第94話 試合は置いといて

 それにしても…流れ人ってこんな感じの戦闘なんだ、戦闘がリアル過ぎてゲームを辞める人多いのかもって思っていたけどそんなことないみたい。

 ある意味、異世界にチートなしで連れてこられたという雰囲気が余計にリアルに感じさせているんだよね。ゲーム内で習熟したことがリアルにも生かせる、その逆もしかりってのがいいもんね。魔法は流石に無理だけど…


 4試合目、つまり1回戦最後の試合が今行われている。魔法使い同士の戦いなんだけどターン制の戦闘になっているんだよね…

 ちなみに3試合目は重戦士と魔法剣士の対戦で結構盛り上がってたよ。全然見かけない剣士だからか流れ人の声援が凄かったんだよね、ただ…盾に防がれてポキポキ折れる剣を見ていると物を大事にて欲しいかなって思った。作った人にも悪いし。

 素人が剣を振るうのが難しいから鈍器を選んでる中、剣を選んだんなら自分の装備は大事にしなきゃ…魔法で身体能力もあげていたみたいだけど、上昇倍率が低いのか攻撃も全部防がれちゃって最終的には武器無しと魔力不足で自滅しちゃってた。


「とりあえず、1回戦は全部見たんだけど…これはもう見なくてもよさそうかな…って、ちょっとイーリス、膝の上でお尻動かさないで!」


「…うりうり。気持ちいい?」


「気持ちいいとかの前にもうちょい肉付けたほうがいいよ?ちょっと角ばってて心配になっちゃう。」


「むぅ…ラヴィのお肉分けて。」


「お腹のお肉なら…って何言わせるのイーリスちゃん!」


 ほんとイーリスとラヴィは仲良くないとダメそうなやり取りをするね…そんな2人をラナさんは暖かく見守ってて3人とも相性がいいんだなぁって思う。


「あなた、ほんとワタリさんの周りは幸せそうですね。」


「そうだな、ルーも自然と輪に入れているようだし。今まで一歩引いた位置から観察している事が多かったからな…」


「裏がある相手ばかりだったからですよそれは。ワタリさんは気持ちを正面から伝えてくれますし行動で示してくれるらしいですよ?あなたも夜に関しては見習ったらどうかしら?」


「うっ…そ、それは種族的にしかたないだろう!闘争本能のが刺激されてそういう気分にならんのだ…」


「人族でしたら生存本能など刺激されて子孫を残そうとするのに魔族の男ときたら…


 向こうでは魔王様と魔王妃様が不穏な会話をしている。そっか、魔族の男はそのあたりが淡白なんだっけ。まぁ…王国と魔国の交流が盛んになれば解決はしていくと思う。


 眼前で行われている試合に目もくれず回りを見ていると王女様から忠言がきた。


「ワタリさん…王女である私はずっと見ていないといけないんですから途中で抜けるのはダメですよ?私だって見る価値無いと思っていますのに…」


 はい、思っただけですアリエス様…とりあえず、この時間を利用して魔国防衛について考えとくか。

 まず、参加するであろう流れ人は予選に参加した人ってことだから戦う事が好きってことだよね。ザインさんとアグスさんが張ってくれているけど、もう怪しい動きはしていないみたいだし。

 次は移動手段。渡航チケットを渡されたってことはグロリオーサから直で魔国に出航するってことだよね。

 あとは情勢。今回のイベントが友好関係を結んだことを示すものって報せることが出来ず転移装置の実装がメインになってしまっている。そのため魔族が友好的な種族っていうのが伝えられない。僕が広めてしまうのも運営的にNG、横やりが入ってくるだろうから出来ない。第三者が必要になってくるね…現地人は分かっているのに…


 思慮深い人が流れ人側にいれば気づくとは思うんだよね、ゲームのコンセプトが異世界に来るってことだから。魔王を倒せ!とかではないんだし。他に現地人と仲良くなっていれば戦争が起きた際に情報が出回る可能性もあるか。


 運営の動きも気にしなきゃだめか…結構現地人と流れ人を争わせる火種を巻いたりするから怖いんだよね。大々的に戦争をさせようとするだろうから…運営は王国と魔国が友好国になったのは分かっているよね?ということは海戦になるのかも?クラン単位で船をイベント中使えるとかの。

 そうなった場合、グロリオーサ本隊の動きは上陸を目指してくるよね…流れ人同士で戦わせてそちらに目を向けている間にとかの。


「アリエス様、戦争になった場合の糧食って確保大丈夫でしょうか?物資の備蓄など、庶民の生活に影響が出ないくらいあるのでしょうか?」


 僕は戦争になった場合に起こりうる価格高騰や兵の士気に関わる食料問題に関して質問した。


「そこは抜かりないわ。今回のイベントで商人の流れが活発になるから他国にバレずに準備を進められているの。」


 あー…そういうことにも利用できるのか。他の領から物資を運んだとしても違和感がないもんね。


「ただ、それだと国民を賄えるだけになるでしょうから流れ人に関しては別途補給しなきゃならないの。」


「なるほど…それなら大丈夫ですね。流れ人には依頼として出せばいいでしょうし。ただ…海戦になるとしたら船が必要になるでしょうから職人に話をつけたらいいかもしれません。貢献度によって貸し出す船に差をつけると流れ人は意欲が上がるかも。」


「そうね…船は国が管理したほうが今後も安全でしょうし貸し出す方向で話を進めましょ。一応、造船は進めているのだけど…あぁ木材も流れ人に頼めば問題はないわね。伐採する箇所を指定しておけば取り過ぎないでしょうし。」


 案内役というか木こりからどの木を伐採していいか指定しないと森がなくなっちゃいそうだもんね…自然が破壊されそうだからきちんと設定しなきゃいけないもんなぁ…


 話すことで具体的な方針が決まっていき、情報を共有することでグロリオーサに先手を取られないように準備を進めることにした。

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