第90話 決勝トーナメント開始

今日は闘技大会の決勝トーナメントが開催されるので、僕達は闘技場へ向かった。予め混雑すると思っていたのでナンパ対策として僕と皆は外套をかぶって移動した。闘技場の入口には賭けに参加するもの、試合結果を予想するものなど多くの流れ人と現地人が入り乱れており歩くのにも苦労しそうだったんだけど、僕達は幸い特別席が準備されているから裏から入れて助かったなぁ…表には屋台なども並んでおり、お祭りという熱気と参加者の気迫がすごかったよ。


 事前に渡されていた招待状を裏口にいる兵士に見せ、僕達は特別席へ案内してもらった。到着すると王族が座るであろう場所がすぐ隣にあるし、逆側には魔王様と魔王妃様がすでに待機していた。…なぜ僕達が真ん中なんだ、すっごく目立つよこれ…


「ワタリさんいらっしゃい、結婚式以来ですね。席について私達は関与していませんよ?王国側の心情は予想出来ますが。」


「ワタリ君、ルーよく来たな!この席は見晴らしがいいぞ?他の皆もすでに身内なんだからよほど酷くなければ立場は気にしなくていいからな?」


 そう、驚いたのは魔王様の態度が結婚後に変わったことなんだよね。多分、完全に身内になったからだと思うけど、僕に対して当たりが強くならなくて助かった…ほんとだったら最初からこの性格だったら良かったんだけどね…


 魔王妃様が言う心情って国民に僕の立場を見せるって事なのかな?僕を挟むことで王国と魔国が手を取り合ったという印象になりそうだけど…逆に僕を排除すれば同盟を破棄させられるって印象付けもあるのかも?

 狙いを絞ることで護衛しやすくなるもんね。妻達が狙われてもプレゼントした指輪で僕か他の妻達の所に転移も出来るし、テオもいつの間にか魔力で動く石像とか作り始めていたし、アルルも敵意があるものに反応して色が変わる植物を植えてるし皆好き勝手に屋敷の防衛を充実させているんだよなぁ…


「あら、皆さんお早いですわね。ジェミ、屋敷での暮らしは平気かしら?」


 魔王夫妻と話していると、結構時間が経ったのか王国側の人達が到着した。


「アリィお姉さま、皆さんとても良くしてくれていますので安心してください。アリィお姉さまはこれから開会式の準備ですか?」


「準備はすでに終わっているので挨拶だけよ?それも夫がするから私の出番はないわ。」


「だからって私に抱き着かないでくださいよぅ…わぷっ…お姉さま胸で苦しいです…」


「んんー!ジェミは相変わらず可愛いわねぇ!気軽に会えないんだからジェミ成分をしっかり補給しないと!」


 アリエス様、ジェミが嫁いでから余計に妹離れ出来なくなった…?逆か、今まで少しずつだったのが一気にって事なんだろうなぁ…


「アリエス様、そのくらいにしてもらって大丈夫ですか?ジェミが苦しそうなんで…それと、やはりグロリオーサ国が流れ人に接触して渡航チケットを渡しているようです。」


 僕がそう言うとアリエス様はジェミから離れ思案した。


「そう…やっぱりそう来るわよね。本当だったらこのイベントだって友好国になったという宣伝も含めていたのに神託によって転移装置実装のことしか知らせたらダメってなったの。少しでも牽制になるかと思ったのにごめんなさい。」


「いえ、運営…神託は流れ人が離れないように何かしらテコ入れするだろうとは思っていましたから…それを上手く回避できるように、または流れ人が満足できる形で治める必要がありますね…」


「そう言ってくれると助かるわ。まずは闘技大会でも楽しみましょう、時間があるときにメッセージで対策方針を教えてくれると助かるわ。私達も兵の準備させてもらうから。あ、ほら旦那が挨拶してるわ!あの声が素敵なのよ!普段なよっとしているのに決めるところは決めるのよ!」


 アリエス様の旦那さんが開会式の挨拶をしていた。この喧騒の中、マイクなどの拡声器もないのに澄んだ声が響いてくる。会議室で見た時は線が細い人と優しそうだなぁって印象だったけど、こう見るとカッコいいね。僕もあんな風になれると良いなぁ…ずっと張りつめたままだと自分も疲れるだろうしさ…旦那さんみたいに緩急がつけられたらいいのかも。


「それにしても、闘技場って観客に被害が出ないような何かはあるの?」


 僕は疑問に思っていたことを尋ねた。魔法とか弓とか誤射があり得るかもしれないんだけど、特に目立つバリアっぽいのに気が付けないからどうなっているんだろ?


「闘技場は舞台と観客席の境界にダンジョンにもある罠を利用しているわ。遠距離攻撃無効、魔力消失の壁があると思えばいいわ。まぁ…ダンジョンに近い場所じゃなきゃ効果が発揮しないのだけど。これが防壁に使えれば一番いいのに。」


 アリエス様が嘆いている。僕としては無差別に皆が使えるより大都市とかごく一部に使えるくらいがちょうどいいと思うけど…もし占領された場合とかを考えるとマイナスに働くこともあるからね。


「不便なくらいがちょうどいいと思いますよ?過ぎた技術は身の破滅を引き起こす可能性もありますし。」


 僕が答えるとテオが横から相槌をした。


「そうそう!錬金術師なんて知識を求めるあまり破滅した人が歴史上に何人もいるからね。施政者としては民の安全のために使えればってなるけど、もし敵に使われたら手も足もでないもん!」


 テオの言う通りだね。だから技術っていうのは対策も出来て実用するのが一番いいと思う。


「あなたが言うとホント気を付けなければいけないと思わされるわね。対抗策や抜けがないかもチェックか…旦那には向かないだろうから私が裏から手を回すべきね。あ、舞台に流れ人が上がったわ。確かスケジュールだと個人戦からだから抽選中かしら。私、予選を見ていないからどんな戦い方をするのか楽しみだわ。」


 アリエス様って活発というかお転婆っていう意見だったもんな…こういうイベントとか好きそう。それにしても、他の流れ人の戦い方をじっくり見たことないなぁ…アルファスでちょっと一戦交えたくらい?でもあれって戦いでもないしな…んー僕も結構楽しみかも。


 抽選が終わったらしく、2名を残し他6名は控室に戻っていった。武器から職を予想…って二人とも槌なんだけど!?え?あれって重戦士ってこと?片方は盾持っているから聖騎士…?それとも戦士?上位職にどれだけなっているか分からないけど、武器で判別できないんだけど…

 僕のイメージとしては片手の槌って治癒士が盾と一緒に装備しているんだよなぁ…でもそもそも個人戦でヒーラーだと厳しいか…


 僕は流れ人がどんな戦い方をするのか、もし敵対した場合の参考に出来るようにしっかり見るのだった。

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