? これで家を建てるだけで敷地の面積を圧迫するからね。家にするにはもっと村を広くしないと」

「そうですか。ちょっと残念です」


「ははは、そう言いなさんな。それに家に関しては石より木の方が利点もあると思うよ。風通しはいいし、何より暖かいしさ。石壁だけの家はきっと寒いと思うぞ」

「ふふ、確かにそうですね」


 まぁ、家の素材としては使えないが用途は色々考えられる。

 とりあえず今は囲いを石壁にしておくだけに留めておいた。

 色々と試したいことはあるが、今日は別のことをやらなければならない。


「今日は水路を作りに湖に行かなくちゃね」

「そうですね。人も増えて、そろそろ食べ物の在庫が少なくなってきましたし……」


 そう、リザードマンの移住により村民が一気に増えた。

 彼らを食わすためにも今は食糧の確保が最優先。

 主食としてパンを考えているが、ナババの実は綺麗な水がないと育たない。

 村でナババを栽培するには水路をここまで引く必要があるのだ。


「リディアは今日は……。そうか、別の仕事があったよな」

「はい、一緒に行けないのが残念です……」


 と悲しい顔をする。

 増えた村民のために弓を用意するのが彼女の仕事だ。

 しかも作る弓は普段使いのものではなく、竹を張り合わせた複合弓を作る予定だ。


 本来なら金属も使うみたいだが、生憎俺達には金属を扱う技術はないし、それ以上に鉱石なんかはまだ見たことがない。


 その内地人……ドワーフに出会えたら金属加工なんかをお願いしてみるってのもいいかもな。


「ふふ、でもライトさんの竹なら金属を使わなくても充分に威力を出せるはずですよ。だって……」


 ん? リディアが言葉を詰まらせてるぞ。

 なんか顔を赤くしてモジモジしてるし。


「だってライトさんの竹のベッドってすごく頑丈で寝心地がいいんですもん」

「なるほどね」


 顔を赤くしてる理由が分かった。

 昨日はデュパ達の歓迎会でテンションが上がってしまった俺達は3人でベッドに入り楽しむことになったわけだ。

 

 しかし、かなりアクロバティックなことにも関わらず竹のベッドは衝撃を吸収し、最高の寝心地を感じさせてくれた。

 我ながら良いものを作ったと思う。


「こ、今夜もいっぱい可愛がって下さいね」

「あれ? 今日はアーニャの日じゃなかったか?」


 一日置きと決めたはずだが、気分によって変わるみたいだな。

 リディアをからかいつつ自宅に戻るとアーニャが荷造りをしていた。


「準備出来た?」

「はい! いつでも出られます!」


 水路作りはアーニャに手伝ってもらうことにした。

 彼女は魔法こそ使えないが、器用で何でもこなす。

 料理に裁縫、薬学の知識もあるが、それ以上に彼女には他の者にはない機動力がある。

 アーニャはラミアであり、その下半身は蛇の体をしている。

 進みにくい森を歩くよりも速いスピードで進むことが出来るのだ。

 一日に作業出来る時間は限られている。夜には異形の襲撃があるからな。

 移動時間を短縮することで作業に使う時間を増やすことが出来るのだ。


「デュパ達は?」

「先に湖に向かいました。ライト様が来るのを待ってると言ってましたよ」


 アーニャだけではなく、膂力の強いリザードマンも水路作りに参加してくれる。

 水路を作るのは簡単なのだが、所詮壁を土の中に埋めただけのものだ。

 その土を掘り出すのは人力でやるしかないからな。


 さぁ行かなくちゃな。

 リディアに行ってきますのキスをする。

 こら、舌を入れるんじゃないよ。


「ぷはっ。続きは夜にな」

「んふふ、楽しみにしてます」

「もう。それじゃ行きますよ」


 アーニャの背に乗って村を出る。

 彼女はスルスルと森を進み、一時間もすると湖が見えてくる。

 デュパ達は朝早くに出たんだろうな。

 湖の畔で魚を獲っていた。


「大漁だな」

「グルルルルッ? ライト、遅いぞ」


「ははは、すまない。それじゃ早速作業を……」

「ちょっと待ってくれ。提案があるのだが聞いてくれるか?」


 とデュパが言う。

 なんでも彼らは魚が大好物でほとんど毎日食べていたそうだ。

 しかし住みかである洞窟を離れ、魚を食べられなくなるかと心配していると。

 デュパの提案とは、たまにでいいので漁に行くことを許可して欲しいと。


「グルルルルッ。わがままを言っているのは理解している。しかし我らをここまで生かしてくれた湖の恩恵を手放すのは忍びなくてな」

「そういうことか。分かった、一応さ、考えはあるんだ。俺もデュパ達に負けないくらい魚が好きでね」


 だって日本人だしな。

 これはこの湖を見つけて思い付いたことだ。

 以前の竹壁なら不可能だっただろうが、今の俺は石壁を作り出せる。

 だからこそ可能なんだ。


「水路をここから引くと同時に村で魚の養殖を始めようと思う」

「養殖? どういう意味だ?」


 デュパ達は基本的に狩りと漁で食を繋いできたらしい。

 知らなくてもしょうがないかな。


「ライト様、それはつまり魚の牧畜ということですか?」

「ははは、アーニャは分かってくれたか。そういうこと。きっと拠点の防御力は格段に上がっている。今よりも村を広くしても問題無いはずだ」


 敷地を大きくすることは、それに応じて異形から村を守る人員を増やさなければならない。

 だが壁自体の防衛力が上がっているなら話は別だ。

 人を増やさずに敷地を広げても石壁なら充分に村を守りきれるだろう。


「グルルルルッ! つまり村で魚を育てるということか!?」

「正解だ。まぁ、養殖に関しては俺達は全員素人だ。上手くいくかどうかはやってみないと分からないけどな」


 とにかく養殖を行うにしても水路が無くてはどうしようもない。

 失敗してがっかりさせるのもかわいそうなので、あまり期待をさせないような言葉を選んだつもりだった……んだけどな。


「グルルルルッ! 皆、死ぬ気で働くのだ! 今日中に水路を引くぞ!」

「「「グルルルルッ!」」」


 デュパ達の気合いの入れようは半端じゃなかった。

 死ぬ気ってさ。まぁモチベーションが上がっているのは好都合だ。


「ならしっかり水路を掘ってくれよ!」


 俺は壁を発動し、水路を作り始めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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