第6話 自己紹介しました

「さて、いろいろ聞きたいことはあるんだけど、まずは自己紹介といこうか。あたしはルーシー。冒険者だよ」


 ルーシーと名乗った女性は、興味津々といった視線を、遠慮なく賢人へ向けた。


「えっと、俺は賢人。あー、一般人、かな」


 賢人は咄嗟にファーストネームを告げた。

 なんとなく、そうしたほうがいいような気がしたからだ。

 賢人の名乗りに、ルーシーは思わず顔をほころばせた。


「あはは。ツッコミどころはたくさんあるけど、とりあえずよろしくね、ケント」


 ルーシーが握手を求めたので、賢人はそれに応えて彼女の手を握った。


「よろしく、えっと、ルーシー」


 会ったばかりの女性を呼び捨てにするのに少し抵抗はあったが、ここは相手に合わせることにした。


「それで、ケントはなんでこんなところにいたの? 森の奥が危険だなんてことは子供でもわかってることだけど」

「いや、なんでといわれても、気がつけばここにいたというか、なんというか……」

「気がつけばここに? じゃあ家はどこなの?」

「家? 家は、その……」

「もしかして、記憶がない、とか?」

「記憶が……ああ、そう! そんな感じ!!」


 自分のことをどう説明するのか困った賢人は、とりあえずルーシーの言葉に乗ることにした。


「記憶がないのに、名前は覚えてるんだ?」

「あ、ああ、うん。不思議と、ね」


 記憶喪失といっても症状は様々なのだが、ここでそれを説明するのもおかしいだろう。


「ふーん。それに言葉もちゃんとしゃべれるみたいだし」

「そうだな。言葉も……ん?」


 そこでふと思い至ったのは、いったい彼女は、そして自分は何語なにごを話しているのだろうということだった。

 自分では当たり前のように日本語を話しているつもりだったが、目の前にいるルーシーは、瞳の色といい顔つきといい、およそ日本人とは思えない。


(……というか、猫耳とか尻尾とかがある時点でいろいろおかしい)


「どうしたの?」

「ああ、いや、なんでもない」


 細かいことは考え出したらキリがないので、それは後回しにする。


「それで、ケントはこれからどうするの? よかったら町まで案内するけど」

「本当に!? ぜひお願いします!」


 勢いよく頭を下げる賢人に、ルーシーは目を見開いたあと、思わず吹き出した。


「ぷふふっ、急にかしこまらないでよ」

「いや、俺ひとりじゃどうにもならないからさ」

「あはは、そっか。でも、それはお互いさまかもね」

「お互いさま?」

「うん。あたしひとりで森を抜けられるかわかんないからさ」

「それって、さっきのオークみたいなのが出るってこと?」

「そ。オークは滅多に出ないけど、森には魔物がたくさんいるからね。ゴブリンやコボルトなんかは結構出るかな」


 どうやらオークだけでなく。ゴブリンなどのモンスターも登場するようだ。

 いや、彼女は『魔物』と言ったか。


「さっきの戦いでHPをごっそり持って行かれちゃったから、いまはゴブリン相手でもキツいかも」

「さっきも言ってたけど、えいちぴーって?」

「ああ、そのあたりも説明しなきゃだめね。でもそれはもう少し安全なところに移動してからにしましょうか」

「そうだな」

「ま、HPがあるうちは怪我をしない、って思っておいてくれていいわよ」

「わかった。じゃあえいちぴーが少ないいまの状態だと、かなり危険ってことだよな?」

「そうね。でも冒険者の加護がないあなたよりは、ましだわね」

「冒険者の加護?」

「あー、それもあとで説明するわ。とにかく、森を出るまではあたしが警戒するから、もし魔物が現れたら――」


 そこでルーシーは賢人の手にある短筒を一瞥し、すぐに顔を上げた。


「――その銃で倒すか追い払ってちょうだい」

「あ、ああ。わかった」


 どうやら彼女は、銃というものの存在を知っているらしく、賢人はそれを少し意外に思った。

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