悪役令嬢は仲間と共に旅立つ
レオンは王城に戻ると、真っ先に
つい先日、冒険者ギルドから『各地で亜種の目撃情報が頻発している』という報告が届いた。さらには、どこが出所かもわからない『魔王復活も間近』という噂が他国で囁かれ、ゲーデル王国は危険視され始めているという。このままでは国交にも支障が出て、国民に隠し通せなくなるのも時間の問題。早急に対策を講じる必要があった。
————————
前倒しで慌ただしく決まった出立式の日。
ユーリ達は王城のバルコニーに姿を現した。救世主達の登場に国民が歓声を上げる。
レオンは手を挙げて応えながらも、民の反応を伺っていた。彼らの笑顔を守る為にも必ずやり遂げなければならない。自ずと挙げていない方の拳に力が入った。
レオンの心情を察してか、ユーリがそっと肩に手を置く。真っすぐな視線を向けてくる頼もしい婚約者にレオンは頷き返した。
その様子を目にした人々が二人の名前を叫ぶ。
レオンが驚いて思わず照れたような笑みを浮かべた。その珍しい表情に釘付けになった人々から黄色い声が上がる。
「ん、んん!」
レオンの左隣にいたアンネが自分達の存在を知らしめるように、咳ばらいをした。慌ててレオンがアンネを、他のメンバーを紹介する。そして、最後の締めくくりに魔王討伐を宣言して王家の宝剣を掲げた。
最高潮に達した歓声を背に、彼らは王城を後にした。
「ねぇ……見た?」
隣に並んで歩くユーリにアンネがそっと話しかけた。ユーリは質問の意図が読めず首を傾げる。
アンネはにやつく顔を必死に抑えながら言った。
「ちらほらと学園のメンバーがあの中にいたじゃない。すごく驚いた顔をしてたわ!」
「ああー。まぁ、そうだろうな。彼らにとっては急な話だっただろうし」
「でも、中には予想していたかのような反応の者もいたぞ」
アンネとは反対の方からレオンが話しかける。ユーリは目を瞬かせながら呟いた。
「すごいな。二人ともそこまで見ていたのか」
アンネは優越感から、レオンは民の様子を伺っての事だが、まるで式典に集中していなかったと言われた気がして押し黙ってしまった。みかねたダニエルが後ろから声をかける。
「ほら、そんなことよりも早く馬車に乗ってください。日が暮れる前にはあちらについておかねばならないんですから」
すでに用意されている馬車へ、まずレオンとユーリに先に乗るように勧める。ユーリと一緒に乗るといってきかないアンネもついて行く。カイも後を追おうとしたがダニエルに止められ、もう一台の馬車に押し込められた。次いでダニエルも乗り込み、最後にエーリヒが乗ると、男だらけのむさ苦しい馬車が出来上がった。
一方、ユーリ達の方はまだ全員が乗り終わっていなかった。どちらがユーリの隣に乗るのか決めあぐねていたのだ。そんな二人を嘲笑うかの如く、どこからともなく現れたネコがレオンとアンネの間を通り馬車に乗り込み、ユーリの隣にちょこんと座った。ユーリが手を伸ばし頭を撫でると、ころんと転がりみゃーと鳴いて甘え始める。
レオンとアンネは顔を見合わせると溜息を吐き、大人しく二人並んでユーリの向かいに座るのであった。
ネコを可愛がりならもユーリの意識は二人に向いていた。密室で至近距離、これは二人の仲を縮めるチャンスなのでは?と思い至り、ひたすら黙り込んでネコを可愛がる。……決して、途中から二人の存在を忘れてしまったわけではない。
終始無言というなんともいたたまれない道中、ようやく馬車が目的地まで到着すると真っ先にアンネが飛び出した。
新鮮な空気を取り込むかの如く深呼吸をしている。次いでレオンが降り、ユーリをエスコートして降ろす。
馬車からアンネと同じような勢いで飛び出してきた二人。まるで地獄の中にいたかのような表情のカイとダニエル。そして、何故か満足気なエーリヒがゆったりと降りてきた。
アンネも気にかかったのか、カイに駆け寄ると「どうしたの? 大丈夫?」と声をかけている。
カイはアンネに心配されたことで少しメンタルが回復したのか、表情を緩めながらも小さな声でぽつりと言った。
「エーリヒ先生と乗るのだけは止めた方が良い」
同意するようにダニエルが頷く。
「どうしても避けられない場合は寝たフリをオススメします。アレをずっと聞かされるのはさすがの私でもキツイ……」
一同はエーリヒを見るが、本人は何処吹く風。『なんだ? 言いたいことでもあるのか?』と言った感じで視線を向けられ、揃って首を横に振った。
「と、とりあえずこれからどうすればいいんだ?」
「あ、ああ。こちらに皆さんどうぞ」
チシャ村出身のアンネが村へと誘導する。そう、拠点は魔王の森に近いチシャ村に用意されていた。本格的に森の中に入るのは明日以降になるが、その前に現地の冒険者達と合流して情報を共有するには持ってこいの場所だった。
アンネを先頭に村に入ると、一人の老人が待ち構えていた。
「オジジ!」
アンネが喜びの声を上げ、駆け寄る。小柄な己よりもさらに小柄な老人の頭を抱え込むようにして抱きついた。カイの「あ」という声はアンネの「久しぶりだねオジジ~」と感極まった声に掻き消された。アンネはつるっと丸まったオジジの頭をしきりに撫でている。
普段から
ひとしきり撫で終わったアンネがオジジから離れると、ようやく思い出したように呆気に取られているメンバーを見た。
「そうだった! オジジ紹介するね」
アンネは元の位置まで戻るとレオンを示して、「この国の王太子レオン様だよ」と紹介する。
レオンがオジジの前まで出て、挨拶をする。
「今回はご協力感謝します。何分私達はここら辺の事に詳しくない。色々とご教授願うこともあると思いますが、よろしくお願いします。報酬等はまた後日になりますが、こちらを」
懐から国王から預かった正式な書状をオジジに渡す。オジジはそれをうやうやしく受け取ると頷いて言った。
「ご丁寧にどうも。それで、アンネのお婿さんは誰なのかのう?」
「は?」
「ちょ、オジジ!」
「いやね、アンネはワシにとって実の孫のような子なんじゃが。この村を出ていく時に『村に戻ってくる時は絶対お婿さんを連れてくるから!』と意気込んでいてのう。楽しみにしておったんじゃが……」
オジジは開いているのか開いていないのかわからない目を一同に向ける。ふむふむと頷きながら一人一人を順番に見比べていく。あわあわとしているアンネを余所にオジジは進み出た。
「アンネをよろしく頼むのう」
とユーリの手を握ると、拝むように言った。
ユーリは一瞬きょとんとした後、その手を握り返すと片膝をついた。オジジの顔を見てしっかりと頷く。
「ええ、任せてください。アンネは私が必ず守ってみせます」
頷き合う二人を余所に、残りの面々は各々違った反応を見せていた。
アンネは真っ赤に染まった顔を両手で隠している。その隣に立っているレオンからは表情が抜け落ちていた。カイは今にもユーリを射殺さんとばかりに殺気を垂れ流しにしている。
ダニエルは何度目かわからない溜息を溢した。エーリヒはすでに興味を無くし、村に繊細に張り巡らされた結解を解析していた。
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