第13話 新しい力

「んん……。寒いです……」

「…………」


 リディアは寝言を言いながら俺の胸に顔を埋めてくる。

 寒いか? 足元ではまだ焚き火が燃えており、しっかりと熱が伝わってくる。

 俺はむしろ熱いくらいだぞ。


 ふぁぁ、少しは眠れたが、やっぱり寝不足だ。

 だがもう朝日はしっかり昇っている。

 そろそろ起きないとな。


「リディア、起きて」

「ん……。お、おはようございます」


 彼女は恥ずかしそうに目を覚ました。

 眠気覚ましにお茶でも飲むかな。

 焼き石を水に入れるだけで煮沸が出来るし、大変便利だ。

 

 二人で小屋を出ると、そこで異常に気付く。

 

「あ、あれ? これって何でしょうか?」

「分からん……」


 拠点の敷地の中に昨日まで無かったものがある。

 木が生えているのだ。


 あれー? 拠点を作る際、何も無い平坦な地面を選んだはずだ。

 一体いつ生えてきたのか? むしろ異世界の木は一晩で育つのか?


「そんなことはありません。この大きさの木が育つには数年かかるはずです」

「だよね。あれ? この木ってさ……」


 そこでさらに気付く。

 木の枝には見慣れた果物がなっているのを。

 これってなんだろ?


 壁を発動し、枝から果物を落とす。

 この果物は……。


「ミンゴですね」


 そう、ミンゴの実だ。

 痛む前に昨日食べたんだよな。

 皮と種はそのまま捨てたのだが。


 あれ? もしかして……。


「リディア、確かめたいことがあるんだが、聞いてくれるか?」

「はい!」


 俺はまず昨日の夜のことを話す。

 いつもの音と声が聞こえてきたこと。

 村民満足度が上がり、上限に達したこと。


 俺は自身とリディアのステータスを確認してみることにした。



名前:前川 来人

年齢:40

種族:ヒューマン

力:10(+5) 魔力:0 

能力:壁レベル1(木)

派生効果:敷地成長促進

村民満足度:1/10

 


名前:リディア

年齢:???

種族:エルフ(村民)

力:5(+3) 魔力:15(+3)

能力:弓術 精霊魔法(封印)

村民満足度:1/10



 なんか増えてる!?

 力が5も増えてるし、さらには派生効果っていうのも追加されている。

 そしてリディアの村民満足度が1に戻って分母が10に増えている。

 これは一体どういうことなんだろうか?


 もしかしたらだが……。

 いや、間違いないだろうな。

 

「わわっ!? 何ですかこれ!?」


 ん? リディアが驚いているぞ。

 彼女の手にはミンゴが握られており、実には齧った跡がある。


「どうした?」

「あ、あのですね、喉が乾いたからミンゴを食べてみたんですが、すごく甘いんです。ライトさんも食べてみて下さい!」


 とミンゴを渡してきた。

 ほう、どれどれ?


 ――シャクッ


 一口ミンゴを齧ってみる。

 確かに今まで食べたミンゴとは別物の味だ。

 充分な甘さに程よい酸味。元々水分は多かったが、これはそれ以上に瑞々しい。

 

 美味しかったのでミンゴを食べながら話すことにした。


「ふふ、こんなに美味しいミンゴは初めて食べました」

「あぁ、俺もここまで美味い果物は初めてだ。でさ、何となくだが分かったことがあるんだ」


 リディアに気付いたことを話す。

 恐らくではあるが、村民満足度が関係しているのだろう。

 昨夜リディアの村民満足度が上限に達した。

 これはつまりレベルアップを意味するのだろう。

 俺とリディアのステータスが上がり、さらに俺は敷地内成長促進という派生効果を得ることが出来た。


 RPGでは経験を積むことで強くなり、魔法を覚えたりする。

 だが俺はどうやらタワーディフェンスゲームのような力を得てしまったようだ。


「タワーディフェンスゲームって何ですか?」


 と不思議そうにリディアは聞く。

 要は陣地を守り、防衛ユニットを強化し、陣地を発展させていくゲームだ。

 昔スマホのアプリではまったやつがあったな。


「へぇー、すごい能力ですね」

「あぁ、でも俺達のレベルアップ条件が村民満足度なのが気になるところだね」


 俺自身が鍛えることで強くなることは不可能みたいだ。

 なら異形から身を守るには村民……リディアを満足させ続けていかなければならないということ。


 でもどうすれば彼女の満足度を上げることが出来るのか?


 とりあえず彼女の要望を聞いてみることにした。


「要望……。欲しいものですか? 難しいですね」


 彼女はあまり物欲がないらしく、考えても答えは出なかった。

 しかしこれで食糧については問題が一つ解決したといえる。

 敷地内限定とはいえ、種を蒔けば翌日には収穫出来るのだから。


「ふふ、そうですね。火もありますし、これから美味しいご飯が食べられそうです。今度は何を植えましょか?」

「うーん、でもさ、そう簡単にはいかないかもしれないぞ」


「え? どうしてですか?」


 とリディアは聞いてくる。

 確かにこの力を利用すれば多くの作物を育てられるかもしれない。

 だがそれは拠点を広げなくてはならないということだ。

 こんな狭い拠点じゃまともに栽培出来ないだろう。


 例えば拠点を広げて作物などを育てたとする。

 だが拠点を広げるということは防衛に充てる人員が必要になるってことだ。

 今は俺達二人だからそこまで広い拠点は必要ない。

 いや、言葉を変えるなら二人で守るならこの広さが限界ということだ。


「今拠点を広げるべきではない。しばらくはこの広さで我慢するしかないだろうな」

「なるほど……。で、でもお茶は植えてもいいですか?」


 とリディアはお願いしてきた。

 お茶が好きなんだなぁ。

 まぁ茶葉くらいなら栽培しても問題ないかな?


「ははは、それくらいなら大丈夫だろ」

「やったぁ! ライトさん、ありがとうございます!」


 リディアは少女のように喜んだ。

 次の瞬間……。


 ――ピコーンッ


【村民満足度が上がりました。現在の村民満足度は2/10です】


 意外と簡単に上がるみたいだな。

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