第54話 とうとう地下30階

 地下29階で休息を取り、ボスに向けて話し合っている。25階からでてきた魔物はオオカミやラットが素早く翻弄し猛禽類のフクロウが忍び寄ってくる、もしくは魔法を使ってくるなど多彩な攻撃をしてきた。ただ、僕の網が意外にも捕らえるのに役立ってしまったため、苦労せず進めてしまったのだ。とはいっても、どの種類も網を壊そうとしてくるから魔力による強化が必須なんだけどね…げっ歯類とか厳しいでしょ…


「ワタリのおかげでかなり楽できたし、30階もすんなり攻略できそうだな!」


「そうは言うがなザイン、油断大敵だぞ?」


「なにか私達のサポートじゃなく、私達がワタリをサポートしているわよね。」


「なぁ…これって依頼料払う必要あると思うんだが…」


「あ、気にしなくて大丈夫ですよ。僕としても最初からダンジョンに潜る予定でしたし、ここまで楽に来させてもらったので助かりましたよ。」


 ソロで潜ろうとしていたけど実際来てみると厳しい場面が多いからね。やっぱりトドメを刺すにしても方法が限られてくると大変…一人でも戦闘職がいれば変わるんだろうけど…一人で全部こなすのは精神的に厳しい。常に罠と魔物の位置に気を配らないといけないからね。仲間って大切なんだなって思うよほんと。


「こっからは俺達でも油断したらやばいからな、ボスはキマイラなんだよ。」


 キマイラってたしかライオンの頭と山羊の胴体と毒蛇の尻尾だっけ?伝承だと火のブレスを吐いてくるよね。ゲームとかはHPがあるけど、リアルなこの世界だと生物として必要な部分を省けば倒せると思うけど…

 たとえば喉をふさぐってのだと伝承通りだよね。金属で息が吸えなくなるという。目をつぶしちゃうと暴れまわって逆に危ないだろうし…硬さ次第では蛇から倒すのもありだよね。


「攻略法としてはまぁ蛇の対処からになる。毒は厄介だし、あいつの出す唾でも毒が含んでいるせいで時間かけすぎるとボス部屋が毒沼や空気中に毒が含まれてしまうからな。本体に関しては俺が敵の注意をとるから裏に回ってくれ。ワタリは出来るならボスの動きを制限してくれると助かる。」


 制限かぁ、前にフィールドでやった突進に合わせて棘でも出してみる?1か所だけ抜け道をつくって誘導して尻尾を切ってもらうとか。1発勝負だけど大きな隙が出来るだろうし、失敗しても持ち直せると思うんだよね。


「じゃあ棘を前後と向かって右に出しますので左側へボスが飛び退いたら尻尾狙ってみてください。ザインさんが注意を引いて突進しかけてきたとこに出しますので。」


「それでいきましょうか。私達は向かって左側に寄っておくわね。失敗してもなんとかなるわよ。」


「あぁ、そもそも最初から切れるとは思ってなかったからな。隙を作ってくれるだけでも嬉しいもんさ。」


「さっさと40階まで攻略して日の光浴びたいぜ…地上が懐かしくなる。」


「長く潜っているとおかしくなる奴もいるからな…長時間の探索は厳しいよなぁ…」


「愚痴ってても始まらねぇし、行くぞ!」


 僕達は扉をくぐりボスと対面した。キマイラって、すごく…おおきい…馬を一回り大きくしたのを想像していたんだけどこれ、高さだけでも3mはあるよね?とりあえず魔力に反応して棘がでる罠を投げる。球状にしてあるから移動させるのも楽なんだよねこれ。密度が高いから重いけれど、大きさは野球ボールくらい。とりあえず配置に撒くんだけど、後ろ側はザインさんに注意が向いたらだね。これで準備おっけい。

 僕はザインさんに頷いた。


「おらぁ!こいや!」


 ザインさんが叫ぶとキマイラがこちらに気が付き、少し警戒しながら様子を見ている。僕は後ろにボールを移動させ敵が近づいたら発動するようにセットした。

 動かないキマイラに、リディさんが牽制の矢を撃ち込む。突っ込んできたところでタイミングを計って罠を起動すると棘が勢いよく迫る。後ろ側も蛇が確認したのか想定通り右側へ飛んだキマイラに、待ち構えていたアグスさんとリディさんが攻撃をしかけた。キマイラが着地する前に蛇を切り落とし、僕たちと合流した。

 …鮮やかに任務をこなすって凄いね…攻撃しにきているわけじゃないけど向かってくる巨体の尻尾をうまく切り落とすなんて…


「上手く行ったわね、流石ワタリ!」


「ここまで簡単に行くとはな。」


「だが奴さんかなり怒ってるぜ?注意しろよ?」


 毒がまったく広がっていないため、フロア全体が使えるのが助かるみたい。確かに追い詰められたりしたら毒に触れちゃいそうだもんね…


「あいつ、息を吸い込んでやがる!ブレスがくるぞ!散開!」


 ザインさんとアグスさんがばらけて対処をする。リディさんはなぜか僕の隣に来た。事前に目の前に氷を出してみると言っていたからかな?


「リディさん…逃げなくていいんですか?」


「ワタリなら大丈夫でしょ!自信をもって!」


 気軽に言ってくれるけど、僕だけならともかくリディさんは死んじゃうかもしれないでしょ!


「まぁ、あいつも動き回るのを狙うより正面のワタリを狙うだろうからね。それに死なない自信はあるわよ?…動き回って他の人のに巻き込まれるほうが怖いし…」


 なるほどね…確かに自分を狙ってはいなくても巻き込まれる可能性はあるか…とりあえず僕は出来ることをしなきゃ!キマイラは僕から視線をそらさないし…キマイラがブレスを吐く瞬間に僕は氷(絶対零度に近い)の壁を作りブレスを防いだ。キマイラの傍に創ったから冷気はこちらまでこないけど…蒸気が凄いことになってる…そこをキマイラの死角を突いてザインさんとアグスさんが畳み掛ける。ブレスが終わったようだから氷を消すとリディさんも遠くから援護射撃を行っていた。

 ダメ押しで脚を凍らせておくかな…強度がそこまでなくても不意をつけるだろうからね。よし、戸惑ってる!そこを3人が見逃すはずもなく攻撃を加えていく。


 

「ふぅ。うまく行ったな。流石ワタリだ!最後の足止めも絶妙だったな!」


「これからも一緒に冒険してほしいわねぇ…」


「ワタリはセンスあるな。生産職でこれだけ出来るなら戦闘職だったら一人で何でもこなせそうだ。」


 いや…性格的に戦闘職は合わないと思う…こう、なんというか主張しないといけない気がして…だから裏方というか生産職を選んだんだよね…


「ワタリに戦闘職は似合わないわよ!作業している姿のがかっこいいわ!」


「惚れた弱みってやつか?ま、言いたいことは分かるがな。前に出ていくタイプではないからこそだし、創意工夫ってとこが生産職が似合うしな。」


「だな。ここから先は慎重にいかないと行けないぞ?今までのは練習みたいなものだからな。」


 そうか、ここから先は今までの総合みたいな階層になってくるんだよね。ある意味ここからダンジョン探索の本番か。僕は気合を入れ直し、次の階層を目指した。

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