第20話 朱美さんの動揺
自宅に戻り、シャワーを浴び一息ついた所で朱美さんに電話をした。
『プルルルル……』と呼び出し音はするのだけれどいっこうに出る気配が無い。諦めて切ろうとした時、
『は、はい! きゃっ、 ガン! ゴン! ゴト……』と音がした。
なに? 床にスマホ落としたの?
『ご、ごめん』
「ちょっと朱美さん、大丈夫?」
『う、うん、だ、大丈夫だよ』
「今、家?」
『え! そ、そうだよ、家だよ』
なんで動揺してるの?
「今、話せる?」
『あ、うん、ちょっと待ってね』と言って何やら場所を移動するような音と、それから、バタンっとドアが閉まるような音がした。
『もしもし、何かな?』
明らかにヒソヒソ話の様な声だ。
「誰かおるの?」
『え! いないよ? どうしたの急に』
なんか怪しいな。まあ良いけど。
「昨日ありがとうね、葛谷さん呼んでくれて」
『ああ、全然。無事に帰れたんだ』
「うん、おかげさまで」
『恵梨香さん、大変だったんだから。もうヘベレケで自力で歩く事も出来なかったんだよ』
「わたしそんなんやったんや」
これは恥ずかしい。
『葛谷さん、家が近いって聞いてたから恵梨香さんのスマホから電話しちゃったの』
「うん、葛谷さんから聞いた。ごめんね」
『ううん、全然、気にしないで』
「でも朱美さんも結構飲んどったみたいやったけど無事に帰れたの?」
『う、うん。ちゃんと帰れましたよ、ははは』
「……」
なにか、胸につっかえる違和感。ずっと気にしていなかったけど、一つの疑問が。何故、今まで気にしなかったのだろう。
「ねえ、朱美さん。葛谷さんをどこまで呼んだの?」
『え? さっくんの家の最寄りの駅だけど』
違和感の正体はこれか。さっくんの家から私の家の最寄り駅までは小平君が一緒の電車の筈なのに、どうして私の駅ではなく、さっくんの家の駅まで葛谷さんを呼んだのか。
『あ、葛谷さんを見ちゃった。背が高くてカッコいいじゃん』
「うん……」
『こんなに飲ませるやつがあるか!って怒られちゃったけどね』
「ねえ、朱美さん。小平君は?」
『え!』
「わたしと小平君って同じ路線で、しかも私の方が早く降りるんやよね」
『あ、そうなんだ……あ! なんか小平君、また飲みなおすとか言って、さっくんの駅から一人で抜けたんだよ』
そういうことか……それなら解らないでもない。じゃあ葛谷さんに物凄く遠くまで迎えに来させちゃったんだ。
なにか釈然としないけど、一応辻褄は合ってる。
「そっか、とにかくありがとう、朱美さん」
『それより恵梨香さん、何もなかったの?』
「なにが?」
『何がって、ほら、葛谷さんと』
ぎく! 何も無かったけど、彼の家に泊まったなんて言えない。
「な、なんにもないよ!」
『変な事されてない?』
「大丈夫やよ。葛谷さんそういう人やないし」
されかけたけど。
『それならいいけど、あんなカッコいい人なら恵梨香さん許しちゃうんじゃないかと思ったよ』
「いやいや、付き合ってる訳やないし、ありえへんよ」
と言いつつも本当にあり得ないだろうかと自問する。
『ふうん、そっか』
「うん……」
見た目だけは良いんだけどねえ。
『でも、呼び出したらちゃんと迎えに来てくれるってさ、恵梨香さんの事好きなんじゃないの?』
そうであったら良いなという気持ちが少なからずある事を否定できないでいた。
「そんな事ないと思うよ」
『そうかなあ……あ! ゴメン、ちょっと電話切らないと。また今度ね!』と言われて一方的に通話を終了された。なんだったんだろう?
その後、さっくんと小平君にお礼のメールを送っておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます