第5話 ロシア人が朝飯作りに来た件
スマホのアラームで起きると玄関に向かった。
俺は朝は弱い。
スマホのアラームも毎朝5分おきの繰り返し設定だし、アラームが始まるのも起きる予定時刻よりも幾分と早い時刻に設定している。
何故なら、一発で起きることができないからだ。
が、今日は一発で起きることができた。
いや、できてしまった……と、いうべきか。
むしろ、飛び起きるような勢いだった。
――少しばかり浮かれているのかもしれない
表情に出ないように気をつけないとな……と、俺は玄関へと向かう。
で、ドアの前で待っていると、向こうから本当に控えめにノックの音が聞こえてきた。
スマホを確認すると、ジャスト6時で一分も違わない。
本当に、真面目過ぎて苦笑以外が出てこない。
と、そんなこんなでドアを開けると、制服姿のリーリヤがその場に立っていた。
「おはよう」
「おはようございます」
少し照れたような彼女だったが、何やら吹っ切れたような感も同時に漂っている。
あまり寝ていないのか、どことなく疲れたようには見えるけれど、元気がない等ではなく覇気は十分で目力は強い。
いや、勿論、それは――。
小動物的なオーラという意味合いであって、やはり一般的にはか細くて控えめで、そして頼りないのだけれど。
☆★☆★☆★
――リビング。
寝ぼけ眼でリーリヤを眺めていると、味噌汁の香りが漂ってきた。
嫌が応にも、そして自然に食欲を誘うこの香りは、やはり毎日嗅いでも飽きることはない香りなのだろうなと、そんなことを思う。
「しかし、お前は本当に良いのか?」
調理中のリーリヤに問いかけると、彼女は小首を傾げて応じてきた。
ちなみに、普段はリーリヤは長髪を下ろしているんだけど、今はシュシュで後ろに一つにまとめていて――それが彼女の調理中の流儀らしい。
普段は見慣れない髪型……というか、見たことがない髪型なので、どうにも新鮮な気持ちになるというのが正直な感想だ。
「……良いとは?」
「本心から言うと、俺としてはお前が家事をしてくれたら凄い助かる」
「だから、私がここにいます」
「いや、それはほんとにありがたいんだけど……面倒じゃないか?」
「……そりゃあ、面倒ですよ?」
「だったら、無理にそんなことしなくても構わんぞ?」
「……」
「……」
「……」
「……迷惑ですか?」
「いや、全然」
「だったら、作りに来ます」
「……そうしたいなら助かるけどさ」
「はい。そうしたいから作りに来ます」
トントントンと薬味ねぎを刻む音が聞こえてきて、かと思えば味噌を溶いたり味見をしたり。
合間合間に洗い物までこなしているようで、まるで魔法のように手際が良い。
「ずいぶん慣れてるんだな」
「練習しましたから」
「……そうか」
「そうなのです」
昨日のやり取りのそのままだったので、俺は思わずその場で吹き出してしまった。
「どうかしましたか?」
「いや、別に? ところでお前さ? いつもと違うその髪型のことなんだけど――」
そこでビクっと、リーリヤはこちらを見て、動きを止めた。
そして、小動物的な動きでシュタっと何やら身構える。
何というか、武道的な構えというか、そういう感じで戦闘態勢っぽい感じになった。
そう、何ていうかこう、やっぱり……シュタっていう感じで。
「どうしたんだ?」
「その……あと……えと……また………………可愛い……とか。そんな変なことを言うのではないかと」
「いや、別にその髪型は可愛くないよ?」
「…………え?」
「まあ、お前としても、俺に変なこと言われなくて良かっただろ?」
「……はい。本当に」
どうやらこの状況はリーリヤにとっては予想外のことだったようだ。
証拠に、彼女は安心したような……あるいは落胆したような表情を見せている。
「その髪型をした時のお前はな、可愛いんじゃなくて……綺麗なんだよ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……んん……もうっ!」
そしてリーリヤは、今度は顔を真っ赤にして怒り半分、恥ずかしさ半分という表情を俺に向けてきたのだった。
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