第92話 流れ人の戦い方

 ジャージっぽい服を着た魔法使いが柔軟をしている。一方、弓使いはスタンダードに弦と矢のチェックをしているようだ。よかった…色物っぽいのは魔法使いだけで…

 

 試合が開始した。弓使いが淀みなく矢を番え即座に放つも、魔法使いは距離を取るように舞台の外円を走り回って矢を避けた。おぉ…そのための準備運動だったのか!ということはここから魔法使いが反撃をするのかな?

 魔法使いが立ち止まり杖を構えて何やらぶつぶつ言っている所を弓使いに狙われ、回避を余儀なくされた。


 弓使いが矢を放つ、魔法使いが避ける、魔法使いが呪文の詠唱?をする、弓使いが矢を放つ。



「なに…これ…」


 僕がついこぼしてしまった言葉をラナさんが拾った。


「ワタリさん、すっかり現地人側の思考に染まってらっしゃるわね。」


「…学生にも勝てなそう。」


「私達は親から流れ人はこうだ!って聞かされてましたから…でも実際に見るとすごいですねぇ…」

 

 イーリスとラヴィも呆れていた。


「これってもしや魔法使いは呪文を唱えないと魔法が放てないって思っているのかな?魔力も全然練れていないから威力も微妙そうなんだけど…というか弓使いは動きながら狙えない…?」


「魔法に関しては現地人と同じやり方なワタリが特殊だと思うわよ?きっと師匠がよかったのね。弓で動きながらは基本的に難しいわ。冒険者として経験すると避けながら狙う必要性もあるけれど、狩人だったら止まって狙うわ。」


 リディさんに魔法の事を褒められる?とテオがえへへ、と綻んでいた。


「でも、戦闘職に就いている流れ人は依頼を受けたりダンジョンに入ったり、戦闘経験積むよね…?魔物との戦闘中もこんな感じなのかな…」


 いくらなんでもこれでダンジョン攻略はありえないんだけど…僕やリディさん、ザインさん、アグスさんの4人PTでもかなり苦労したんだし。


「魔物…知性ないよ?魔族と違う。獣…賢いよ?」


「アルル、そうよ。流れ人は魔物ばかり相手をしてきたからその弊害だと思うわ。獣とは違い魔物は真っすぐにしか突っ込んでこないから盾持ちが囮になる事で後衛は回避なんて必要ないもの。上位種になればそうはいかないけれど。」


 アルルが言った内容をリディさんが細かく説明してくれた。なるほど…魔物のが動きが単調というかタンク職が仕事していたら後衛はゆっくり狙えるもんね…それにしても酷い内容だけど。



 改めて試合に目を向けると、汗だくになった魔法使いが足をもつれさせ転び、そこを射抜かれて試合が終了した。


「はぁ…意味合いが違うかもだけどすごい試合だったね…」


「私としてはワタリさんのような方が何人もいなくてほっとしてますわ…」


「やっぱり流れ人の中でもワタリさんはすごいです!」


「…愛しい人。」


 ラナさん、ラヴィ、イーリスが褒めてくれる。特別な事はしていないんだけどね…出来るように続けてきたからって思うし。


 それにしても、流れ人の戦闘って眺めていると悲しくなるなぁ…多分、もっとファンタジーで生産や攻撃スキルなどオートで出来ると思ってた人が多いんじゃないのかな?思っていたのと違かったため、荒れたのが他鯖ってことかもしれない。だからってNPCというか住人に当たるのは間違っているけれど…


「改めて流れ人の戦いを見ますが、ワタリさんほどの方が居なくてよかったわ。もし相手をするとなると歯が立たなく、無駄に兵を死なせてしまいますから…」


 アリエス様は流れ人の戦いを見て安心していた。確かに僕も同じくらいの力量の相手ってなると生き残るのが難しいだろうなぁ…今は守りたい人達が出来たから余計に大変だし。…守る人が出来ることで強くなる人がいる一方で、足枷になって本来の力を発揮できなくなる人もいる。僕はどうなんだろ…客観的に判断って自分じゃ難しいよね…


 僕が変な顔をしていたからか、アルルが膝に乗っかり抱きしめて来た。


「大丈夫…だよ?みんな一緒に、強く…なろ。」


 アルルには頭が上がらないなぁ…ほんと聡い。そうだね、僕は一人じゃないんだから皆で強くなっていけばいいんだよね。


「あー!アルルちゃんずるい!私もワタリさんの膝に乗りたい!」


「…ラヴィは重い。アルルと一緒に私が乗る。」


「重くないですー!ちょっと肌着のサイズが窮屈になったけれど重くないですー!」


「ラヴィ…あなた、まだ大きくなっているの?」


 ラナさんが手を胸に当て、ラヴィと見比べていた。僕は大きさにこだわりがないから気にしなくていいと思うんだけど、女性としてはコンプレックスになったりするのかな。


「はいはい、まだ試合は沢山あるんだし順番にね?」


「あら?ワタリ、私もいいのかしら?」


 リディさんも参加表明をした。うん、喧嘩するより皆でわいわいしている方が楽しいし和むよね。


「もちろん、テオさんやジェミも遠慮せずに言ってくれていいんだよ。」


「こんな大勢の前で、その…恥ずかしいですがありがとうございます。」


「あはは…一番の年長者として遠慮していたんだけど、わたしも甘えさせてもらうね!」


 次の試合に出る人が舞台に上がってきたが、僕達はだれが次に乗るのか決める話し合いで盛り上がっていた。

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