第40話 お土産

 リザードマンの住みかを見つけたその翌日。

 目を覚ましたらアーニャがバタバタと荷造りをしていた。


「えーと、お茶の葉は持ったでしょ? それとミンゴは背負子に入ってるし……。水は滝があるから問題ないから……」


 とブツブツいいながら荷物のチェックをしている。

 

「おはよ。早いね。もう準備してるんだ」

「ライト様? ふふ、おはようございます」


 と笑顔で寝ている俺にキスをしてくる。

 今日はアーニャ、リディアの三人でリザードマンの住みかに向かうのだ。


「ほら、リディアさんも起きて」

「んー、まだ眠いよー……」


 とリディアは毛布を被る。

 確かに朝日が東の空に昇ったばかりだしな。

 俺はサラリーマン時代から早起きは慣れてるからな。早起きは苦ではない。


 まだ眠いリディアもようやく起き出し、出発の準備を始める。

 支度が整ったところで軽く朝食を済ませた後、拠点に残るエルフ、ラミアに今日の指示を出しておいた。


 それじゃ俺達も行くかな。

 住民達に手を振り拠点を出る。

 

 さて、デュパ達リザードマンがいる滝の洞窟は結構遠いんだよな。

 昨日は探索しながらだったが、まっすぐ滝に向かったとしても歩いて2時間はかかるだろう。

 

「よし、確認しておくぞ。今日の目的は決まっている。デュパの奥さんに薬を届けることだ。もし時間があったらデュパ達にここに住むかの提案をしようと思う」


 二人は頷いた。

 アーニャもリザードマンの移住には賛成してくれたし、それ以上に病気で苦しんでいる人を助けたいと言ってくれた。

 リディアもだが、アーニャも優しいなぁ。

 顔だけじゃなくて心も綺麗なんだ。


「ふふ……」

「あれ? ライト様、どうしたんですか?」


 おっといかん。

 二人を見ていたらつい声を出して笑ってしまった。

 しかし俺が思ったことをそのまま伝えるわけにはいかん。

 たまにだが、もよおした二人は昼だというのに俺を求めてくることがある。

 一応彼女達とイチャイチャするのは一日置きの交代制と決まったのだが、それはあまり守られていない。

 昨日なんかもリディアと楽しんでいたら、アーニャが物欲しそうな顔でこっちを覗いててね。

 冗談で、「一緒にする?」って聞いたら、嬉々として交ざってきたのだ。

 

 今日はやることがたくさんある。

 私的なことで時間を潰すわけにはいかん。


「ふふ、おかしなご主人様ですね。ライト様、リディアさん、良かったら私が二人を運びますよ」

「運ぶって……。いや、そっちの方が速いか。お願いするよ。でも二人だぞ? 重いんじゃないのか?」


「大丈夫です! さぁ乗ってください!」


 とアーニャは背を見せる。

 俺は何回かアーニャに乗せてもらっているが、リディアは初めてだよな。

 

「アーニャ、大丈夫なの?」

「ふふ、しっかり掴まっててくださいね」


 ――シュルルルルッ


 アーニャは器用に蛇の下半身を動かし、歩くよりもずっと速いスピードで森を進み始める。

 さすがはラミア。下半身が蛇だからこそ出せる移動速度だ。

 しかも悪路にはめっぽう強い。

 木々の間を縫うように進む。


「わぁー、すごい! 速いですね!」


 と俺の後ろに乗っているリディアが興奮している。

 速度計は無いが、原付並みのスピードは出てるんだろうな。

 目的地の滝まで僅か30分で到着した。

 雄大な滝を見てアーニャは言葉が無いみたいだ。

 

「すごい……。こんな大きな滝があったんですね」

「あぁ、昨日見つけてね。そのうちここから水路を引こうと思ってるんだ」


 だが今日の目的はそれじゃないからな。

 人命救助が最優先だ。

 三人で滝裏の洞窟に向かうと、今回デュパは槍を構えることなく出迎えてくれた。


「グルルルルッ……。来てくれたのか」

「当たり前だ。約束しただろ? 薬になる葉と看護が出来る者を連れてきた。入ってもいいか?」


「こっちだ」


 あっさりと中に通してくれたが、まだ警戒はしているのかもしれないな。

 まぁ、ゆっくり打ち解けていけばいいさ。


 デュパの奥さんは洞窟の片隅で干し草のベッドの上で横になっている。

 一応昨日会ってはいるが、直接声をかけるのは今日が初めてだ。

 怖がらせてはいけないと思ったので、ここはアーニャに任せることにした。


「こんにちは。私はアーニャといいます。今から貴女に薬を煎じて飲んでもらいます」

「グルル……。蛇人なの……?」


「ええ。種族は違いますが、困ってる人を助けたい気持ちはあります。だから貴女を看護させてもらいますね。今薬を煎じますから」


 そう言ってアーニャは背負子から薬草となる茶葉を取り出す。

 ここは彼女に任せても大丈夫だろうな。


 それじゃ今度は別の目的を果たすとするか。

 見たところ、滝裏の洞窟に住むデュパ達リザードマンの生活は豊かとは言い難い。

 薄暗い洞窟に隠れるように住んでいるんだ。

 どのように生活しているのだろうか?


 俺は背負ってきた背負子から食糧を取り出しデュパに渡す。


「土産だ。食ってくれ」

「こ、これは!? こんなに多くの食糧をどこから……?」


 デュパは驚いている。

 これらが俺達が手土産として待ってきたものだ。

 

・パン:30個。酵母を使わないで作ったのでチャパティに近い。

・干し肉:10キロ程度。猪の肉を干した物。リディアの精霊魔法を利用し、腐敗を遅らせている。

・ドライフルーツ:ミンゴの実を干した物。果汁は抜けているが、甘味は強くなっている。煮てから冷やせばジュースとしても楽しめる。

・茶葉:小箱に入るだけ持ってきた。細かく切ってから葉ごと飲めば薬になる。解熱、鎮痛、解毒、殺菌作用がある。

・塩:貴重なものなので、数百グラムといったところ。水に続き、人が生きるために必要不可欠な栄養である。


「こ、これは受けとれん」

「ははは、気にするなよ。別にあんたが食わなくてもいい。なら奥さんや子供達に食わせてやってくれ」


 と今回も強引に手土産を渡す。

 顔が蜥蜴そのもので表情は分からないが、雰囲気で困っているのが分かった。

 しかし俺達の様子を見ていた子供のリザードマンがチョロチョロと寄ってくる。


「ははは、ほら食べていいぞ」

「クルルルッ」


 子供達は喉を鳴らして俺からパンやドライフルーツを受けとる。

 例え種族は違えど子供ってのは可愛いものだよな。


「すまん……。感謝する」

「別にいいって。困った時はお互い様さ。なぁデュパさん。アーニャはもう少し時間がかかりそうだからさ、話がしたいんだ。いいかな?」


 俺の問いにデュパは頷いてくれた。

 彼に聞きたいことは色々あるんだが……。

 まずはこれから聞いてみるか。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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