交わる二人の冒険譚

砂漠の使徒

第1話 出会い

「さて……」


 男はログハウスの戸を開けて外に出る。

 その様子から、男の心情は……読み取れない。どこか興奮しているように見えるが、また気だるそうにも見える。

 それはこの昼でも暗い森の中だからだろうか。

 何人も立ち寄らない、町の住人がめったに近寄ることのない森。その存在さえ知らない者もいる。

 男はなぜそんなところに居を構えているのか。


「……いた」


 それは、今男の数十メートル先にいる生物が関係している。

 姿形は個体による。全長十メートルを超えることもあれば、三十センチのものもいる。また、形は非常に歪で、手足、その他のありとあらゆる器官が本来の機能を無視して生えている。旧世代の動物図鑑にはおよそこんな生物は載っていない。現在の動物図鑑でさえ、このグロテスクな見た目を嫌煙し、掲載されていないこともある。つまり、奴らは時代に拒絶された怪物だ。

 そして、それを狩るのが彼。


「大人しくしてろよ……」


 ガザルだ。

 その名を知る者は、ほんの数人のみ。彼もそこの怪物と同じく時代に見向きもされない孤独な存在。しかし、彼は人間である。


「パカァン!」


 破裂音が森に響いた。

 件の怪物は、厄介なことに聴覚が人並みにはあるようだ。こちらをゆっくりと見た。


「……まずい」


 もう一度言おう。

 彼は人間である。

 それすなわち、過ちも侵す。


「ザザザザザッ!」


 成人の腰まである下草をかき分けて、迫りくる異形の者。

 彼にとって最初の失敗だった。

 そして、最後の失敗でもあるだろう。


「まずい、まずい、まずい」


 ここまで冷静沈着だった彼の顔に冷や汗が流れる。夢中で走る。しかし、見かけに反し、敵は早い。さらに、草木が生い茂る森の中で自由に走ることができるだろうか。


「うおっ!」


 彼はなにかにつまずいてコケた。後ろからは見ずともわかるほど、間近に迫っている。自分の命を刈り取ろうとする者が。


「クソっ!」


 彼は死を覚悟した。

 破れかぶれになって、自分を転ばせたなにかを睨む。


 小さな石だった。

 苔むしていて、古びた石。

 しかし、きれいな輝きを放っている。


「……」


 彼はこれさえなければという……実際にはどのみち追いつかれていたはずだが、憎しみや諦めの気持ちを抱き、石を握りしめた。


「あぁ……」


 今まで俺が無惨に殺してきたコイツラみたいに、俺もコイツラに無惨に殺されるんだ。


 これは運命だな。

 彼は最後にそう考えて、目を閉じた。


「そうね、これは運命の出会いね」


 どこからかそんな声が聞こえた。

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