第41話 移住計画
「なぁデュパさん。少し話がしたいんだがいいかな?」
俺の問いにデュパは表情を変えずに頷く。
「グルルルルッ。いいだろう。少し外の空気が吸いたい。場所を移動しよう。こっちだ」
デュパは俺達を連れて洞窟のさらに奥に向かう。
そこには扉があり、開けると上に続く階段があった。
洞窟内に階段が?
不思議に思いつつ、デュパについていく。
階段は地上へと続いており、着いた先は滝が流れ落ちる川岸に出た。
「へぇー、こんなところに出るんだな」
「あぁ。これは我が祖父が作ったもの。入り口は隠し扉になっていてな。簡単に見つかることはない」
デュパは階段に続く戸を閉める。
戸は草や苔で覆われており、地面と一体となった。
これは分からないだろうな。
「ここなら静かに話せるだろう。何が聞きたいのだ?」
なるほど、人払いをしてくれたってことか。
確かに今なら子供に聞かせたくない話も出来るだろうな。
それじゃ遠慮無く話を聞いてみることにしよう。
まずはこれからだ。
「この森は危険な場所だ。だがあんたは言ったよな? 四世代前からここに住んでるって。その中で多くのことを見てきたんだと思ってさ。異形に襲われ自我を失った者は知ってるか?」
かつてのリディア達のことだ。
彼女達は自我を失い、森の中で這うように生きていた。
恐らく何百年もだ。その間一切歳をとらずに生きてきたことになる。
俺は自我を失うことで一種の仮死状態になったのではないかと考えている。
もちろん獣に襲われ命を落とした者もいるようだが。
「もちろん知っている。曾祖父は何度か助けようとしたらしいが結局は何も出来なかったらしい。なので私達は自我を失っている者を見つけても何もせず放っておくことにしたのだ」
そうだったか。別に彼らを助けようとしなかったデュパ達を責めるつもりはない。
リディア達は呪われた状態であり、恐らくそう簡単には助けることは出来なかったはず。
そしてなぜか自我を失った者は歳を取らないのだとか。
「間違いないのか?」
「グルルルッ。二百年前に見つけた者を先日も見かけたぞ」
やはりな。
よし、少しだがバラバラになったピースが繋がってきたぞ。
「次だ。異形についてだ。あんたらは異形がウジャウジャいるこの森に住んでいる。よく今まで無事でいられたな。何か奴らから逃れる方法があるのか?」
寿命の長い種族が四世代に渡って森に住んでいるんだ。
奴らから逃れる知恵があるのかもしれないと思って聞いてみた。
「そうだったら嬉しいのだがな。虫のように隠れて生きていくしかない。曾祖父一族は安住の地を求め、ここに移り住んだ。だが多くは異形に襲われ数を減らしていった。今、この地に生きる一族は私を含め20人といったところだ」
逃げる術は無しか。
デュパ自身何度も異形に襲われた経験があるそうだ。
リザードマンは強い肉体を持つようだが、異形の圧倒的な数を前に逃げるしか方法がなかったと。
今まで生きてこられたのは、湖のおかげだという。
リザードマンは長く水に潜ることが可能で、異形は水の中までは追ってこなかったと。
なるほど、デュパ達の人生は常に異形から命を狙われていたということか。
そして異形自体についても聞いてみたが、1000年くらい前に突然現れた魔物だということ以外分からないそうだ。
この知識はリディアのものと同じだな。
「そうか。なら次だ。あんたに初めて会った時、あんたは人間に恨みを持っているようだった。良かったら話してくれるか?」
「…………」
デュパは言葉を選んでいるようだ。
そしてポツポツと語り出す。
デュパの一族はかつて北の大陸に住んでいたそうだ。
そこは人間が支配する大陸であり、数の少ないリザードマンは隠れるように暮らしていたと。
しばらくはお互い干渉することはなく、静かに暮らしていた……が、デュパの曾祖父が成人を迎えた頃に状況が変わる。
「人は増えるのが早くてな。北の大陸は人口が増えたことにより食糧不足となった。そこで人族の王は大陸の土地を農地にするために数の少ない種族の土地を没収し始めてな」
「なるほどね……。なんとなく分かったよ。辛かったらそこまででもいいよ」
「ははは、確かに私達をこのような森に追いやった人族に恨みはあるが、それは曾祖父の代の話だからな。それにライトよ、お前はいい人間のようだからな」
「ふふ、そうですよ。ライトさんは素敵な人なんです。それに普通の人間じゃないんですよ。実は異邦人なんです!」
リディアは俺が誉められたのが嬉しかったのか、変なことを言い出す。
こら、話の腰を折るんじゃないよ。
「グルルルルッ、異邦人だと?」
「んー、まぁ隠す必要は無いか。リディアの言う通り、この世界の人間じゃないんだ。数ヶ月前にこの世界に転移してきたばかりでね。だからさ、この世界の常識とかは知らないし、それに囚われるつもりもないんだ」
そこで最後の話だ。
デュパ達がどんな人生を歩み、どのような想いで生きてきたかはどうでもいい。
危険なこの土地で生きていくには、お互い協力していかなければならない。
「なぁ、あんたさえ良ければ俺達と暮らさないか? はっきり言ってしまうが、ここにいるよりよっぽど安全だ」
「そうですよ! ライトさんは二回も異形の大群を退けたんです! 私達なら勝てるんです! だからデュパさんも一緒に戦って下さい!」
デュパは腕を組んで考えている。
すぐに答えを求めてはいけない。
だってこの洞窟はデュパの曾じいさんが見つけた大切な家だもんな。
その家を捨てろって言ってるんだ。
答えを出すには少し時間がかかるだろう。
「グルルルルッ……。ここを出るということか。お前達の土地に移れば子供達は餓えることはないか?」
「食糧についてだが……」
「はい! 美味しいごはんを毎日食べられますよ!」
俺が答える前にリディアが余計なことを言う。
こら、安請け合いするんじゃないよ。
食糧の安定供給をするには水が必要だ。
その水をこの湖から引こうと思う。
だけど拠点からここまで結構遠いんだよなぁ。
まぁ、水路なんかの生活インフラは絶対に必要になるわけだし。
「ま、まぁ、リディアの言った通りになるように努力はするつもりだよ。少なくともここにいるよりは食えるんじゃないか?」
「グルルルルッ……。ならば考えてもいい。だが一族の意見を聞いてからにする。答えは数日の内に出す。それでもいいか?」
おぉ、答えはもらえなかったが、考えてくれるか。
それだけでも一歩前進だ。
よし、これで今日の目的は達成したな。
俺達は三人で洞窟に戻る。
すると診察を終えたアーニャがほっとした様子で話しかけてきた。
「多分もう大丈夫だと思います。栄養が足りてなかったみたいで切り傷から毒が全身に回ってしまったみたいです。少し時間がかかると思いますがゆっくり回復していくはずですよ」
「グルルルル! 本当か!?」
デュパは大声を出して奥さんがいる寝床に走る。
二人はお互いの手を取って見つめあっていた。
その姿を見てデュパが俺達の拠点に住む未来が見えた。
「グスッ……。良かった」
「うん、そうだね。それにしても夫婦っていいなぁ。私も結婚したいなー」
とアーニャとリディアはチラッと俺を見る。
むむむ、これはアピールしてるってことか?
ま、まぁそれよりも今はやることがあるからな。
俺は二人のアピールには触れず、拠点に戻ることにした。
◇◆◇
☆現在の総配偶者満足度425/500
・リディア:配偶者満足度210/500
・アーニャ:配偶者満足度215/500
☆総村民数8人
・エルフ:5人
・ラミア:3人
☆総村民満足度24/200
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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