第18話 キス
共に拠点を守るため仲間を見つけようと森に入る。
恐らくこの森にはかつてのリディアのように異形に襲われ自我を失っている者がいるはずだ。
その可能性を信じ、森を捜索しているのだが。
「リディア。時間だ。引き上げよう」
「はい、残念ですが仕方ありませんね」
腕時計は2時を示していた。
成果があろうとなかろうと、時間を決めて探索しなければならない。
もし森の中で夜になれば、獣だけではなく異形からも襲われることになる。
夜の森は危険だからな。生き残るには無理は禁物ってことだ。
だが今日は狩りとしての成果は得られたぞ。
先日程の大きさではないが、また猪を狩った。
他にも食用のキノコ、イモなんかも採れたし上々の成果といえるだろう。
拠点に帰り、獲物を並べる。
・猪:80キロ程。肉には独特の臭みはあるが美味い。
・ムルタダケ:食用。強壮効果あり。
・モリイモ:粘性が高い。生でも食べられる。
・ヤルタカエデの樹液:煮詰めれば甘くなる。調味料として使える。
・岩塩:海以外で採れる塩。ミネラルが豊富である。
色々と採れたな。特に塩が嬉しい。
猪を見つけた時に岩塩も一緒に見つけた。
なんか猪が土を舐めていたんだ。
地球でも野生の動物が塩を摂取する時は地面を舐めるという。
これは地球も異世界も同じだな。
小腹が空いたので、簡単に昼食を済ませる。
最近の主食はナババの実だ。
バナナそっくりではあるが、穀物の味に近い。
リディアはそのうちナババを粉にしてパンを作りたいと言っていた。
「ナババのパンか。美味しそうだね」
「はい! ライトさんにもご馳走してあげますからね!」
と言ってくれるが、ナババを粉にするのにも人手がいる。
今の俺達では、そこまでやっている時間は無い。
更なる食生活の充実は仲間を見つけてからだな。
食事を終え、俺とリディアは別の作業に移る。
「それじゃ行ってくるよ」
「ふふ、頑張って下さいね」
俺は川に向かう。
水路を作って飲料水、生活用水を拠点に引き込むためだ。
川のそばに拠点を築くのが一番早いのだが、大雨が降って川が氾濫でもしたらびしょ濡れどころか増水した川に飲み込まれて死んでしまうかもしれないからな。
なのである程度離れた場所に拠点を構えた。
川に到着し、俺は早速【壁】を発動する。
まずは川か岸までの短い水路だ。
【壁! 壁! 壁!】
地面に埋もれるように壁を作り出す。
両端と底面を壁で繋いだ簡素な凹型の水路だ。
まだ土で埋もれているので、水を引きつつ、土を外に出す。
水が流れてくるので土は柔らかくなり作業しやすい。
これなら数日で作業は終わるだろう。
全工程の1/3程で今日の水路作りは終わりだ。
今度は違う作業が待っている。
拠点に帰るとリディアが出迎えてくれた。
「お帰りなさい!」
「あぁ、でもまだやることがあるからね。少し休んだら作業を続けるよ」
リディアも一段落ついたようで休憩を取るところだったらしい。
お茶を飲みながら、何をしていたのか聞いてみた。
彼女は森で狩った二匹目の猪の解体を終え、風呂を作るため、拠点の一角で穴を掘っていた。
チラッと穴を見てみるが、かなり深く大きく掘っている。
もう少しで完成とのことだ。後は俺が穴の中で壁を発動すれば風呂桶の出来上がりってわけだ。
「うふふ、お風呂楽しみにしてますね」
「あぁ。それとさ、今日は渡したいものがあるんだ。そっちも楽しみにしててくれ」
「え? わ、渡したいものって!? 教えてください!」
「ははは、後でな」
リディアを軽くあしらいつつ、次の作業に移る。
先日狩った猪の皮だが、余計な肉は完全に削ぎ落とされ、枠から外しても縮むことはなかった。
おぉ、ネットで見た知識ではあったが成功したぞ。
エド、ありがとう。
地球のサバイバーに感謝しつつ、今度は皮に穴を開ける。
畳んでから蔓を使ってしっかりと縫い合わせておいた。
これで表も裏もフカフカの毛皮の毛布の出来上がりだ。
しっかり洗ってから干したので虫の心配も無いだろう。
匂いを嗅いでみたらお日様の匂いっていうのかな。
眠気を誘う匂いがした。
とりあえず寝る時に上にかけるものは出来た。
今日狩った猪の毛皮は敷き布団として使ってみよう。
そして肉が多めの夜ご飯を食べた後、夜の襲撃に備える。
今日現れた異形は5体だった。
日を追う毎に一匹ずつ増えている。
一月後には30匹になるのだろうか?
心配だな……。
「ふぅ、今日も終わりましたね」
「あぁ。それじゃ明日に備えて寝るかな。ってそうそう。リディア、これを受け取ってくれ」
俺は小屋から自作の毛布を取り出す。
一枚しかないから寒がりなリディア用だ。
ついでに余った皮を利用して小さな枕も作ってある。
「これでもう一人で眠れるよな? きっと暖かいぞ」
「は、はい。ありがとうございます……」
とリディアは毛布と枕を抱きしめる。
嬉しそうだな。きっと村民満足度も上が……らなかった?
おかしいな。毛布をプレゼントすれば喜ぶと思ったのだが。枕だってあるのに。
「そ、それじゃお休みなさい」
なんかリディアは元気が無さそうに自分の小屋に戻っていく。
まぁリディアが寝る時はいつも俺の小屋だったから、何気に一人で寝るのは初めてなんだよな。
ふぁぁ。今日も疲れたし、早めに休もう。
小屋の床にゴロンと横になって目を閉じる。
リディアはよく眠れるかな?
なんて思いながら眠りに落ちていった……んだけど。
――パサッ
ん? 俺の体に何かが当たる。
このフカフカした感触はなんだ?
眠い目を開けると、リディアと目が合った。
デジャブだろうか? 昨夜もこんな感じだったような気がする。
「ど、どったの?」
「な、なんかライトさんの匂いを嗅いでないと眠れなくなっちゃって。隣いいですか?」
うーん、いいんだろうか?
っていうか、これはもう脈ありって思っていいよな?
「う、うん。いいけど……」
「ありがとうございま……? きゃあんっ」
――ドサッ
彼女を毛布の中に引きこんでから優しく押し倒す。
軽く抵抗はしていたが、優しく抱きしめつつキスをしてみた。
「止めて。駄目です……」
と言いつつも彼女は口を離さない。
やば、俺の中の理性が消え失せる。男としての本能がムクムクと沸き上がってきた。
あっちもムクムクと起き上がってきたんですけど。
うーん、どうしよ。
このまま最後までしたいところだが……やっぱり今日は止めておこう。
残った理性を振り絞り言葉を交わす。
「あ、あのさ。正直に言うとこのまま君を抱きたいんだが……。一応けじめとして風呂を作ってからでもいいかな?」
「お、お風呂ですか? お風呂がけじめって……。うふふ、分かりました。あ、あの私からも聞いてもいいですか?」
リディアはちょっとガッカリした顔をする。
でもすぐに笑顔に変わったので安心したよ。
彼女が続きを望んでいることが分かった。
ほら、もしかしたら嫌だったかもしれないじゃない。
「俺の理性を崩壊させるようなこと以外であればいいよ」
「あ、あの、私ってライトさんにとって魅力的ですか?」
魅力的かだと? そりゃもちろんだよ。
俺史上、出会った中で最高の美人だ。
「ああ、すごくね。君みたいな美人がそばにいてくれるだけで、俺は幸せ者だと思うよ」
「ライトさん……」
俺の名を呼び彼女からキスをしてきた。
特に告白とかはしていないのだが、リディアが恋人になったと思っても良いのだろうか?
っていうかリディアさん、そんなにペロペロしないで。どこをペロペロしているのかは秘密だ。
り、理性が崩壊しそう……。
とりあえず今日はキスだけで終わることにした。
やっぱりした後は風呂に入りたいじゃん。
俺は待てる男なのである。
――ピコーンッ
【村民満足度が上がりました。現在の村民満足度は8/10です】
おぉ、今日も上がったぞ。
次得られるのはどんな能力なんだろうか?
明日が楽しみだな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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