第72話 初めての転移

 1か月ほどアルファスに留まり、屋敷の施工過程のチェックをしたり、テオと香水について話し合いをしていると、流れ人が30階まで攻略したというのをアリエス王女から知らされた。意外と早く降りて僕はびっくりしたよ。罠解除大変だったしそこまで強くない敵でもダンジョンの環境が難しくしていたからね…

 でも、きちんと対策していれば21-30階はそこまで脅威ではないのか。魔法が効く死霊系と素早さで翻弄してくる動物系だし、ボスのキマイラもゲームの敵モンスターとしては定番だから流れ人ならすぐに対策を思いつくだろうし。


「…というわけで流れ人が30階を越えたみたいなので一度王都に戻りますね。屋敷が完成したら引っ越してきます。テオさん、お体に気を付けてね。」


「はーい!ワタリも気を付けてね!香水は他の錬金術師にも教えてオーダーメイドと一般販売向けのを充実させていくね!でも、ほんとこんな発想は思いつかなかったよ、やっぱり流れ人はすごいね。魔力を操作して匂いに干渉するなんて…」


「抽出は錬金術で出来るのでそこまで難しくはなさそうだから思いつくかどうかでしたね。僕としてはダンジョンの経験が活かせて嬉しいですけど…」


 あのゾンビ達の臭いはほんときつかったからね…流れ人達はどうやって超えたんだろ…あ、情報共有しているなら対策して普通に潜れるのか。僕は全然掲示板を見ないからどんなことになっているのか分からないけど…やっぱり自分で見聞きした情報で攻略したいってのもあるからね。


「でも、錬金術で香水販売は貴族達と繋がりが出来るからプラスになるのはほんと嬉しいよ!錬金術師自体が人数いないから領主やトップの人達とは繋がりあるけれど、それ以外とは希薄だったからね!これで細かい問題に対しても意見言いやすくなるかも!」


 人との繋がりは切っても切れない関係でどこかしら関わってくるからね、プラスに働いてくれるなら僕としても嬉しいな。トップから無理難題を押し付けられなければ…


「何か問題があったらまた連絡してくださいね?それじゃ名残惜しくなるのでこれで!」


 僕はテオに挨拶をし転移装置を起動した。




「ほんと一瞬で移動出来ちゃうんだね、やっぱり古代のアイテムはすごいなぁ…ワタリが所有しているからいいけれど、もし個人用が発見されたら大変な事になりそうだね。

 さってと!屋敷が出来たときにわたしも引っ越すために荷物を整理しておかなきゃ!あ…ワタリがどんな匂い好きなのか聞くの忘れちゃった…でも、ベッドに忍び込んでいた時とか安心する匂いって言ってたから下手に匂いつけないほうがいいのかも?素の匂いが好きって飾りがいがないけど、嬉しいね!」


 わたしはこれからワタリのお嫁さん達と楽しくワタリと過ごすのを想像しながら荷物をまとめていった。



:::::::


 目を開けるとそこは王城にある研究室の小部屋についていた。ほんと一瞬で移動なんだ、これは便利すぎる。魔力も僕からほんのちょっと使われたくらいで疲労もないのがすごい。


「お、ワタリ君戻って来たんだね。」


「シュレーさんお久しぶりです。…僕が到着するのって他の人からすると分かるものなのですか?」


 僕が到着してすぐシュレーさんが来たことから疑問に思ったことを聞いてみた。


「淡い光が少し部屋から漏れていたかな。魔力の波動は特に感じはしなかったけれど視覚的なもので分かったんだよ。」


 なるほど、光が漏れるのかぁ…


「ということは装置の設置場所に関しては屋外が良いって感じですかね…天候も考えて屋根があったほうが良さそうですが、一斉に転移してきた場合にどう人が出て来るのかがわかりませんね…」


「最低限の屋根は付けておくべきだろうね。この世界の人々は気にしないだろうが流れ人は濡れるのが嫌って人はいそうだからね。ま、そのあたりは移動時間が短縮される場合のデメリットってことにしとくのもありかな。最初は屋根なしにしといて後から設置すればそれだけで嬉しいかもしれないし。」


 なるほど、不便からよくなればそれだけで嬉しいもんね、逆の場合は不満が溜まりそうだし。


「そのあたりはシュレーさんに任せちゃいますね、僕はアリエス様に呼ばれているのでそろそろ行かせてもらいます。」


「ああ、引き止めちゃってすまないね。ワタリ君のおかげで転移がどんな感じなのか知れて助かったよ。」


 僕達はお互い挨拶をして部屋から出た。それにしても…呼んだ理由はなんだろ?思いつくのは婚姻式、あとは魔族との顔合わせになるかな?ノルニール邸に集合みたいだけど…



一方、その頃の流れ人達は…


「かんぱーい!いやぁ長かったが地下30階クリアできて良かったな!」


「そうね、色々あったけれど結局私達のPTが一番乗りだったわね。」


「フルPTほど消耗品に費用かさむし1枠空いていたほうが何かと融通が利くってことだろうな。」


「罠も宝箱を無理して取らなければ被害がないもんな…スキル育成はできんが仕方ない。」


「それにしても、ゾンビを越えちゃえば正攻法って感じでよかったな。罠1つ1つが凶悪だけどよ。」


「私はもうゾンビの階層こりごりよ、隔離されるし…次は一気に下へ行きたいわ。」


「隔離で時間とられるのはきついからな…道中の罠も下手に壁さわらなければ発動しなかったし、戦闘で押し込まれたら危ないだけだったな。」


「それより!ナイトメアでの同士討ちはなにか対策ないの!?あなた達が催眠状態になって私や治癒士の精神耐性が高い職で状態異常を解除するのめんどいわ!」


「ま、まぁそれでクリア出来るんだからいいだろ?なぁ?」


「あ、あぁ問題はなかったよな…?」


「あんた達のだらしなく涎垂らした姿が見苦しいのよ!何を見せられているの!」


「そ、そんなこと言えるわけねぇだろ!そういやゴースト系に魔法使いや治癒士がほんとすごかったな!」


「だ、だよな!魔法系が20階前半、25階以降は前衛って感じで上手く回っていたと思うぞ!」


「まったく…そうね、バランスが取れているPTだからこそすんなり抜けられた感じはするわね。他は片寄って魔力不足でやられちゃうってのを聞くし。」


「ああ…だがキマイラは何度もやりなおしたな…何回食われたことか…」


「私なんてしばらく火が見れなくなったわよ!軽くトラウマになったわ!」


「リアルだからこその恐怖って感じだよな…だが、耐久戦になったが超えられてよかった。」


「もう一度やればすんなり行けそうだから次はさらに下を目指すぞ!食料と回復薬たらふく買い込むぞー!」


 そうして流れ人のPTは次の階層攻略へ向けて準備を始めた。次からの迷宮に悩まされるとは知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る