第20話 錬金術師は片隅でぽつんと作業

 今日も楽しく過ごしていくぞー!まずは予定の確認、大事だよね。生産時間の目安が分からないから、先に済ませておくのはっと…教会でお祈り、鉄と炭の購入…さすがにレアメタルのクロムは手に入らないよね…錆びづらいステンレス鋼で調理器具出来ればよかったんだけど…炭素鋼で作って、解体用のナイフもそれで作るかな。

 その後は薬師ギルドで部屋借りてかな。よし、それじゃ向かおうか。


 昨日は周りを見ずにすぐ宿屋に向かったけれど、明け方だと住民と冒険者で向かう方向が違うからそこまで混雑を感じないんだね。


 教会の前まで来た。近くで見ると大きく荘厳な、そして静謐な空気が漂っている…け、ど!入口前で死に戻りしたのか流れ人がたむろしているのは雰囲気ぶち壊しだ…中も騒がしかったらどうしよう…そう思いながら教会の中に入る。

 中もそれなりに人はいるがどういうわけか流れ人は見受けられない。復活場所が入口なのかも?女神像を前に住民達がお祈りしている。商人や農民っぽい人達は供物を捧げている。何か準備してきたほうが良かったかな…?ちょっと作るか。

 熊の爪を5本使い、熊皮をなめした革の紐を通し首飾りにする。ちゃんと自分に刺さらない様に先端を丸めてっと…うん、初めてボスを倒した記念品を捧げるって感じだね!


 両膝をつき祈りを捧げる。女神様、僕をこの世界に連れてきてくださりありがとうございます。おかげで楽しく過ごすことができ、充実した毎日を送れています。本日は初めてボスを倒した記念として首飾りにしたものを供物とします。


 …ふぅ、こんな感じかな。入口に向かおうと立ち上がったときに


「私の世界を楽しんでくれてありがとう。」


 と、ささやくような声が届いた。もしかして女神様に祈りが届いたのかな?僕は入口に向かい呟く。


「これからも充実した日々を過ごさせてもらいますね。またお祈りに来ます。」


 次は鉱石かインゴット買いたいんだけど…それぞれの値段次第かなぁ。鉱石なら他の金属が含まれている可能性もあるし。鍛冶ギルドがないから雑貨屋見てみるかなぁ…


 鉱石素材系のお店はっと…あった、隣は服飾関係みたいだから後でみるとして…


「すみません、こちらに鉄のインゴットか鉄鉱石売っていますか?」


「お、いらっしゃい。お前さん鍛冶師かい?インゴットも鉄鉱石も置いてあるが、産出地が少し離れているため値段が割高になるぞ?」


「まぁそれでも既製品より自分に合ったものが作れますし、何より練習になりますからね。」


「ま、そうだな。自分で加工できるなら鉄鉱石のが割安になるぞ。インゴットは加工費も含まれるしな。」


「それなら金貨5枚分の鉄鉱石をください。」


 ポーション制作で金貨24枚分稼いでいたからそれなりに余裕あるし…テオにほんと感謝だなぁ。生産終わったら連絡入れてみるかな。


「ほれ、この籠分だ。お代はもらったぞ。インゴットにして余った分は買取もしてるからな。」


「ありがとうございます。もし余ったらその時は利用させてもらいますね。」


 じゃあ次は隣のお店で服でも見ようかな。


「いらっしゃい。まぁ可愛い子ですこと!」


「こんにちは、服を買いに来たのですが僕にはセンスがないので金貨3枚で見繕ってくれませんか?…ちなみに僕は男ですのでスカートは辞めてもらえると嬉しいです…」

 

見繕ってもらうよう頼んだら真っ先にスカート持ってこようとしていたので牽制した。スカートって絶対スースーするよね。女性ってすごいなって思う…


「あと、僕は生産職なのですが自分で素材を採取しに行ったりもするので動きやすい服を1着、普段着用を2着お願いします。」


「まぁまぁ、生産職で外だなんてすごいのね。色の指定はあるかしら?なければこちらで選ばせてもらうこともできるわよ。」


「はい、それでお願いします!あと、アルファスから来る際にウルフと熊を狩ったので革にした生地があるのですが、買取はしてますか?」


「加工済みなのね、大歓迎よ!そちらのカウンターに置いておいてね。」


 僕は言われたとおりに革を置いておく。


「とりあえずは旅用の服を紹介するわね。基本的に生産職は金属系をお勧めできないから防御力なんてないけど、麻痺耐性の付いた植物の繊維を使ったもので上下そろえたわ。顔を隠したいようだからこの黒と白のレイヤード風パーカー、内側のシャツは質感と発汗性から綿の薄手のシャツ、下は黒色で7分丈で伸縮性に優れたパンツよ。」


 素材的にベスタ周辺の敵に対応できるものでかなりよさそう。上下とも黒が多い配色でぱっと見白とか青なら神官っぽく見えそう。これ、男女どっちも着れる感じだね。僕の見た目的に男寄りの恰好は似合わないからこうなるか…


「普段着用は素材を綿にしてゆったりとしたタイプ。男の子だけど、あまりにカチカチな恰好だと合わなそうだから中性的な印象のになるのはごめんなさい。」


 肩口の空いた涼しそうなシャツとひざ丈までのパンツ。季節的に夏に向かっていくからこれで大丈夫かな。


「はい、大丈夫です!選んでくれてありがとうございます。」


「いえいえ、選ぶのは楽しいから大丈夫よ。それと革の買取ね、質も大きさも十分だから金貨1枚になるわ。なので差額の2枚だけもらうわね。」


 僕は普段着用に着替えさせてもらい店を出た。

あ、パーカーを着て顔隠しとこ…薬師ギルドの受付はあまり混雑していない様にみえるけど、作業部屋はかなりの数埋まっていた。


「すみません、僕は錬金術師なのですが手作業での状態異常系の薬品作りを指導してもらえますか?」


「はい、問題ありませんよ。現在作り手が少ない状態ですので、覚えた後にこちらへ売ってくださると助かります。それではギルド証の提示をお願いします。」


 僕はギルド証を提示した。


「錬金術師である意味助かりました。薬師ギルドの作業部屋は混雑しているのでお待たせすると思いましたし…錬金術側は1部屋しかないですが空いてますので部屋へ行ってください。ここから右側の突き当りの部屋になります。」


 薬師に使わせないできちんと取っておいてくれてた。器具が違うからそもそも案内出来ないのかもしれないけど。部屋で待っていると一人のおじいさんが来た。


「ほっほ、待たせてしまったかの?それではこれから指導に入るが準備として目を保護するもの、鼻を保護するものなど大丈夫かの?なければこちらで準備するが。」


 多分鼻や目に刺激臭とか飛散する液が危険だからってことなのかな?一応魔力でガードできるけど…リアルだとドラフトの中で作業するんだっけ?


「えっと、こんな感じで魔力によるガードでも大丈夫でしょうか?保護メガネや鼻栓のがいいでしょうか?」


「ふむ…それだけ操作が上手ければ大丈夫そうじゃの。今回の毒草は飛散する液体に毒成分が含まれるため注意せんといけんからの。」


 やっぱり魔力操作をきちんと練習しといてよかった…応用力がすごすぎる。


「まずは毒性分の抽出なんじゃが、この草の根と茎の部分を分ける。使う部分は根のほうじゃぞ?次に根を擦る。この時の液体が付いた手で目をこすらんようにな?さらに蒸留を行う。沸点や融点の違いにより毒成分の抽出じゃな。毒成分は融点が高いので水分が飛んだ白い粉が毒粉末じゃ。これにいやし草の回復成分と純水を適量加えると完成じゃ。配合バランスが悪いと毒のままじゃから気を付けるのじゃぞ?中和が大事じゃ。」


 重要な事ばかりだ…錬金だったら飛ばせる作業が多いけど、ほんと手作業でやるとこれは大変かも…おじいさんと同じように手作業でやるけど時間がかかりすぎた…抽出自体に時間かかるし。配合バランスもほんの1滴の違いで変質しちゃうから追加で粉末入れたりしたよ…まるで酸性とアルカリ性を用いて中性にするような…


 僕はおじいさんにお礼を言い、錬金術を使って解毒ポーションと麻痺解除ポーションを作成していく。麻痺草は全体に毒性があるから抽出するのも結構な量になる。

 さて、とりあえず素材を解除ポーションに変えていくかな。


―規定数以上の流れ人をベスタで確認、2日後より大規模戦を開始します―


名前:ワタリ

所属:錬金術ギルド

階級:D(S~Fの7段階)

称号:流れ人の良心

スキル:錬金7、言語理解、植物鑑定4、生物鑑定2、魔力操作8、鍛冶3、彫金4

    裁縫4、調合5、解体術

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