異能者隠れんぼ
家宇治 克
第1話 芽吹と探偵社
小さな町の、小さな図書館。
年寄りすら来やしないような、静かな場所。そこで働きながら、こっそり本を読むのが好きだった。
館内の東側、文学が並ぶ書棚の一角。天井近くにある高い窓から差し込む光が、床に窓と同じ形を描く。そこが一番のお気に入りだ。
だが、今日ばかりは怠けさせては貰えないらしい。
「おう、相変わらず不熱心な態度やな」
会う度に
けれど、今日はいつもより、多めの会話をした。
「頼みがあるんや」
「頼み、けぇ?」
彼の人は、茶封筒を脇に挟んでいた。
***
必ずあの包帯無駄遣い装置に、今日こそは仕事をさせてやる! と決意していた。
国木田の熱意は分からない。……特に
探偵社にある面談スペースのソファーを陣取り、
「ちょいちょい、国木田ぁ〜。意気込むのはいいが、空回っちゃいねぇか?」
「俺の予定は完璧だ。空回ることは絶対に無い。あと国木田『さん』だ。ちゃんと敬称をつけろ。そういう所をきちんとしないと、社会に出てから苦労するぞ」
「はいはい、ご指摘どうも〜。だがよぉ、アンタが
白髪の
国木田という男は、真面目だがそれ故に面倒な性格をしていた。
朝八時きっかりに探偵社に来て、秒針まできちんと時間を合わせて仕事を始める。四日前、腕時計が五秒早いことを指摘した時は、泡を吹いて倒れた。彼にとって、予定通りとは命と同じ位に大事なのだろう。
「ま、まぁまぁ! 落ち着いてください。ほら、太宰さんのことだから」
白髪の少年──
国木田も「む、そうだな」と穏やかになったかと思うと、また怒りが再燃する。
「どうせ奴のことだ。入水か飛び降りか、どこぞで拾い食いをしてるか、毒でも飲んだか首でも吊ってるかだろうな!」
──その太宰、というのは、一体どんな奴なんだろう。
「なぁ、中島くんや。その『太宰さん』てのぁ、そもそも今日は来てたのけぇ?」
本に飽きて、芽吹は敦の傍に寄る。敦はパチパチとパソコンを打ち込む指を止めると、「見てないですね」とはたと気がつく。
「 敦! あの
「えぇっ!? ぼ、僕がですかぁ!」
「探偵社の中にいる敦はお前だけだろう」
「あ、じゃあ
「お前は探偵社から出るな」
そう云って、敦を『太宰さん』探しに行かせた。何ともケチ臭い男だ。
かれこれ一週間、こればかりを繰り返していた。
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