第8話 とりあえず生きることを考える
異世界転移して、初めて出会ったこの世界の住人であるリディア。
彼女からこの地で何が起こったのか聞いてみたのだが、俺の問いに彼女は涙を浮かべる。
「覚えているのは森から王都に向けて大量の異形が襲いかかったことだけです。恐らくですが、私もその時に異形に囚われ自我を失ったのでしょう」
「囚われて……か。その異形ってのが昨日俺達を襲った連中なのかな?」
あまり思い出したくないが、昨夜俺はリディアを助けた後に襲われた。
柵を破ろうと夜通し壁を叩き、引っ掻き、もう少しで柵を破られるところだった。
穴から見えた光の無い瞳を思い出すだけで鳥肌が立つよ。
「はい。断定は出来ませんがライトさんが見たものは異形で間違い無いでしょう」
マジかー……。
やっぱり俺ってヤバい世界に転移しちゃったんだな。
しかしだな。今の俺は一人ではない。
リディアがいるのだ。しかも彼女は精霊魔法の使い手だ。
きっと異形とかを退治出来る魔法とか使えるんじゃないの!?
「あ、あのさ。リディアは魔法を使って戦うこととか……出来るかな?」
情けないことを女の子に聞いているのは理解している。
だがな、こっちは壁しか作れない40歳のおじさんなわけだよ!
異形だか魔物だが知らんが、そんなのと戦えるわけ無いじゃん!
「それなんですが……」
「どったの?」
リディアが暗い顔をしている。
うわー、絶対残念なことを言うだろうな。
「あ、あのですね。どうやら精霊の力が極端に弱まっているようで。今の私では精霊の力を行使出来ないんです……」
「マジすか……」
あかんやん。ここには魔法が使えないエルフと壁しか作れないおじさんしかいないってわけだ。
そんな二人でどう自分達の身を守れと……。
「や、役に立てなくてごめんなさい……」
とリディアは謝ってくる。
いかん、なんか俺が苛めてるみたいだ。
全く情けないな、俺は。
目の前で困っている人がいるんじゃないか。
今までそこまで誇れる人生を歩んできたつもりはないが、自分より弱い人には手を差しのべてきたつもりだ。
異世界だろうと、何だろうと同じことをすればいい。
――スッ
俺はリディアに手を差し出す。
「え? な、なんですか?」
「これからよろしくってこと。とりあえずはさ、俺の力を使えばある程度かもしれないけど身の安全は確保出来るはずだ。異形ってのはまた襲ってくるだろ? だったら俺達が生き残るには手を組まないといけないってことだ。だから……よろしくな」
ん? リディアは俺の顔を見て呆けているみたいだ。
何か変なことを言ったかな?
「どうした?」
「い、いえ……。伝承によると異邦人というのは傲慢であり、色を好み、時には世界を支配したと聞きます。ですがライトさんはとても謙虚で優しいのですね」
リディアの話では転移者は強い力を持ち、世界に恩恵を与えてくれる……ものばかりではなかったようだ。
強大な力を利用して好き勝手やっていた者もいたらしい。
まぁ、俺も壁以外の魅力的なチートを持っていたらそうなっていたかもしれないけどな。
「謙虚かどうかは知らんが、俺には君の力が必要なんだ。だからさ、これからもよろしく!」
「は、はい!」
――ギュッ
リディアは俺の手を握ってくれた。
線の細いエルフとは思えない程力強い握手だった。
――ピコーンッ
ん? 何この音?
【村民満足度がアップしました。現在の村民満足度は1/3です】
と変な音の後に機械的な音声が頭に響く?
あれ? 確かこの声、昨日も聞いたような……。
そ、そうだ! 昨夜異形を退けた後、リディアが倒れたんだった。
低体温症だった彼女を助けるべくずっと抱きしめていたんだが、寝る前にこの音と声を聞いたんだ。
そういえば俺のステータスに村民満足度とか訳の分からない項目があったよな。
ちょっと確認してみよ。
名前:前川 来人
年齢:40
種族:ヒューマン
力:5 魔力:0
能力:壁レベル1(木)
村民満足度:1/3
確かに村民満足度が上がっている。
ということはリディアのステータスも上がっているのか?
「すまん、ちょっとリディアのステータスを見てみたいんだが構わないか?」
ほらさ、なんか黙ってステータスを見るのはプライバシーを侵害してるみたいで嫌じゃない。
何とかハラスメントでうるさい時代だからさ。
ちゃんと許可をとってからにしよう。
「ステータス? それって何ですか?」
とリディアは小首を傾げる。
あれ? ファンタジーの世界ではお馴染みのステータスだが、この世界では認知されていないのかな?
「うーんとね。ステータスっていうのは君の力を数値化したものなんだ。状態も文字で現れるからね」
「すごい……。そんなことも出来るんですね。さすがは異邦人です。大丈夫ですよ。私もどんなステータスなのか知りたいです」
おぉ、許可はあっさりもらえたぞ。
では早速……。
名前:リディア
年齢:???
種族:エルフ(村民)
力:2 魔力:12
能力:弓術 精霊魔法(封印)
村民満足度:1/3
これがリディアのステータスだ。
彼女にも教えるため、地面に文字を書く。
リディアは興味深そうに自身のステータスを見ていた。
「へー、これが私のステータスなんですね。やっぱり精霊魔法が使えないのは残念です。でも村民満足度って何なんでしょう?」
「んー、実は良く分からないんだが……。昨夜こんなことがあってね」
俺はリディアに謎の音と声が聞こえたことを話す。
確か、一定時間領域内にいたことで村民にするかどうか聞いてきたような。
「でさ、俺はリディアを村民にするって答えたんだ」
「なるほど。分からないことだらけですね」
「だね。でもさ、今はとにかく二人で協力して生きることを考えないと。それじゃさ、君は少しの間かもしれないけど、ここで暮らすことになる。家を用意するよ」
「家?」
そういうこと。彼女は美人だ。おっぱいも大きい。
そんな美女と一緒にいては俺の理性がもたないかもしれん。
まぁ家って言っても壁で作った家具もベッドもない簡素な小屋だけどね。
雨風がしのげるだけでもマシだよな。
柵で囲った敷地にリディアの家を建てる。
能力を発動させるだけなので建築はあっという間に終わった。
「うわぁ、すごい……」
「ははは、そうでもないよ」
リディアは俺の力を間近で見て驚いている。
魔法が使える異世界人に驚かれるって何か嬉しくなっちゃうな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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