第8話 森を抜けました

「ここまでくればもう安全ね。ちょっと休憩にしましょうか」


 森を出て10分ほど歩いたところで、休憩を取ることになった。


「このあたりは魔物が出ないのか?」

「いえ、ラビット系やハウンド系の魔物はでるんだけど、そんなに強くないのよ。それに、このあたりは見晴らしもいいから不意打ちを食らうことはないわ」


 ここから町まで、さらに1時間は歩かなくてはならないという。

 正直に言って2時間森を歩き、戦闘を繰り返した賢人は、このまま眠ってしまいたいほど疲れていたので、休憩はありがたかった。


「よっこらせっと」


 バッグを肩からおろし、地面に座る。

 それほど重くはないリュックサックだったが、それでも長時間担いでいると肩が凝るものだ。


「あ、水飲む?」


 バッグを開けてペットボトルを取り出し、ルーシーに問いかける。


「えっと、ありがとう。でも、自分のがあるから……」「んー、戻すのも面倒だし、貰ってくれると嬉しいかな」

「そういうことなら、遠慮なく……それにしても、変わった入れ物ね?」


 ペットボトルを受け取ったルーシーは、それをいろんな角度から見たあと、首を傾げた。


「あの、これってどうやって開ければいいの?」

「ああ、ごめん。貸して?」


 ルーシーから一度ペットボトルを返してもらった賢人は、キャップをひねって軽く緩めた。


「ここをこうして回すと……こんな感じでフタがあくから」

「なるほど」

「で、逆に回すと閉まる、と」


 一度キャップを開いて見せ、閉じ直して再びペットボトルを渡す。

 ペットボトルはともかく、キャップの開閉方式には馴染みがあるようで、危なげなくふたを開けた。

 そしてひと口飲み、目を見開く。


「なにこれ、美味しい!」


 こくりと喉を鳴らしたあと、ルーシーは感嘆の声を上げた。


「そう? 普通の水だと思うけど」

「ぜんぜん普通じゃないわよ! すっごく美味しいって!!」


 再びペットボトルを口に当てると、ルーシーはこくこくと喉を鳴らして、半分ほどを飲み干した。


「はぁー……! なんか、生き返ったって感じ」

「まぁ喜んでくれたんならよかったよ」


 賢人は飲みかけのペットボトルを口にしたが、やはり普通のぬるい水としか思えなかった。

 もしかすると彼女が普段飲んでいる水は質が悪いのだろうか。


「あ、そうだ。これ食べる?」


 続けて賢人はスティックタイプの練りようかんを2本取り出し、片方をルーシーに差し出した。

 少し前から空腹を感じ、腹になにか入れたかったが、自分だけ食べるのも気が引けるので、ルーシーにも勧めたのだ。


「これは?」

「練りようかん。甘くて美味しいよ?」


 賢人は個包装になっているようかんのパッケージを開けて、ひと口かじって見せた。


「それじゃあ、いただきます」


 ルーシーも見よう見まねでようかんをぱくりと口にする。


「ん~~~!!!!」


 なにやらうめきながらも、ルーシーはようかんを小さくかじって口に入れ、噛む必要のほとんど無いそれをしばらく咀嚼したあと、ゴクリと飲み込んだ。


「なにこれーっ!? ほんとに美味しいんですけどーっ!!?」


 いちいちリアクションがおおげさだな、と微笑ましく思いつつも、これに関しては賢人も同感だった。

 空腹と疲労の極にあるいまの状況において、ようかんの甘さはありがたい。

 賢人もルーシーを見習って、甘さを堪能するようにゆっくりとようかんを食べた。


「はぁあぁぁ……しあわせ……」


 しばらく幸せそうな顔で余韻にひたっていたルーシーだったが、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべて賢人を見た。


「あの、いまのって、まだあったり……」

「あるよ」


 賢人は苦笑を漏らしながら、バッグから練りようかんを取り出した。

 もしかしたらこのあたりは甘味が貴重かもしれない。

 練りようかんは残り2本で、補充ができる可能性は低いが、ここでケチっても仕方がないだろうと考えた。


「あれ? ちょっと待って」


 賢人が差し出した練りようかんを受け取ろうとしたルーシーはなにかに気づいて手を引っ込めた。

 その引っ込めた手を上に向けて開くと、手の平に1枚のカードが現れる。


「えっ……?」


 賢人が驚いて漏らした声に気づいた様子もなく、ルーシーはカードを凝視し、目を見開く。


「やっぱり……」


 小さく呟き、顔を上げて賢人を見ると、ルーシーは再び口を開いた。


「HPが回復してる!」

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