第15話 乾杯
そんでもって金曜日、私と朱美さんはLINEで送って貰った住所を頼りにさっくんの家の最寄り駅のスーパーに到着した。
入り口脇の自動販売機の前にさっくんが所在なさげに佇んでいて私達を見つけると、
「加藤さん、葛谷さん」と声を掛けてきた。
「ああ、さっくん、今日はよろしくね」と朱美さんが言うので私もそれに倣って頭を下げた。
「うん、一応掃除はしておいたけどねえ、狭いから窮屈かも知れないよお」
「全然、場所をお借りできるだけでも有難いよ」
んだんだ。
すぐに小平君も合流した。
「ごめん、待った?」
「私達も今来たところだよ」
私達は四人でスーパーに入店し材料を集めて行く。
まずは鳥のひき肉だ。これが無いと始まんない。目当ての物をカゴに入れ、その他ひき肉に混ぜる材料もどんどんカゴに放り込んでいく。
予算いくらなんだろう? 全く気にせずにみんな好き勝手に欲しい物カゴに入れてけど大丈夫なのかなあ。
私は鍋に必要な物だけ選んで入れたけど、お菓子やアイスクリームを抱えてやってくる朱美さんや、ビールやチューハイを運んでくる小平君。鍋に全く関係ないウインナー等をこっそりカゴに入れるさっくん……ウインナーって……
それに小平くん、お酒はまだダメでしょう。
「小平君、お酒って……」
「いいじゃん。僕たちもう大学生だよ? 恵梨香ちゃんだって飲めるでしょ?」
そりゃ、悪ふざけで少しくらい飲んだ事あるけどさ。
「こういうのは雰囲気だから、少しだけでも飲もうよ、ね」とまた見つめられる。
まあ、小平君達のお金だから特に何も言わないけどさ。
会計を済ますと5千円ほどになった。それを男子が割り勘で払う。
やっぱり千円くらいは出した方がいいのだろうか。私は朱美さんの袖を引っ張り、
「千円くらい出した方がええんやないやろか?」と聞くのだけれど、
「気にしなくていいんじゃない?」と言われてしまった。
じゃあ、いいか。
4人でさっくんの家に向かう。私達女子はお菓子などの軽い袋で、お酒や白菜などの重い袋は男子が持ってくれた。
10分程歩くと壁が薄紫色の3階建てのマンションが見えてきて、
「あれだよ」とさっくんがレジ袋ごと手を上げて指を差す。変わった色の壁だ。新しくはなさそうだけど、古くもなさそうだ。
2階にあるさっくんの部屋に入ると部屋はちゃんと片付けられていて清潔そうだ。
部屋の真ん中にちゃぶ台があり、卓上コンロがすでに用意されている。
「土鍋はキッチンにあるし、調味料なんかも適当に使っていいからねえ」とさっくん。
男子二人はさっそくゲームの電源を入れて何か始めるようだ。さして上手くもない私の料理捌きを見られるのも嫌なのでゲームでもやっててくれた方が良い。
「よし、じゃあ恵梨香さん始めようか」
「おっけー」
私と朱美さんはキッチンへ向かいレジ袋から材料を取り出しキッチンへ並べて行く。
「朱美さん、野菜切っていってくれる?」
「うん、まかせて」
ひとまず土鍋に水を入れ昆布を一枚浮かして火にかける。
ボウルに鳥のひき肉を入れて塩コショウで下味を付け、そこに、生卵、すりごま、いりごま、刻みネギ、それと大量のすりおろし生姜をいれてコネコネと練る。
いつもなら水で戻した干しシイタケも刻んで入れるのだけれど、今日は戻す時間が無かったから割愛した。本当は入れた方が出汁が出て美味しいんだけど。
土鍋に入れた湯が沸騰する直前に昆布を取り出し沸騰するまで待つ。
沸騰したら一口大に丸めたひき肉を入れて行く。途中で丁寧にアクを取りながら鳥団子を茹でて、浮かんできたら酒と醤油を少し入れる。味付けはこれだけ。あとはお肉やお野菜から出汁が出る。
朱美さんが切ってくれた白菜の白い部分だけを縦にして入れて行く。その他にシイタケ、焼き豆腐、長ネギを入れて沸騰させて、最後に白菜の青い部分を上から被せる様に乗せて蓋をした。それをちゃぶ台まで運んでいき卓上のコンロに乗せあとは再度沸騰するまで待つだけ。
小皿や箸などは朱美さんがちゃぶ台に人数分並べてくれた。
「さっくん、このウインナーどうするんですか?」
私はずっと気になっている事を聞いてみた。
「ああ、それ、そのままビールのおつまみに食べようと思ってさあ」
このまま? まあ食べられるんだろうけど味気なくない?
「茹でましょうか?」
「いいよいいよ、そのままが好きなんだよ」
そうなんだ……。男の子って感じがした。
「はいはい、そろそろ出来ますよ」と朱美さんが声をかけると男子達はゲームをする手を止めてちゃぶ台に寄ってきた。
「よしよし、まずは乾杯しよう」
小平君がそう言ってレジ袋からビールやチューハイなどのお酒を取り出す。
「朱美さん、飲めるの?」
「あまり……だけど飲んじゃう」
キャピとか聞こえてきそうな表情で両拳を胸の前で握りながら言う。大丈夫なのかなあ。
「恵梨香ちゃんはどれにする?」
私も殆ど飲んだ事無いし、ビールは飲める気がしない。仕方なく桃のチューハイを選んだ。
「残った分は冷蔵庫入れておくから」とさっくんが残ったお酒を冷蔵庫に入れてようやく4人揃い、ひとまず皆プルタブを開ける。
小平君がビールの缶を胸くらいの高さまで持ち上げて、
「じゃあ乾杯!」と言った。
なんか大学生っぽいなと呑気に考え乾杯と私達も応えた。
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