14-1 USB

 ここ数日ドッペルはパソコンを前に養護施設やクロの家で知り得た情報の信憑性を確かめるべく格闘していた。

 クロが託した情報を得てようやくドッペルゲンガー製造計画に対しての企業の対応が見えた。


 しかし、研究所側の動きが読めないことにはドッペルも動けない。

 それがドッペルゲンガー製造計画を終わらせる最後のピースになるだろう。


「ぐあ~」と呻きながらドッペルは髪を掻き毟った。


 研究所に捕まっているカズマから連絡があったのは、あの一度きり。

『ドッペルゲンガー製造計画を潰すんだ』とカズマが確固たる意志で告げたあの夜だ。


 今、カズマがどうしているのか分からない。


 無事でいてくれ。


 ドッペルは祈るような気持ちで膝の上で拳を固く握り込んだ。


 その時、ピンポーン、とインターホンが鳴った。


「はーい!」とジロウが返事をしてドタドタと玄関に出た。

 ドッペルもダイヤも気になってジロウの後についていく。


 今は夜中だ。こんな時間に誰が?


 玄関を開けると高校生くらいの男子が立っていた。大人しそうな印象だが、様子がおかしい。


 壁に手をついて寄りかかっていた。

 濃い隈が目元を覆っていて、尋常でない顔色の悪さだ。


「あ、あの、どうかしたのかな? こんな時間に……?」


 戸惑いと警戒心を露わにジロウが問い掛けた。


 目の前の青年が、糸で頭を吊り上げられたマリオネットのように、ふらりと顔を上げた。


「カ、カズマ君……」


 そう呟いて、ズルズルとしゃがみ込んでしまった。


 ドッペルは息を呑んだ。この青年はカズマを知ってる。


「体調悪そうだから部屋で休ませよう。いいよね? ジロウ」


 ドッペルは青年を支えてから、有無を言わせずジロウたちを肩越しに振り返った。

 二人は仕方がないという顔だ。


「……ちゃんと後で説明しろよ、カズマ」


 ジロウのベッドに青年を寝かせた。青年はヨモギという名前らしい。


 彼が気を失う直前にドッペルにUSBを手渡してきた。


「……これ、カズマ君から……もう一人のカズマ君にって……」


 ドッペルは正確に意味を汲み取り、ヨモギを安心させるように頷いた。


「……うん、分かった。ありがとう」


 ヨモギが渡してくれたUSBを開く。


 研究所内の構造に始まり、ドッペルゲンガー製造計画の生まれたあらましがデータになっていた。


 ドッペルはその文章にカズマのレポートを書く時の癖を見つけた。


 そうか。カズマは今も動いてるんだ――。





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