第9話 とにもかくにも火が必要だ

 リディアと協力してこの世界を生きる決意をしたその夜。

 新月なのか、辺りは真っ暗になる。


 この世界にいる【異形】と呼ばれる存在。

 奴らの襲撃に備え、警戒していたのだが。


「来ないですね」

「だね」


 待てど暮らせど異形が敷地を襲うことはなかった。

 今日はお休みなのか? だと嬉しいのだが。


「ふあぁ」

「ははは、エルフもあくびをするんだね」


 リディアが眠そうにしている。

 俺も安心したので少し眠くなってきた。


「それじゃそろそろ寝ようか」

「そ、そうですね……」


 ん? リディアが何か言いたげだな。

 

「どうした?」

「い、いえ。お休みなさい」


 と挨拶をして隣の家に入っていく。

 俺も自分の家に戻り眠ることにした。

 でもなー、家って言っても布団もなく、ただ寝るだけのスペースだ。

 スローライフ系の小説とはかけはなれている。

 むしろサバイバル小説だな。


 なんてことを考えつつ横になる。

 どうせ暗闇の中出来ることなんか無いしな。

 やれることは寝るだけだ。

 これで灯りなんかがあれば夜でも作業が出来るんだけど。


 ん? 灯りと言えば……。そういえば今日まで火を使っていなかったな。

 リディアは魔法を封印されているみたいだが、ファンタジーの世界ではお馴染みの生活魔法なんかは使えるかもしれないじゃないか。

 

 明日彼女に聞いてみる……かな……。



◇◆◇



 ――ゴソッ


 ん……。何かが体に当たる。

 何だよ、俺は眠いんだけど……。


 ん!? まさか【異形】って奴か!?

 まさか柵を壊して侵入してきたか!?

 

 死んだふりしてたら見逃してくれないかな……?

 なんてことを考えつつ、恐る恐る目を開ける。

 すると暗がりの中ではあるが、俺の横に寝ている人影と目があった。

 この姿は……。


「リ、リディア?」

「…………」


 ゆっくりと頷くのが見えた。

 おかしいぞ。彼女には専用の小屋を用意したのに、何故ここにいるのか。


「どうした?」

「あ、あの……。起こしてしまってごめんなさい。実は私、寒いのが苦手で……」


 なるほど、寒くて眠れないということか。

 どうしようかな。出会った時は彼女の命を救うために夜通し抱きしめていた。

 しかしあの時は彼女は自我を失っており、俺もリディアを助けるために必死だった。

 今は状況が違うしなぁ。だからといって追い返すのもかわいそうだ。

 寒い中で眠り、風邪でも引かれたら困るし。


 しょうがないか。俺は寝床を移動してリディアが横になれるスペースを作ってあげた。


「どうぞ……」

「あ、ありがとうございます」


 リディアは礼を言ってから俺の隣で横になる。

 腕と腕が触れるような距離だ。


「ごめんなさい、もう少しそばに行ってもいいですか?」

「えぇ……?」


 これ以上ですか? もうなんかリディアの髪からすごくいい匂いがしているんですが。

 彼女はモゾモゾと俺の方に寄ってくる。

 っていうか胸が腕に当たってるんですが。


「リ、リディア。近すぎないか?」

「すー……。すー……」


 聞こえてくるのは返事ではなく寝息だった。

 まいったなこりゃ。彼女は眠れるかもしれないが、俺は無理だ。

 隣で絶世の美女が眠っているんだもの。

 

「んん……」

「リ、リディア?」


 ――ギュッ


 まだ寒いのか、リディアは俺に抱きついてきた!?

 ど、どうしよう。起こすべきなんだろうか?

 据え膳食わねばという言葉はあるが、恥をかいたとしても眠っている女の子に手を出すつもりはないぞ。 

 悶々とした気持ちを抱えつつ目を閉じるが、やはり眠れるわけもなく朝を迎えてしまった。

 俺が眠れたのは朝日が昇る頃だった。

 なんか途中でリディアが寝ぼけてたのか、突然起きたような気がしたけど。

 眠すぎて覚えてないんだよな。


「お、おはようございます」

「おはよ……」


 俺の隣で横になりつつ、朝の挨拶をしてくる。

 まぁ俺はほとんど寝てないんだけど。

 それにしてもリディアの顔が赤いんだが、何かあったのか? 

 ま、まさか寝てる時に変なところを触っちゃったとか?

 

 やはりここはリディアが一人で眠れるようにするべきだ。俺と彼女のためにも。

 っていうか、これが連日続いたら寝不足で俺が倒れるぞ。


 そうだ! そういえば昨日思い付いたことがあったんだ!


 朝ごはんとして森からとってきたミンゴを齧りながら話すことにした。

 

「あ、あのさ。リディアは寒いのが苦手なんだよな? だったら火があれば暖かいと思うぞ。リディアは魔法かなんかで火を起こすことが出来たりしないか?」

「火ですか……。ごめんなさい。私は精霊魔法が使えましたが、契約していたのは水の精霊なんです。エルフは火の精霊とは波長が合わず、契約出来ない者が多いんです」


 あちゃー。駄目だった。

 他にもファンタジーでお馴染みの生活魔法のことを聞いたが、リディアはキョトンとした顔をしていた。

 そのような魔法はこの世界では存在しないとのことだ。


「で、でもですね。私も火は必要だと思います。火があればお茶が飲めますし」


 とリディアは足元に生えている草をむしる。

 

「それは?」

「ご存知無いんですね。これはお茶の葉なんです。王都の周辺では良く飲まれていたものなんですよ」


 へー、お茶か。リディアから茶葉を受け取り匂いを嗅いでみる。

 確かにお茶の香りがするな。

 話を聞くと、この種類の茶には安眠効果も期待出来るらしい。

 焚き火があって、さらに安眠効果のあるお茶を飲めばリディアは一人で眠れるかな?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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 更新速度が上がるかも!? ☆☆☆

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