第87話 不安材料を潰していこう

 ふぅ緊張した…仕事以外の話をVtuberとすると一般ファンの人は立場を利用しているとか言ってきそうだもんね…今回の話は同じゲームをしていたってことでの雑談で流せそうだからリスナーに話しやすいことだと思う。これで流れ人の思考操作というか誘導は大丈夫かな…リスナーの中に何人同じ鯖の人がいるか分からないけれど、抑止の流れが出来ると良いなぁ…


 僕にはもう向こうの世界の人達がAIって思えなくなってきているんだよね。結婚したからかもしれないけれど、みんなそれぞれ考えて行動しているし、喜怒哀楽もきちんとしているから。こちらの世界での肉体や意志がないだけ…なんだよね。


 管理業務にAIが浸透している状況でさらに肉体があったら人なんていらなくなっちゃうから、肉体を作るのは法律で禁止されている。けれどあの世界から意識だけリアルに持ってくるのはきっと行けるはず。

 そこで僕が考えているのは電子の肉体、つまり僕が作った3Dモデルにみんなの意識を付与する方法。仕事柄モデリングは難しくないけれど、みんなの意識に関しては女神さまに応相談って感じかな?それと箱庭の準備だね…プラネテスみたいに広大な世界はデータ的に厳しいけれど、一つの街くらいならいけるかな…?うん、方針は決まったから少しずつ作っていくか。みんなのモデリングは問題ないし、街は…アルファスをモチーフにすればいっか。


 2Dに落とし込みしたところで今日の作業は終わりにした。それじゃログインするかな。


 

 意識が暗転し、温かい布団にくるまれている感覚が伝わってくる。仄かに香るみんなの匂いでこちらの世界に戻って来たんだってことを実感する。目を開けると隣にはジェミとアルルがいた。みんなとしてから一緒に寝るのは2人ずつになったんだよね、落ち着いたから…かな?愛されているってことを実感できなくて焦ってしまっていたのかもしれない…


 ガチャッと扉の開く音がした。


「あ、やっぱりワタリさん戻ってきてた!」


「ラヴィさん大声を出さないの。まだお2人は眠ってらっしゃるみたいよ。」


「ワタリ…私も撫でてほしい…」


 トテトテとイーリスが寄ってきて頭を差し出してきた。


 学生3人組が部屋の中に入ってきて一気ににぎやかになった。


「よく僕が戻って来たって分かったね。こらイーリス、撫でてた手をお腹にもっていかない。そこを撫でるのは意味が変わっちゃうでしょ?」


「ふふふ!私の勘は結構当たるのです!」


「違うでしょう…ワタリさんが規則正しくこちらの世界に来てくれるからでしょうが…」


 ラナさんがため息つきながら答えた。ラナさんって出会ったころから思っていたけど、苦労人の雰囲気があるよね…イーリスもラヴィも自由にやりたいことをしているって感じだし…


「…きっと出来てる。だからおかしくない。」


 いやいや…ちゃんと出来ないように予防したでしょうが…まだ学生だし世界を回るにしても妊婦さんを連れだすわけにもいかないでしょう…そりゃみんな貴族なんだし跡継ぎの重要さを知っているからなんだろうけど。


「とりあえず、まだ朝早いし寝てる人もいるんだから一緒に横になる?僕ももう少しのんびりしたいと思っているんだ。」


 そう言うとラヴィとラナさんがそれぞれ寝ている2人の隣におずおずと入って来た。イーリスは…うん、僕に乗ってくるのね…肌寒くなってきたし、イーリスは小さくて体温高めだから湯たんぽみたいで助かる。


「ふふ、こうやってみなさんと横になると体温だけでなく心まで温かくなりますね。」


「ほんとですね!イーリスちゃん、そこ私にも変わってください!」


「…ラヴィ、うるさい。軽い私向きの場所。」


「お、重くないですよ!そうですよね?ワタリさん!」


「非力な僕でもラヴィは重いって感じないから大丈夫だよ。それに、体型を考えると健康的だと思うから気にしなくて平気。」


 言葉にしなかったけれど、ラヴィは一部が大きめだから体重きにしちゃうんだろうなぁ…女の子ってやっぱり気になっちゃうのかな?僕的には健康的だったらいいんだけど。


 そこへリディさんが部屋に入って来た。


「ワタリ、まだ起きてる?報告したいことがあるんだけど。」


「まだ起きてるよ。リディさん、どうしたの?」


「王都に滞在しているザインとアグスから情報がきたから共有しておこうと思って。なにかきな臭い動きも見られてるみたいよ。」


 人の出入りが激しいから何かあると思ってザインさんとアグスさんに情報収集を頼んでいたんだよね。運営サイドもしくはグロリオーサが動くとしたら今しかないだろうし。


「やっぱり予想していた事態になりそうだね…魔国に準備を進めるように連絡しておくよ。」


「そうね、そのほうがよさそうよ。法衣服を着ている男が闘技場で流れ人に声をかけているのを見かけるらしいわ。なにかチケットのようなものを渡しているみたい。」


 チケット?闘技大会のってわけじゃないよね…?あるとしたら国を移動する渡航チケットになると思うんだけど…ルクリア国が発行するチケットじゃなく相手国側から

招待ってことで渡航するのか。見返りにというか恩を感じるだろうからそれで頼み事をしやすくなるってことだし。


 まぁ、船で攻めて来るならそこまで苦労せず撃退出来ると思うんだ。リディさんやアリエス様が言うには船は帆船で漕ぎ手が待機しているって話だからね。

 ただ、闘技大会に参加するような流れ人に声かけるのは賢いな…それでも船で攻めて来るなら大丈夫だろうけど、上陸された後の準備も一応しておこうかな。


 僕はアルルの頭を安心させるように撫で、ゆっくりと目をつぶった。

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