6-2 企業見学会
*
約一ヶ月前、企業が安易にカズマに引き渡してしまったドッペルゲンガーの少年を回収した。
その見届けにスミレも立ち会った。
警備員に扮装した企業の人間が音を立てずカズマの自宅に押し入った。
この時間に家族全員が出掛けていることは調査済みだ。
二階のカズマの自室の扉を開けると、カズマが、いやカズマそっくりのドッペルゲンガーの少年がいた。
「な、何っ?」
驚いて椅子から立ち上がった少年を警備員服たちが取り押さえ、瞬時に眠らせた。
「この青年を運びますが」
警備員服の一人がスミレに確認を取る体裁で伺った。
「ええ、お願いします。ご苦労様です」
どうやったらこんな声が出せるのかと自分でも疑うほど平坦にスミレは頷いた。
自分に嫌気が差すのは今に始まったことではないが、苛立たしくなる。
スミレはマニキュアの塗られた爪をガリッと噛んでいた。
――カズマの自室から誘拐してきたドッペルゲンガーの少年は、研究所の一室に寝かされた。
監視カメラがぐるりと囲む白い部屋。
少年が目を覚ました。
「何があったか分かる?」
スミレは宥めるように窺った。
少年はガバリと上半身を起こすと、スミレの姿に目を見張った。
「……スミレ、さん……?」
スミレは首肯した。
やはり少年は、数年前も教授の助手をしていたスミレのことを覚えていたようだ。
「これからドッペルゲンガー製造計画の最終段階に向けた実験を始めるわ。君の協力が必要なの」
彼はスミレを不安げに見上げた。
「ちょっと、待って下さい。廃棄処分の話は……? あの、どういうことかちゃんと教えて欲しいんです」
少年が知りたがっている気持ちは理解できた。
何しろこれまでまともにこの少年に計画を説明したことがないのだ。
彼には自我がある。
最低限、人として扱わなくてはならない存在だ。
「……いいでしょう。君にドッペルゲンガー製造計画とは何か、これから私たちが何をするのか話します」
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